序章 とある日のこと
カリス=アフィルナ:元は傭兵をしていたが実力を認められてとある貴族のお嬢様の従者になった。生まれつき片目隻眼だが、目元にある二つの傷があり、それによって見えなくなったのかと思われている。17歳。
アリア=チャーチル:チャーチル家の一人娘。カリスの主人。淡いピンク色の髪に大きなリボンをつけている。7歳。世間知らずで少し我が儘なところがあるが、正義感が強く、優しい。
(アリアちゃんは他の方のキャラクターになります)
クオン=バレル:ここ最近、チャーチル家に雇われてきた使用人。10歳。年のわりに大人びた雰囲気がある。知識欲が大盛で、よく本を読んでることが多い。綺麗な金色の髪に灰色の目をしている。
日差しの強いとある何もない一日。
ふぅっと溜め息のような少し重たい息をはく。お嬢様ももうそろそろ歴史の勉強を終える頃だろうか。そう思いながらカリスは手元の小さくて可愛らしいチョコレートケーキに柑橘のシャーベットをのせていた。お嬢様のおやつにでも、と用意しているものだ。もうすぐ15時、きっとお菓子がたべたいとか我が儘を言い出すに決まっている。
「カ~リ~スぅ~~~!!!!」
ほら、来た。俺の小さなお姫様。
「どうかしましたか?お嬢様」
「クオンがいないの・・・!」
「そうですか」
すぐさまその様に答えてから、心の中で「ん?」と思い直す。
「おやつを食べに来たんじゃないのか?」
思ってもいなかった言葉に思わず主人に対する敬語が抜けてしまう。だがそんなことなど彼の小さなご主人様はどうでもよいらしい。
「お腹もすいたけど、クオンと一緒に食べたいなって思って!」
と、元気よくカリスに答えている。
そうきたか!!!
ただ甘いものが食べたいと言われると思っていたから他の使用人の行動まで把握してないぞ・・・!
「書庫は探したのか?医務室は???」
「お勉強終わってからすぐに行ったけどいなかったの・・・」
そうか、そう短く返しながら頭の中でクオンと呼ばれる使用人の行動パターンを思い返してみる。
クオンとは少し前にこの屋敷にきた使用人のことだ。10歳という年齢のわりに剣術にたけ、知識量も専門家が目を見張るものを持っている。礼儀は正しく誰からも好かれるが、たまに子供に似つかわしくないほど達観したような様子を見せたり、誰かと話しているような素振りを見せていると思えば急に怒りだしたりとわけの分からない行動も多い。
カリスにとっては使用人として優秀な子どもであると共に、少し気味が悪い少年であった。
なのにこのお嬢様ときたら・・・!!!
歳も近いしお兄ちゃんみたいー!となつくどころかここ最近はクオンの後ろを雛鳥のようについて回っているのだ。危機感無さすぎではないか!!!?と少し苛立つ自分がいる。
とはいえ、自分としてもクオンに対してはお嬢様に危害を加えないだろうと思っているからこそそれを許している状態なのだ。
それに苛立っている理由はそれだけではない。こっちの方が貴女の小さい頃から貴女のお世話をしてきてるんですけどね!など、少し子供らしい焼きもちのような感情がカリスの中でくすぶっているからだ。
カリス本人がそれを認めることなどないのだが・・・。
話は逸れたが、カリスがクオンの行動について思案を張り巡らせていると、他の使用人が少し前に言っていたことを思い出した。
「あぁ、そういえば買い物に出掛けると他のやつが言ってたな?」
「えーーー!!!!アリアも一緒に行きたかった!!!」
「アリアじゃなくて"私"な、お嬢様。それにそんなに大した買い物じゃないからもうすぐ戻ってくるだろ」
少したしなめつつも落ち着けようとしていったのだが、こちらの話など全く聞いていないらしい。
片腕を組み、右手を頬に当てて、今考えてます!のポーズを可愛らしく決めている。そうしているうちにアリアは何かを閃いたらしい。少し興奮ぎみにこちらの方に向き直っている。
「カリス!私たちも町にい・・・」
「駄目だ」
お嬢様が言い終わらないうちに、短く告げる。
「何で~~~!!!?」
頬を膨らませながら怒っている姿は何とも愛らしいのだが、そんなことで流されるカリスではない。
「貴族の娘がそんなぽんぽん町に出るもんじゃない。それにもうすぐ次の習い事が・・・」
「ただ今戻りました」
カリスがアリアをたしなめているまさにその時、まだ声変わりのしていない少年の声が聞こえてきた。
そうするとさっきまではぷんぷんと可愛らしく怒っていた小さなお姫様は「クオンだー!」っと玄関の方へ駆け出して行ってしまう。
「俺の話も少しは聞け・・・!」
誰もいない部屋で小さくぼやきつつ、お嬢様のあとを追いかけるようにカリスも玄関へ向かっていった。