姫は雪原に
『柑奈、愛してる』
「な、なによ急に……。そ、そんなの……アタシも同じよ……。理子、愛してる」
『じゃあ、これから私がなにをしようとしているのか……わかるよね』
「へっ!? そ、そんな急に……!」
『柑奈、大好き……』
「り……こっ……!」
「ほあああああああああああああああああああああああああっ!!」
「ひっ! 急にどうしたのあきむぅ!? そしておはよう!」
◆
「……なるほど、夢の中で網橋先輩に詰め寄られていい気分になっていた、と……」
「なっ!? ち、違うわよ!」
「違うの?」
「違わないわよ!」
「どっちなの」
「……と、とにかく祭、理子には絶対に言わないで!」
「じゃあこれから本人に伝えてくるとすr……いたっ!」
「ぜっ! たい! よ!」
「はい……」
アタシ、秋村柑奈は、星花女子学園の希望者だけが参加するスキー学習にやってきていた。正直スキーはそんなに得意ではないから気は進まないのだけど……まあ、冬休み中にすることも無かったし、自宅生である恋人に会える機会だし。
「まあ集団学習も昼食も終わって午後からは自由行動だし、先輩と二人で滑りに行ったら?」
「い、言われなくてもそのつもりよ!」
◆
「……で? どうしてこうなったのよ」
「私に聞かないで」
「元はと言えば、理子がスキー下手でコースアウトしたから!」
「私のせいで遭難した……と。そう言いたいの?」
「そんなこと言ってないわよ!」
「どうだか」
「はあ……せっかくの機会なのに……」
「私も、今度やる役が『スキーに熱中している少年』で、そのイメージを膨らませるために来ただけだから」
「……は?」
「なに」
「アタシよりも役のことを言うの!?」
「……だから?」
「そこは、たとえ最優先じゃなかったとしてもアタシのことを言ってほしかったのよ!」
「……いちいち、細かい…………」
「細かくない! 女の子はね、わかっていても声に出して言ってほしいことがあるのよ! そんなこともわからないの!?」
「……私も女の子なんだけど」
「あーもういいわよ! 男役でもなんでもやって、いっそ男になっちゃいなさいよ!」
「……ふう………………」
『……「あんた達全員を愛してやる」。いつだったか、君はそう言ってくれた。覚えているかな?』
「は……?」
先行して雪原を歩く理子の方から、声が聞こえてきた。……でも、その声の主は、理子ではなくて。
その声は、ネット配信限定のアニメ『絶対天昇天使オルサレリアン』に登場する、天使妃オルサールのそれだった。
『どうかね?』
「へっ!? ……も、もちろん、覚えているわよ……」
『すごく、嬉しかった。我々の存在が認められたみたいで……』
『オレ達、オマエにスッゲェ感謝してるんだぜ!』
今度は、少年漫画『闘絆・ユニヴァース』のラジオCDに登場した、馬力将。
「そ、そう……」
『その時、朕達は』
『キズナティック・ウェーブを受信しました』
今度は、子供向けのローカルキャラクターイベント『双丘大神官』のフェブラルラリルロレア大神官と、特撮ドラマ『超獣仮面使いライドラリア』の変身デバイス「ライドラリアッター」のシステム音声。
『たとえ、網橋理子がどんな姿になっても、貴女は誰か一人ではなくて、全員に平等に接してくれた。ああ、なんと素晴らしいことなのでしょう!』
『ボク達は、恥ずかしくて素直になれないんだベアー……。だから、君に怒られるのも当然なんだベアー……』
『でもねでもね、柑奈お姉ちゃんっ』
五分アニメ『後輩が荒廃したカフェで淹れるコーヒーは不味いですか?』の店主、芽麗名。マスコットキャラクター「ピンクマ」。ソシャゲ『米妹食べよっ♪』のエスカルゴ・コシヒカリちゃん。
いろいろなキャラクターが喋っていくなか、「網橋理子」はゆっくりと振り返って、言った。
「柑奈。貴女を愛しても、いい……?」