表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/38

第31話 夏の思い出

 

「はぁぁ……私はお昼寝するから、皆また遊んでおいでぇ〜」


 お昼を食べた後、南々子さんはそう言ってシートに横になってお昼寝モードみたいだ。

 俺は何というか、最初はタイムリミットに怯えていたが、決まってしまえば逆に吹っ切れた気持ちになっていた。


「これから色々あると思うけど、今日ぐらいは忘れて皆で楽しくやろう!」


 そう宣言すると、一瞬皆呆気に取られていたが、櫻と凛は優しく微笑んで、


「子供の時遊んだこーくんみたい」

「付き合い始めた時の孝輝みたい」


 言い終えると二人は睨み合い火花を散らしている……俺の話、聞いてるのか……?


「よく言った孝輝、それでこそ我が強敵()


 凛々しい表情で雄也はまた何かを出し始めた。


「これは南々子のボート型フロートだ、これを孝輝がーー」

「やめろ、こんなの人力で膨らませたらホントに酸欠で倒れるわ!」


 コイツは……俺を殺す気か。


「そしたら私が膝枕してあげるね」

「え……水着で膝枕……?」

「こーくん!!」


 思わず想像してしまった俺を凛が正気に戻す。


「じゃあ俺がやるか」

「久保君にはしてあげないけどね」

「わかった、膝じゃなくて胸でもいいぞ」

「そのまま埋めてあげるね」


 辛味の効いたトークも程々に、施設にある空気入れでフロートを膨らませた。 思えばビーチボールもこれでやればよかったのでは……。


「よし、凛乗れ」

「な、なんで?」

「一番軽い凛でまず安全性を確かめる」

「じゃあ、こーくんも……」

「お一人でどうぞ!」


 櫻が凛を抱き上げてフロートに乗せる……結構、力あるんだな。 まあ凛軽そうだから。


「か、怪力女!」

「小学生抱っこするのと同じだし」


 そして凛を乗せて海に入っていった。 三人でフロートに掴まりながら、俺の腰ぐらいまでの水位になった時。


「もう少し奥まで行ってみるか」


 雄也に促されて進んでいくと、


「結構来たね」


 そう言う櫻を見ると、もう櫻は鎖骨の辺りまで海に浸かっていた。


「もういいだろ雄也」

「そうだな」

「もう夏目さんじゃ足つかないね」

「泳げるし!」


 頬を膨らませる凛を見て、皆楽しそうに笑っている。


「よし、喜多川乗ってみろ」

「ええ!?」


 雄也の提案に驚く櫻。


「あんな大っきいの乗ったら沈んじゃうよ、ねーこーくん」


 凛はフロートの左側を持っている俺に向き、顔を近づけてくる。


「そ、その言い方ムカつくんだけど!」


 櫻の不満の声も聞く耳を持たない凛は、俺に顔を近づけたまま薄っすらと頬を染めて、


「こーくん」

「な、なに?」


 蕩ける様な艶っぽい顔の凛に、吸い込まれそうになる……。


「ちゅーしていい?」

「え……」


 凛の柔らかそうな唇が近づいて来た時、


「キャッ!?」


 フロートが傾き、凛が俺の向かいの櫻の方に体を取られる。


「この抜け駆けロリ!」

「なに? 戦いは始まってるんだからね!」

「よし喜多川、俺達もちゅーしよう」

「しない! 私も乗る!」


 櫻は左手で近寄る雄也の顔を抑えてフロートに上がろうとする。


「わっ! 落ちちゃうって!」

「私だってまだしてないだからね!」


 フロートに上がった櫻、女の子二人ぐらいでは沈まないみたいだな。


「その()()()()ってやめてよね! 今は対等の立場なんだから!」

「だからって私の前でキスしようとする!?」


 ……やれやれ、趣旨を聞いてたのかこの二人は。


「今日は、楽しくな!!」

「「キャッ!」」


 俺は思い切りフロートを傾けて、二人共海に落として頭を冷やしてやった。


「こーくん溺れちゃう!」


 足のつかない凛が俺にしがみ付く。


「泳げるでしょ!?」

「喜多川大丈夫か、俺に掴まれ」

「足つくから!」

「はははは! まだ頭冷えないみたいだな」


 四人で笑い合って波に揺られる。 こんな時間がまた来るんだろうか。


 これから其々の分かれ道があるだろうが、今日の日を俺は忘れないだろう。


 来年も、再来年も、夏はやって来るのだから。




ちょっと短いですが、箸休め的なお話です^ ^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ