01話 クオンという名の少年
玄関につくとそこには予想通りの人物がいた。
「クオン、おかえり」
「カリス様!遅くなってしまいすみませんでした。アリア様も心配されていたようで・・・」
そう言いながらクオンは自分に抱きついている少女に目を落として少し困ったように笑っている。
「あぁ、大丈夫だ。問題ない。」
遅くなったといっても広い町であるし、買う物も一つというわけではないのだから謝罪するほどのものではない。なので、別に本気でそう思って言っているわけではなさそうだが、念のため安心させるようにそう声をかける。そうするとそれに反応したのは声をかけられた当事者ではなく、その人に抱きついたままの自分の主人であった。
「えーーーっ、今度町に行くときはアリアも連れていって!」
なんという我が儘だ・・・。そう思ってため息をついていたら、クオンがさも当然であるかのように「わかりました」と返答していた。
いやいやいやいや!!!!
「あんまり甘やかすな。それでなくてもこっちはお嬢様の我が儘に付き合うのに毎日てんてこ舞いなんだぞ・・・・・・。」
勘弁してくれという風に両手をあげてみせたが、あまり意に返してくれていないらしい。
「大丈夫ですよ。警護なら俺で十分ですし、カリス様のお手はわずらわせません。」
アリアを撫でながらなんでもないとでも言うかのようにそう告げてきたのだ。
確かにクオンの強さは大人顔負けのものなのである。
この国には異世界からプルースという魔物が度々干渉してくることがあるのだが、クオンの強さはそれに対抗するための組織である騎士団にもひけを取らないとカリスは推察している。とはいえ、騎士団の隊長クラスになるとそう甘く見れるものではないし、実際にクオンと戦ったことがあるわけではないので実力がどこまであるのかは定かではない。思ったより強いかもしれないし、物腰や身のこなしだけのはったりで実は弱いかもしれないからだ。長年傭兵をやっていたカリスは人を見る目も長けていると自負しているので、自分の予想がそんなに外れているとは思っていないのだが念には念を。万が一にも自分の主人を危険にさらすことなど出来ないのだ・・・!
それに反対する理由はもうひとつある。
「お前もまだ子供だろ?子供はそういう仕事はしなくていい。」
カリスの言うそういう仕事とは危険と隣り合わせの仕事、つまり護衛などの戦闘が関わることである。貴族の娘であるアリアには魔物だけではなく、他の貴族や貴族位を妬む者から襲われる危険性がある。というよりも、どちらかといえばそちらの方の危険性の方が高い。なのでたかだか町に出かけるだけでも最低でも一人は護衛となる者が必要なのである。それを子供のクオンにさせるわけにはいかない。いかにクオンが実力者であったとしても、カリスには子供に戦闘などという危険な行為をさせたくないのだ。これはもうカリスの我が儘と言われても信念でもあるため一歩も引けない案件なのである。
「え~~~、でも~・・・」
「でももだってもくそもない!」
引き下がってきたのはお嬢様だが、カリスは主人に従順な従者という訳ではないので直ぐさまそれを却下した。それでもなお食い下がるというならおやつ抜きの刑を執行するまでである。
そんなことを考えていると、アリアが先に何か言う前に口を開いたのはクオンだった。
「アリア様、ここはカリス様に従いましょう。それに俺と二人では行けませんが、カリス様が用事で外に出かける時と俺が外に出かけるときが重なればアリア様も一緒に町へいけますよ。」
クオンはそういってにこりとアリアに笑いかけている。
た、確かにその通りなのだが・・・!!!!
「そっか~!じゃあクオンが出かける時にカリスにおつかい頼もう~~!」
アリアはぱんっと音をたてながら両手を合わせて満面の笑みを浮かべている。
はぁ~・・・、結局は俺の面倒ご・・仕事が増えただけだ。というかクオンはアリアを超絶的に甘やかす風潮がある。それがアリアがクオンになついている要因の一つでもあるのだが・・・。
「少し使用人としての教育もしないとな・・・」
カリスはアリアが楽しそうにクオンに町の様子やお店のことなどを聞いている時にそんなことを呟きながらこれからのことを憂いたのだった。