魔王と討伐隊
おばあちゃんがまだ生きていた頃、庭で取ってきた木の実をすり潰して粉末状にし、お姉ちゃんの作るケーキの下地に混ぜてもらっていた。
木の実はそのまま食べるのもいいけれど、少し砕いたくらいがちょうどいい。ボリボリ食べるには木の実はボリュームがありすぎる。アーモンドでもクルミでもそれは変わらない。
湖の近くの休憩所で、特命さんこと、〝ストローベリ〟さんから魔王の話を聞きながら、私はバッグに入れていた木の実を囓っていた。
「魔王って、おとぎ話に出てくるようなやつ?」
「実際の魔王はあのような者ではありません。我々は長年ドラゴンを退治するため、様々な武器を使いました。投石機や、ボーガン、鉄砲などと言うものも使ったことがあります。しかし、我々が倒したことがあるのはただの一匹。しかも、倒したのはいわゆるドラコンスレイヤーと呼ばれる謎の人物の一太刀です。実際は我々はドラゴンを退治したことがないのです。
しかし、魔王はそのドラゴンを食べていたのです」
「食べていた?ムシャムシャって?」
「そうです。ドラゴンの鱗は我々の剣では歯が立ちません。それを魔王はムシャムシャとかぶりついていたのです」
よっぽど歯がいいのだろう。お姉ちゃんとどっこいだ。
「魔王はドラゴンを食べていた。。。それだけ?」
「いえ、魔王はドラゴンを食べていただけではありません。その後、我々の元へ訪れ、このように言ったのです。『国王はどこにいる?』」
喋るのか。なかなかの博識のようだ。
「我々はこれは国王への宣戦布告とみなし、急いで特命を送ることにしました。それが私です」
「あのー、その魔王だけど、自分で魔王だって言ったの?」
「。。。いや」
だろうね。魔王って、勝手に自分で言うのはちょっと自意識過剰すぎる。
「その魔王さんはいまは何してるの?まだドラゴンをムシャムシャ?」
「いえ、魔王はその後我々の駐屯地が気に入ったらしく、駐屯地の宿舎にいます。腹が減ったときは、どこかへ行き、また帰ってくるという」
くつろいでるじゃん。
「とにかく!今すぐにでもこの一大事を国王に伝えねば!おわかりいただけましたかな?シフォンさん!」
あまり事の重大さは伝わってこなかった。