紋章
紋章
皇帝ヴィルヘルム・フリードリヒ3世はドイツ諸侯を晩餐に招いた。カイザーは皇帝の間のステンドグラスの下にある皇帝の座に偉大に腰をかけていた。
プロイセン帝国はヴィルヘルム3世の手によって栄華を極め遠くシルクロードから清の皇帝の貢ぎ物の隊列がシルクロードに延々と連なっているほどカイザーの権威は世界に轟き渡っていた。
今回、ドイツ諸候を晩餐に招いたのは、カイザーの後継者選びについてだった。
カイザーは絶大な権力を誇っていたが後継者がいなかった。カイザー死後のドイツ連邦は恐らくまた元の争いを始めることがわかった。カイザーはなんとしてもドイツ諸侯の忠誠をこの場で勝ち取りたかった。
ドイツ諸侯がザワザワと城の大食堂の入り口をくぐって口々に後継者は私がなるべきだなどとわめき立てていた。そこへカイザーがしっ黒のマントと金の錫杖を見せつけて有無を言わせぬ風格を保ち静々とテーブルの主席へ座った。一同は静まりかえって皇帝を注目した。カイザーは優しく若々しくハンサムな美貌で会釈した。一同は忙ててカイザーに挨拶し、本日の夕げに招かれた謝意を述べた。
カイザーは一同の顔を順々に見回して、カイザー死後のドイツ・プロイセン両国を統治するであろう者達に日頃の忠誠の謝意を表し、「ドイツ・プロイセン両国に神のご加護があらんことを!」とワインの鉄のコップを一同に向かって差し上げた。「神のご加護があらんことを!」と一同は口々に言って各々のグラスのワインを呑み干した。
カイザーはイスに座り直してマントのすそをイスの外に追い出し「さて」と柔らかな口調で話の切り込みとした。
一同は互いに目を合わせてカイザー方をの向き話を聞く用意を整えた。その時に一人だけ、皇帝を敵意で見ていた若い辺境伯がいた。この若者の名をトムカイヒルマンと言った。まだ幼さの抜けぬこの辺境伯はカイザーに殺意があるかのような眼でじっと話をきく準備を耳をかっぽじってしていた。
カイザーは「ん」と一つ喉を通した後、「みなも知ってる通り私には子息が一人もいない。私の死後従ってプロイセンを統治するものはあなた方諸侯のなかより誰かと言うことになる。もし我こそはと思う者がいたら、ここで挙手して欲しい。誰かいるか。」
一同はしんと鎮まり返って願い出る者は一人としていない。その時、かの若い辺境伯が突然カイザーに向かって物を申した。
「カイザー、あなたはなぜご自分で指名なさらないのですか。あなたほどのお人でしたら皇帝の格のある者など一人でおわかりでしょう。あなたは皇帝としてその権威を行使なさらないのですか。私はいつも決まってあなたは少し謙虚すぎると思っています。いかがでございましょう。
カイザーはこの辺境伯の顔をよく観察した後こう言った。
「私は指名するつもりなどない。指名したら戦争になる。お主の言うことも一理あるがしかしまだ考え方が若い。ここにいるもの達はみな神の名の元に集まった者達。その資格があろうとなかろうと、神のご加護があれば最後にはうまくいく。それをわかってくれ。名は何と言う。」
「トムカイヒルマンと言います。ドイツ辺境伯のトムカイヒルマンでございます。私は陛下こそ真の皇帝。世襲してこその両国治まるものと考えます。いかがでございますか皇帝陛下。」
「みなの者、トムカイヒルマンの意見をどう思うか。忌憚なく申せ。私がそのようにゆるす。みなの者、いかがか。」
するとおそるおそる手を上げた老伯爵がいた。名をマイゼンスターと言った。
「私はこのように後継者の器ではございません。しかし私はトムカイヒルマン殿のおっしゃることに賛成しかねます。ただ皇帝直々にお選びになれば、我々争うのはこの私目を目付としていただければ可能でございます。重ね重ね無礼ではございますが、私はこう思うのでございます。」
「よし、それではこうしようではないか。私は3日のうちに後継者を決める。その間に諸侯は選挙をして一人後継者を推薦せよ。私の選んだ後継者が受け入れれば良し、受け入れぬも良し、お前たちの人物が受け入れるも良し、受け入れぬもよし、少なくともそれで一歩進めるではないか。
カイザーはそう言って主席の後方に大きな丸い円で描かれた〝鷲〟の紋章に向かってひざまづき手を左肩に当てて忠誠を示し、大ホールをまるで何事もなかったかのように扉を侍従に左右から開けさせ、まるで無かなにかのように出て行った。




