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ボーニンゲン・ガンバローズ~熱き男たちの友情~  作者: きちやまきちこ。
第1章 ボーニンゲン・ガンバローズのメンバーたち
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3話 橙棒と少年

橙棒は恥ずかしがりやである。


幼少時、恥ずかしい出来事があったわけじゃない。

青年時、恥ずかしい出来事があったわけじゃない。


とにかく、恥ずかしがりやなのである。


そんな彼のポジションはキャッチャー。

一説によると「橙棒は恥ずかしがりやで、実はフィールドにも出たくない。だけどどうしても出なくてはいけないので、キャッチャーマスクをかぶれるキャッチャーになったのだ」というのがある。ただしこれは空想好きの桃棒の説なので、あまり参考にならない。というより、むしろまったく参考にならない。


ある日、橙棒は散歩をしていた。その日は雨が降っていた。みんな傘をさすので顔が隠れる。橙棒も雨の日は恥ずかしがらずに外を出歩けるのだ。


交差点で信号待ちをしていたとき。

目の前に少年が立っていた。その少年は傘を持たず、ずぶ濡れであった。どんな理由があるのだろう、何となくその少年は焦っているように見えた。橙棒は(傘で顔を隠しながら)その少年に話しかけた。

「傘はどうしたんだい?」

すると少年は(傘で顔の見えない)橙棒に事情を話し始めた。

「学校から帰ったら、机の上に置き手紙があったの。お母さんからで、体調が悪いから救急車を呼んで病院に行くって。僕、びっくりして病院に電話したら、お母さんが入院したって。それですぐに家を飛び出したから、傘、忘れたんだ。」

「どこの病院だい?」

「ニューゲンニーボン国立病院!お母さんが心配だよ…。」

そこはボーニンゲン国の首都、ゲンニーボンにある、国内では最高水準の病院である。しかしここからは少し距離があった。少年の足で行くとすれば、まだ一時間はかかるだろう。

「よし!」

橙棒は傘をたたみ、少年を肩車した。驚く少年だったが構うことなく、信号が変わった瞬間、全速力で走りだした。

ガンバローズで最も速く走るのは緑棒である。では、橙棒の走るスピードはどうなのか。これが、とても、とても、遅いのである。紫棒もビックリするぐらい遅いのである。当然、こんな街中で走れば目立つに決まっている。恥ずかしがりやの橙棒は、普通ならこんな行動はしないだろう。

しかし、橙棒は走ることを決意した。少年を少しでも早く、お母さんに会わせてあげるために。

途中、行きかうボーニンゲンたちがみんな橙棒と少年を見る。でもそんなことお構いなしに橙棒は走る。ずぶ濡れになってもいい、目立ってもいい。早く少年を病院へ連れて行ってあげたい!


「おい、橙棒!」


病院まであと半分、というところで信号待ちしていた橙棒を呼び止める声がした。橙棒が振り向くと、それは車の窓を下げて中から話しかけてくれた緑棒であった。

「どうしたんだい、そんなにずぶ濡れで!」

橙棒は事情を緑棒に話した。

「よし、わかった!すぐに僕の車に乗るんだ!」

橙棒と少年は緑棒の車に乗ろうとした。しかしずぶ濡れのまま走っていたので、服が濡れている。

「あのう、このまま乗ると車のシートが濡れちゃいますが…」

少年は心配そうに緑棒に言った。

すると緑棒、車から降り、助手席と後部座席のドアを開けた。雨が中に入り、シートが濡れていく。そして外に傘なしで出ている緑棒も濡れていく。最初、緑棒の行動に訳のわからなかった橙棒と少年だったが、呆然とする2人に緑棒がニヤッとしながら言った。

「僕も車も雨でずぶ濡れ。これで僕も君たちの仲間入りさ。」

「緑棒!」

橙棒は声が出なかった。少年が気兼ねしないように、緑棒自身はおろか、大事な車まで濡らすなんて…。

「ありがとう、緑棒!」

それは少年も一緒だった。雨でわからないが、おそらく泣いているだろう。

「ありがとうございます!」

橙棒と少年を車に乗せた緑棒はすぐに病院へ向かった。


10分後、病院の受付窓口の前に車が止まった。

「さあ、早くお母さんのところへ行ってあげなさい!」

橙棒が助手席から叫ぶと少年はシートベルトを外しながら言った。

「ありがとうございました!」

ドアを開けた少年は瞬く間に病院の中へ入っていった。

それを見送った笑顔の2人。

「あっ、雨も降りやんできたね。」

空を見ながら言う橙棒を、緑棒は笑顔でじっと見ていた。

「どうしたの、緑棒?」

すると緑棒はちょっと恥ずかしそうに橙棒を見た。

「いや、恥ずかしがらない橙棒を見ると、あの少年がうらやましくなってね。」


翌日。

試合を控えた橙棒がロッカールームに入ると、みんなが青棒のところに集まっていた。

「みんな、どうしたの?」

「おっ、橙棒、見ろよ、この投稿。」

青棒が手にしていたスマホには投稿サイト「Bwitterボイッター」が表示されていた。

「これこれ、この投稿動画だよ。」

青棒が橙棒に見せた動画を見て橙棒は焦った。

それはある通行人が投稿した動画で、雨の日、少年を肩車したボーニンゲンが街を一生懸命走っている、というものであった。

「すごいよね、こんな街中で。なんでこんなことしたのかな?」

紫棒が疑問を口にすると、薄紫棒が答えた。

「なんだろうね、なんかのパフォーマンスかな?すごい目立つよね!」

恥ずかしさでいても立ってもいられなくなり、自分のロッカーに向かった。

「おっ、新しいコメントがあるぞ!」

青棒がそのコメントを読み上げた。

「私はこの子の親です。入院した私を心配し、傘を持たずに出た息子。その息子のために肩車をして病院へ急いでくださったときの様子だそうです。」

「へえ、すごいねえ。」

「紫棒、まだ続きがあるよ。え~と、おかげさまで私は無事に退院ができそうです。見も知らぬ方、そして途中から車で運んでくださった方、本当にありがとうございました。」

その言葉を聞き、みんなに背を向けながら一人着替える橙棒。でも顔は満面の笑みだった。


しかし、その5分後。

遅れてやってきた緑棒にすべてをばらされた橙棒。

すぐにキャッチャーマスクをかぶってグラウンドに向かったのは言うまでもない。


それも試合開始の2時間も前に…。

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