番外編 ハッピーハロウィン 01
ハロウィンが近くなってきたので、本編とは関係のない番外編です。こちらものんびり更新していきますのでお付き合いくださいませ!
ここミヴァネルという国でもハロウィンと呼ばれるお祭りがある。子供はお化けや妖怪に仮装して家々を廻ってお菓子を貰い、家にいる大人は子供たちのためにお菓子を用意する。
お菓子を貰えなければ子供たちは持っている魔法のペンで落書きをする。落書きをする場所は基本的に人の顔が多いのだが、たまに家屋や高級そうな物に落書きをして怒られる子供もいるそうだ。
でも、決して焦ってはいけない。それは魔法のペン。ハロウィンの一日が終わればそれは自然と消え、後も残らないからだ。
魔法のペンじゃなくて本物のペンを使っていたら?それはご愛嬌なんて優しい言葉で済まされることはない。本気で悪戯しちゃう悪い子供にはそれなりの罰が待っているのだ!
いいね、君たち。決して忘れてはいけないよ?ハロウィンはほどほどに楽しむのが大切だからね!
と、ここまでがこの国のハロウィンの宣伝文句みたいなものだ。とはいってもこの宣伝文句は王都ミルヴァでは有名なものなのだが、技術都市アテナスへ行くとそこには魔法がないわけで魔法のペンも存在しないのだという。それでもかなりの技術が発展している都市であり、魔法のペンに代わるものがあるのだとか噂で聞いたことがあるのだが。
とある貴族の従者であるカリスはその宣伝文句の書かれた用紙を見て眉間にシワを寄せていた。
面倒くさいと思ったわけでも嫌に思ったわけでもない。ただただハロウィンに用意するお菓子を考えているのである。
「買ってくるのでもいいんだが・・・」
作った方が喜ぶよな?多分・・・
カリスは自分が仕えている小さな可愛いご主人様を思い浮かべてそう思う。
きっと買ったものを渡したとしても喜んでくれるだろうが、作った方がことさらよく喜んでくれそうな気がする。
普段ならそんなことなど考えることもないはずなのに、クオンという別の使用人にべったべたな主人を見ていると何となくカリスの負けず嫌い精神が疼くのだった。
「しょうがない、これはアリアのためだ・・・」
そう、これは自分の為ではなく主人であるアリアのため。決して自分のためではないのだ・・・!
自分に暗示をかけるように心の中でそう納得し、カリスは市場調査(ミヴァネルでいまどんな物が流行っているのかを調べる)をすることにしたのだった。
屋敷に帰ると待ち構えていたとでもいうように、主人のアリアがカリスの方に駆け寄ってくる。
「カリスー!ねぇ、聞いて・・・」
勢い込むように言葉を発していたのにはっと気づいたような仕草を見せ、アリアは身なりをきちりと整え始める。そうして一呼吸おいて、カリスの方を向き直り次のように告げた。
「・・・カリス、お願いがあるの。数日後にハロウィンがあるのは知っているでしょう?それにアリ・・・、私も参加したくて!衣装を見繕うのをお手伝いしてほしいのだけど・・・」
アリアがこういう丁寧な言葉遣いをすると年齢よりもずっと大人っぽくみえる。いつもがちょっとくだけた言葉で話しすぎているというのもあるのだが、子供はくだけてるくらいが丁度いいとカリスは思っているのだ。
お気楽そうに見えて貴族というものは見えないしがらみや仕来たりなどがあって大変なのだろう。
そんなことをあまり感じさせないアリアは凄い、そう思ってカリスはアリアの頭を撫でる。
「あぁ、それは別にいい。それより、二人っきりの時はそんなにかしこまらなくていいぞ」
アリアには自分といるときくらい自然でいてほしくてそのように告げる。
とはいえ、他の者から見れば言葉使いを気をつけるべきはアリアではなくカリスの方だろう。だが、歳の差がありすぎるからなのか、それとも二人がこんなにも堂々としているからなのか、他の者がそんなことをいう日など到底来ないのだった。
そうしてカリスがそっとアリアの顔を覗くとなんだか不服そうにしているのに気づいた。
あぁ、そうか!ここは誉めるべきだったのか・・・!
折角ちゃんとした言葉遣いでお願いをして来たのだから誉めてほしかったのだろう。だが、しまったと思っても、もう取り返しのつく筈もない。
それは、ここまできて「でも今のは良かったぞ!」などと巻き返せるポテンシャルをカリスが持っていないからだ。
なので、カリスはこほんと一つ咳払いをして誤魔化すように「で、何の仮装するんだ?」と、質問してみる。
すると、アリアはまだ少し不満顔だが、カリスに少し屈むようにジェスチャーをしてくれる。
カリスはこれにすぐに従い、屈んでアリアと目線の高さを合わせてみた。すると、アリアはカリスにこっそりと耳打ちをする。
んー、なるほどな・・・!
アリアが耳打ちした仮装はきっとアリアに似合うだろう。とはいえ、カリスがアリアに似合わないなどと思うことなど殆どないような気はするのだが、ここは気にしたら負けなのである。
二人は互いににやっと笑いながら視線を交わす。その姿はまるで子供が秘密の悪巧みでもしているかのようだ。
すると、こんこんっと扉のノックの音が聞こえ、一人の少年が入ってきた。
「アリア様どうでしたか?」
「クオンが言った通りにしたらばっちりだったよ!」
計画通り!のような会話。そんな二人のやりとりを見て、アリアがカリスよりも先にクオンに相談していたということが分かってカリスはなんだか釈然としない気持ちになった。従者として負けた気がする・・・。
しかし、そんなカリスになんとクオンは救いの手を差しのべてきたのである。
「ふふっ、それはアリア様がきちんとした言葉づかいでお願い出来たからですよ!ね、カリス様?」
「あぁ、そうだな・・・。ちゃんと出来てた」
ナイスフォローだ、クオン。
カリスが心の中でころりと手のひらを返していると、そうとは知らないアリアはぱあっと明るく笑いすごく嬉しそうだ。
この顔を見てしまってはしょうがない。アリアが先にクオンに相談していた件は気付かなかったことにしようとカリスは心の中に誓ったのだった。