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番外編 ハッピーハロウィン 02

翌日からカリスの忙しい日々が始まった。

午前中は衣装づくり、午後になったらお菓子作りの為の勉強である。


ハロウィンの衣装についてはチャーチル家のメイドさんたちとアリアが手作りするらしい。なので、それ自体にカリスが加わるわけではないのだが、衣装のデザインやら材料集めには積極的に参加しているのである。


そうしてようやく衣装のデザインにが決まったので、今日はアリアと共に町に布や小物などを買いに来たのだった。

今日はクオンも同伴するつもりだったのだが、熱を出して急遽休みをとることになった。アリアならば別の日を指定してくるだろうと予想していたが、クオンがいない方が都合がいいらしい。

どういうことなのか分かってはいないが、アリアがその方がいいならばカリスにとっても問題はないので二人で町に来ている。



「あぁ、ここだな」

カリスはメイドさんが行きつけているという呉服屋の地図と目の前の店を交互に見つめ、そう言った。


この呉服屋は絹糸で織った反物だけではなく魔物から得られるいろいろな素材で作られた布も置いているらしい。特殊な耐性があるものから、見た目重視で艶のあるものや麻や綿などの素材感重視なものと様々だ。昨今では反物よりこちらの方が売れているらしいのだが、一緒に商品を陳列する事によって反物の売り上げも上がっているらしい。




この国では珍しい横開きのドアをガラガラとあける。中には黒と紺というシックな色合いの暖簾があり、それをくぐると聞いていた通りの色鮮やかな光景が目に飛び込んでくる。

「これはすごいな・・・」

「綺麗・・・」

カリスとアリアはそれぞれが物思いに感嘆し、そう呟いた。



「いらっしゃいまし。本日はどの様な商品をお探しでしょうか?」

店の奥から一人の女性がやって来る。着物で身をつつみ、髪を結い上げ、鮮明で綺麗な紅の唇に目元の泣き黒子が印象的だ。

「あぁ、今日はハロウィンの仮装用の布を探しに。そんなに高価な物でなくていい」

「オレンジ色と紫色、白と黒・・・。あっ、少しキラキラとした透明感のある布もくださいな!」

カリスが淡々と説明していると、割り込むようにアリアが陽気に答える。

そうすると、店の主であろうその女性は微笑ましそうにくすりと笑い、少々お待ちくださいませねっといって奥の棚の方へと歩いていった。


「おいおい、紫はなかったろーが・・・」

「アリアの衣装にはね。クオンの分の衣装に必要なの!」

カリスは初めて聞く話しに思わず「は?」と素で答えてしまう。

「クオンがいた所にはね、ハロウィンってなかったらしいの。初めて聞く言葉って言ってたわ!だからね、クオンも仮装して一緒にお菓子を貰いにいってもらおうと思って!あっ、サプライズにしたいからクオンには内緒ね?」

そういって人差し指を口元にあててし~っと言われてしまう。可愛らしいことこの上ないのだが、そんなことでは誤魔化されません・・・!

「あのなぁ・・・、そう言うことは事前に相談しろよ」

「相談したよっ!」

「はぁ?」

「メイドさんたちにっ!」

カリスがそう苦言を呈すると、さも当然とでもいうようにえっへんと誇るような顔で言われてしまった。


(俺に相談しろってことだっつーの!!!!)


なんだか釈然としないが、カリスのいないところではもうそういうことになっているのだろう。急な仲間外れに少しだけ苛ついてしまう。

というか、最近アリアは自分に相談も何もせずに事を進めることが多くなってきた気がするのだ・・・!けしからんっ!今度びしっと物申しておかねば・・・!


アリアとカリスの話が一段落すると、タイミングを見計らっていたとでもいうように先程の女性が二人のところに戻ってきた。女性が持っている黒色の箱にはアリアが注文した色の布が綺麗に並んで入っている。

「お待たせいたしました。こちら流行りの品でございます。生地がしなやかで縫製もしやすく、強度もあり、解れにくい作りになっておりますのよ。色合いも鮮やかに染められていて当店のお薦めでございます」

女性は色鮮やかな布を手にもち、そう説明してくれる。

この店では実際に手で触れてからの購入を推奨しているらしい。なので、アリアとカリスにもそれぞれ布を手渡し、すぐに触り心地や色味を確認してもらっていた。

そして女性は布を変え、次はキラキラとした半透明の布を取り出した。

「こちらは鉱布と言いまして、鉱石から抽出した液を固めて糸にし、絹と同様に織り合わせたものでございます。見る方向によってキラキラとした場所が異なってございますでしょう?鉱石の抽出加減によって決まるらしいのですよ。こちらは少し固めになっております」

そうしてこちらの布も同様にアリアに手渡してくれる。アリアもそれを見て、触って大喜びのようだ。申し分ないだろう。

「値段はいくらだ?」

「色布の方は一枚につき銀貨3枚、鉱布は銀貨7枚となります」

「ぼりすぎじゃないか?この程度の布なら色布は銀貨1~2枚、鉱布も銀貨5枚程度だろう」

カリスは傭兵あがりの使用人である。この国にとどまらず他の国にもいった経験がある。この国ではこの程度の色布など珍しくはないし、こちらの鉱布も密かに大量生産が可能になったものではないか、と思ったのだ。

「あらあら、そうはおっしゃいますが、これらの品は質が良いのですよ」

「そうか?それにしては触り心地があまり滑らかではないな。そうするとこの店の反物もたかが知れてる」

先程までにこにことしていた女性の眉がきりりっとあがる。どうやらとても雲行きが怪しい・・・。アリアも不安になってきょろきょろとしながら二人の成り行きを見守っている。

「・・・・・・。色布銀貨2枚、鉱布銀貨6枚で宜しいですか?」

「鉱布は銀貨5枚だな」

女性の堪忍袋の尾が切れたらしい。だが、口を大きく開いて何かを言おうとしたその瞬間、店の奥から男性の愉快そうな笑い声が聞こえてきてあわやというところでその女性は踏みとどまった。

「かっかっかっ!アヤネに値切り交渉するとはにいちゃんもやるたいね!」

「兄貴っ!そんなん言ってる場合じゃなかたいね!わてらの店はこいつに馬鹿にされたんよ!!!」

男はまぁまぁまぁとアヤネと呼ばれた女性を宥めつつ、二人の間にわって入ってくる。

「そりゃ、お前がその嬢ちゃんの身なりば見て貴族と思って高い値段ばふっかけたけんよ。見透かされた時点で負けたいね」

「でも・・・・・・!」

男は言い訳しようとするアヤネを制し、アリアとカリスに頭を下げた。

「おいはアギトと申しやす。にいちゃんもお嬢ちゃんもすまねぇなぁ。おいに免じて許してくれや?」

「いつもこんなことをしてるのか?」

「はっはっ!貴族様がたにはたいていなぁ。ここでは貴族には高く売って、そうでない街の者には安く売っとるとよ?商売っていうんは庶民に安く売りゃ客を呼び寄せ、貴族には高く売りゃさらなる客ば呼び寄せるったい!そういうもんなんよ」

そういってどこも悪びた様子もなくにっと笑われる。カリスはそれに少しため息をついた。

「なるほど、だから値段を書いてないのか・・・。確かに一理ある。だがな、それが貴族にばれれば一大事だぞ?」

気のいい男にほだされたのか、カリスも真面目に忠告などしてしまう。

「ええんよ。その時はその時!それにな、布なんて贅沢品よ。通常なら買えんやつもおる。そういう奴等にもおいたちは衣服で身を飾る楽しみば知ってもらいたいけんねぇ」

かっかっと笑う姿はなんとも頼もしくも見えるし、何も考えていないようにも見える。

「それじゃあ、アリアは色布銀貨2枚、鉱布は銀貨6枚で買うわ!」

それまでずっと黙っていたアリアが急にそんなことを言い出す。目が少し輝いているように見えるが気のせいだと思いたい・・・。

「おいおい、俺の言うこと聞いてたか?」

「うん!銀貨一枚じゃ変わらないかもしれないけれど、これで布の買えない人たちに出来るだけ安く売ってあげてほしいの!」

「おまえなぁ・・・」

なんとなく事の流れが決まった気がする。カリスはこの小さなご主人様だけには敵わないのだ。

二人の様子を見ていたアギトは感動したとばかりにアリアの手を握りしめ、ぶんぶんと縦にふりはじめる。

「おおきに、嬢ちゃん!それだけでもかなり助かるんとよ?いや~、嬢ちゃんは出来た子たいね~」

「そうでもないよ。それにこれはアリアが稼いだお金じゃないから、アリアが大人になっていっぱい儲けたらもっと高く買ってあげるね!!」

「おおきに!おおきにっ!!!」

アギトは涙でも滲んできたのか目頭を指で抑えている。一挙一動が芝居のようにも見える。


(いや、もしかしたら全部芝居か・・・?)


結局、カリスは合計14枚の銀貨を支払い、二人はにこにこ顔のアヤネとアギトに店先まで見送られた。

なんだか騙されてる気がする・・・。猛烈に騙されてる気がする・・・・・・。

それでも隣を見ればほくほく顔のアリアが歩いている。それに結局のところ、カリスとしてもアギトやアヤネには嫌な感情など生まれなかったのである。


今は材料を無事に買えたことを良しとして、カリスは午後からの菓子作りのことを考えることにした。



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