史乃ちゃんの場合。
「シェリーはどうしておデブなのにそんなに可愛いの~?」
カウンターに座ってシェリーの顔をブニブニ引っ張ったり、潰したりする女の子。シェリーの顔はゴムのように伸び縮みするのでかなり可笑しな顔になっている。さすがにシェリーが気の毒になってきてやんわり注意する。
「史乃ちゃん、ウチのマスコットをあんまり苛めないでくれる?」
「だって。同じおデブなのに扱い違うんだもん。シェリー、お前は私の仲間でしょ~。シェリーは可愛い、可愛いってさ~。」
「史乃ちゃんだって可愛いわよ。」
史乃ちゃんは最近よく来てくれる女子大生だ。
ぽちゃぽちゃでふんわり丸い女の子。
とても可愛い。
食べることが大好きでとても綺麗に食べる。
リズムに乗って流れるように食べ、見惚れているうちにお皿はいつの間にか空になっている。初めてお店に来たときはまるで手品を見ているようで感動した。
そんな文乃ちゃんは最近合コンに励んでいるらしい
なかなかカップルになれずヤキモキしている。
「一緒に行った友達はカップルになっちゃって、私と行くとカップルになれるってジンクスまで生まれたのに私自身はまるっきり駄目。太めが駄目なのかなぁ。」
「そんなこと無いわよ。ぽっちゃり女子流行ってるじゃない。そこら辺の針金女子より温かみがあっていいとアタシは思うけど。」
「みんな、聡子さんや文さんみたいだったらいいのに~。」
「あははっ。可愛い史乃ちゃん、お待たせ。さあお食べ。」
私は頼まれたオムライスの量をほんの少し減らし、サラダを添えた物を出した。
「ありがとう。今日のオムライス、サラダがのっててカラフルで綺麗。やっぱり美味し~い。」
ニコニコしながら流れるように食べる史乃ちゃんを見ていると作り手の私はとても幸せな気持ちになる。
「史乃ちゃんは本当に美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があって嬉しい。」
「あははっ。」
史乃ちゃんはスプーン片手に笑う。
「俺も史乃の食ってる姿見てると、すっげえ腹減るんだよなぁ。」
テーブル席からお会計にやって来た男の子が史乃ちゃんに話し掛けた。
「うわっ。田中じゃん?!」
どうやら2人は知り合いらしい。
史乃ちゃんはお皿を隠すような仕草をした。
田中と呼ばれた男の子はからかうように言う。
「やっぱ、食うな。」
「あらっ、あなた達知り合いなの?どおりで史乃ちゃんが来るようになってから貴方もここに来るようになったものね~。もしかして、もしかしてなのかしらぁ?」
文さんがからかうように言うと男の子は真っ赤になってしどろもどろになった。
「いや、全然。偶然ですって。」
「その割には史乃ちゃんが来る日に限ってテーブル席によくいるのよ。」
「全然気付かなかったんだけど。。。」
男の子は俯いて財布を探っている。
小銭をジャリジャリ出しながら
「お前のこと好きなんだ。」
と言った。
史乃ちゃんは固まっている。
文さんは固まっている史乃ちゃんを揺すって
「好きですって~。」
とはしゃいでいる。
どうやら史乃ちゃんの連敗続きの合コンも今日で終わりのようだ。