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ボーニンゲン・ガンバローズ~熱き男たちの友情~  作者: きちやまきちこ。
第1章 ボーニンゲン・ガンバローズのメンバーたち
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29話 謎解きオヤジとふくらむ妄想

棒の富士が繁華街のど真ん中の高級クラブで、一緒に飲んでいるマンティス鎌切に、SNSの着信に返信しないことを不審がられていた頃、繁華街の外れのおでんの屋台では、二人のモテない謎解き酔っ払いオヤジが、冷酒を飲みつつおでんをつつきつつ、灰棒の行方が掴めないことについて、あーでもないこーでもないと、互いの自説を展開しあっていた。


そうしながらも、彼らがこの屋台の裏メニューであるできたての肉じゃがを食べようとしていたちょうどその時、おでんの屋台の主人のスマホに着信があった。


着信音が鳴った途端、二人の動きがピタッと止まった。


その着信は、二人の期待に反し、マンティス鎌切からのものだった。

棒の富士から例の話を聞いたのかと思った主人は、おもむろにスマホを取り出し、届いたメッセージの内容を見て、少し拍子抜けした。


(何でぃ、今度ここでみんなでおでんと酒を楽しむ会のメンバーを増やしてぇって話かよぉ。まぁ、狭い屋台だけどあと一人ぐれぇならギリギリ入るだろうから、それでいいんだったら来てもらってもいっかぁ・・・。)


そう思った主人は、思った通りの内容を文面にして、マンティス鎌切に返信した。


平棒が、棒の富士からの返信だったのか尋ねたが、主人は、あった通りのことを平棒に伝えた。


「なんだ、そうだったのか。ということは、あの二人、今夜は一緒じゃないのかな。」


そう尋ねる平棒に対して主人は、首を傾げた。


「さぁね、わかんねぇ。一緒かもしんねぇし、そうじゃねぇのかもしんねぇ。でもよぉ、そんなことより灰棒さんが一体どうなっちまったかだよ。」


そう言って、灰棒の行方不明について、再び持論を展開し始めた。


「ほら、灰棒さんが棒国の役人だったんだったらよぉ、さっきも言ったけどよぉ、きっと今の棒国政府の関係者みたいなのの連中の中に灰棒さんに恨みを持ってる奴がいてよぉ、そいつがきっと手下を使って灰棒さんを拉致ったんだぜぇ。」


平棒も、それに答えて意見を述べる。


「うーん、大将の説は、基本的には極端な説だが、灰棒くんならそれもあり得ない話じゃないからな・・・。フリーズランドに向かう飛行機の中で、乗客のふりをした棒国のスパイに麻酔なんかを知らない間に打たれたりして、それで、気を失った灰棒くんを、飛行機が到着したらこっそり連れ出して棒国に運び出す・・・みたいな感じだよな。棒国のどこか地下の組織の中で、気がついた灰棒くんは縛られて拷問にかけられているとか、ありそうだよな、確かに。」


「そうそう、麻酔もそうだけどよぉ、えーっと何だっけ?ボーテル(エーテルではない)とかクロロボルム(クロロホルムではない)とかだっけ?そうゆう薬物をたーっぷり染み込ませた布みたいなので後ろから鼻と口を押さえられて嗅がされたりしてよぉ。でもって灰棒さんが気ぃ失っちまったら一番後ろの座席にえっちらおっちら運ばれてよぉ、途中でパラシュートつけられて海にポンって落とされて海の上で待ってた仲間の連中に引き上げられて、そのまま棒国に拉致られたとかよぉ。ひょっとしたらよぉ、飛行機に乗ってるヤツら全員がグルだったりなぁんてこともあるんじゃねぇのかい?」


「まさかそんな・・・いくら何でもそれはないだろう。だって、灰棒くんが乗っていた飛行機は、国際空港を発着する正式な航空便なんだろう?飛行機の乗客乗員も全員棒国の一味だとしたら、そうするためには、飛行機を一機丸ごと乗っ取るだけでは恐らく足りないと思うのだが、それはあまりにも大掛かりすぎないか?だって、一味の目的は、灰棒くんというたった一人のボーニンゲンを拉致するだけだろう?」


「わかんねぇぞ、一人のボーニンゲンっつったって、灰棒さんはただのボーニンゲンじゃねぇからよぉ。あの人拉致るにゃあ、手間も金もかける価値があるって思う奴もいたって何の不思議もねぇだろう。てか、そんな奴、棒国にウジャウジャいそうな気もするぜ・・・。だからよぉ、そういう奴らならよぉ、灰棒さん一人を拉致るために、わざわざ空港の職員の中にも棒国のスパイとかをガッツリ入り込ませてるってことも十分ありうるんじゃねぇか?」


「あるいは、空港の職員を買収しているか、だな。」


「・・・それだ!きっと、ゲンニーボンとフリーズランドの空港の職員と、灰棒さんが乗ってた飛行機の乗客乗員全員が、この事件の黒幕に買収されたに違ぇねぇや。チックショー、灰棒さんを拉致った黒幕め、俺が見つけてとっちめてやる!」


「でも、もし本当に、その人たち全員が買収されていたとしたら、相応の資金力が必要になると思うのだが、それほどの資金力がある人って言ったら、もうあの人しかいないのではないか?」


「あの人・・・えっ?嘘だろ?待てやぃ!だって、あの二人、だいたいいっつも一緒にいるじゃねぇか。ってぇことはナニかい?あの人は、いつも一緒にいながら、灰棒さんを棒国に拉致ってどうかしちまおうって考えてたってぇのかい?」


「え?灰棒くんといつも一緒にいるって?いやそんなはずは・・・だってあの人は、チームのヘルメットを作る工場を宮殿みたいに立派なものにするようなことを、自分の独断と偏見だけで決めてしまうような人だぞ。いつも誰かと一緒にいるような人ではないぞ?」


「へ?宮殿?何だそれ?あの人そんなもん作っちまう趣味とかあんのかよ?」


「いやだから、趣味かどうかは私も知らないが、今言ったように、チームのヘルメットを作る工場を誰の同意もなしに宮殿にするような人だぞ?」


「いやいやちょっと待てよ、ガンバローズにそんな工場あったか?んなもんねぇだろ!」


「ん?ガンバローズだって?」


「ん?ガンバローズじゃねぇのかよ?」


「んっ?」


「んんっ?」


「・・・我々はさっきから、一体誰のことを言っているんだ?もしかしたら、それぞれ違う人のことを念頭に置いて話しているのかもしれないな。どうもそんな気がする。じゃあ、我々がそれぞれ、誰のことを思っているのか同時に言ってみようか。」


「なぁに言ってやがんでぃ、飛行機の乗客乗員全員を買収できるぐれぇの資金力がある人っつったらアンタ、あの人しかいねぇじゃねぇか。」


「あと、ゲンニーボンとフリーズランドの国際空港の職員全員もな。それほどの資金力があるって言ったら、あの人だよ。いいか、せーの!で言うぞ?せーの・・・!」


「黒棒さんだろぉ!」「モヒカンズのオーナー!」


「・・・え〜!!」


二人は声を揃えて、相手の答えに驚いた。


「いくら何でも黒棒さんはないだろう。無論黒棒さんも大金持ちだが、本当に黒棒さんが今回の黒幕だとしたら、こんな大掛かりなことをしなくても、灰棒くんと一緒に棒国に帰ってそのままどこかに彼を閉じ込めればいいだけの話じゃないか。その点、モヒカンズのオーナーは、灰棒くんとはそこまでの関係性もないはずだから、灰棒くんを拉致しようとするなら大掛かりな策を練る必要があるだろうし、あのオーナーは、チームメンバーへの待遇はいいが、その代わりにチームの選手やスタッフたちに、くだらない理由で理不尽な額の罰金を頻繁に科してるからな。そういうこともあって、モヒカンズはいつも大幅な黒字を計上しているし、オーナーも大金持ちなんだ。飛行機の乗客乗員と空港職員全員を十分買収できるぐらいのな。」


「今のアンタの話でモヒカンズのオーナーさんがものすげぇ金持ちだっちゅーこたぁわかったよ。でもなぁ、いくら金持ってるからって言ったって、灰棒さんと何の関係もねぇ人じゃねぇか。棒国の人でもあるめぇし、灰棒さんを拉致っていったいそのオーナーさんに何の得があるってゆうんだよぉ?ねぇだろ?だったら黒棒さんの方がよっぽど怪しいってなもんよ。もしかしたら、棒国の資源か何かを巡った利権とかの関係でよぉ、今の棒国の権力持ってるヤツと密かに繋がってるとかかもしんねーじゃねぇかよ。あの人の情報網の凄さだったらありうるぜぇ?だとしたらよ、いつも一緒にいるっつったって、黒棒さんにとって灰棒さんが邪魔になっちまうことだってフツーにあるだろうよ。敵を欺くのはまず味方から、っヤツなんじゃねぇのかい?」


「・・・」


そう言い合った二人は、自説の欠点を相手に指摘されて、互いに反論できなくなった。


自説をぶつけ合う二人の討論は、おでんの屋台のすぐ外にまで聞こえていた。


そこまで来ていた女─仕事終わりのセピア─が、歩みを止めて、立ち聞きしていた。


(あら、この屋台の中の人たちも、灰棒さんのお知り合いなのかしら。野球中継観てる人なら灰棒さんのことも知ってるんだろうけど、灰棒さんが今行方不明だなんてことは、お知り合いでなかったらわからないはず・・・)


セピアは最初からこの屋台に入るつもりではあったが、ここにきて、どういう立場で入るべきか悩む羽目になった。

灰棒の行方を気にする知り合いのうちの一人として入るか、それとも、何も知らないただの通りすがりの客として入るか─。

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