10.先代の“持ち物”。
これは、一体どういう事なのでしょうね?何故、うちの倉庫が、エスカルドの街のギルドに繋がっているのでしょう?いや、鍵のせいなのは分かっているのですが、時空間が無視されましたよね?レイナ様も疑問に思い、ギルドの方やもう一度、ギルドの外に出てみたりしたのですが、もううちの倉庫は消えていましたね。これって、“虚無魔法”!?いや、私知りませんけど!?
これは・・・“悪しき魔女”、シャルル・フィン・クライバー公爵令嬢の持ち物!?あの人は、300年くらい前の人です。じゃあ、私達が持ってきた持ち物って、全部“虚無魔法”がかかっているという事ですよね?
鍵は、空間が無視される。なら、時計は時空が無視されそうですね。杖は爆発ですか?ネックレスは・・・分かりませんね。どれも、売ったらまずそうなものばかり。
私はため息をついた。
同時に、レイナ様がやってきて、状況報告される。
「ここ、どうやらエスカルドのギルドみたいだわ。あの鍵によって、ここまで来てしまったようね。」
「・・・そうなんですか?」
私はエスカルドの街には来た事がないという体を装っているので、分からないフリをする。しかし、服装はいかにも貴族という感じがして、ギルドの雰囲気には合わず、浮いた存在になっている。今は幻影を使っていませんからね。使ったら、バレます。
私達は困り果てる。・・・と思いきや、レイナ様はここでもギルドの仕事を取りにいこうとなさる。いや、もう一度鍵を使用すればよいのでは?そんな事は頭にない様子である。寧ろ、ミヒャルド様を驚かせたいご様子。
ここにいると、ラファエル様やルーマ様が声をかけてきそうなものです。その予感は普通に当たりました。ルーマ様が声をかけてきたのです。
「・・・貴方達、ここら辺で見かけない顔ですが、何かお困り事でも?」
「ちょっと、観光がてら、来ましたの。」
レイナ様はそう答えました。ちょっと、で済む問題ではないのですが!?自邸とエスカルドの街ではどれだけの距離があるとお思いですか!?ツッコミを入れたい衝動に駆られます。ルーマ様は私を見て、正確に言うと私の格好を見て、こう続けました。
「そちらの淑女は、貴族様のようですが・・・?貴族の来訪は5日後だと伺いましたが?」
ちょっと、情報を漏らしたの、ラファエル様ですよね!?いくらなんでも、情報漏洩はまずいのでは!?この情報にレイナ様が食いつく。
「その貴族に会いに来ましたの!!確か、フォンラージュ公爵家で間違いないですわよね!!」
「えぇ、そうと伺っておりますが・・・。」
ルーマ様、戸惑い気味です。そもそも、レイナ様、この方が平民だと気付いて!!
「・・・あら?でも、貴方、格好を見る限り、ここの辺境伯の息子ではありませんよね?」
「辺境伯の息子は俺だ。」
ラファエル様、登場。随分、ふてぶてしい態度ですね。性格はそう簡単には直りませんか。しかし、以前よりも逞しくなった気が致します。それでも、不機嫌なのは、強盗事件で頭を悩ませているからでしょうか?貴方、こういうの真っ先に飛びつきますからね。
「で?ルーマが中々来ねーから、来てみたらどこぞの貴族に捕まってやんの。お前、どこの貴族?」
この態度にレイナ様がお怒りの様子。でも、この場合、連絡も入れずに、来たこちらが悪いのですよ?
「この度は、連絡も入れずに来てしまい、申し訳ありません。フォンラージュ公爵家の娘にして、名をメアリー・ラーゼ・フォンラージュと申します。」
挨拶を致しますと、ルーマ様が感心なされます。
「この方、きちんとしていてよさそうな貴族だよ。ラファエルもそうカリカリしてないで、自分も挨拶したらどう?それに、連絡を入れずに来る貴族はマクシアもいるし、あいつは態度が結構悪かったりするじゃない?」
あら、もう仲良くなっているのですね。貴族をあいつ呼ばわりするとは。殿方同士は仲良くなるのが早いのですね。ラファエル様はいい事を思いついたと言わんばかりの表情を浮かべ、嘲笑する。
「だったら、今、巷で名の知れた“カリン”という女の情報をくれたら、家に泊めてやるよ。その様子じゃ、泊まる所ねーんだろ?」




