そして世界は変わり出す
男の人は豪快に食べるのがいいというのは嘘だ。
ポロポロこぼしながらパンを食べたり、ソースを口の周りに付けて食べる様は浅ましい。少なくとも私はそんな人とテーブルを一緒にはなりたくない。
森の要塞都市から同行している、討伐隊の特命さんは食べ方が汚い。
湖の近くの休憩所で地魚のムニエルをいただいていたが、一気に食欲が失せた。
この男は食事を楽しんでいない。きっと、早く食事を終わらせたいというタイプなのだろう。
年は30くらいか、髪は脂ぎっていて、爪は汚い。話す言葉は少し訛りがあって、私を見る目つきはなんとなくいやらしい。
「いやー、あなたのような方に同行いただけるとは旅も楽しくなりますな!」
言動がそもそも軽い。
「特命さん、私は王都とは逆の方角を目指しています。ここで別の手段で向かってもらえませんか?」
思い切って言ってやった。特命さんは目をパチクリして驚いていた。
「なんと!国の一大事をですよ!そん助けをしてくれないのですか?」
「私も家が一大事なんです。母が危篤なんです。もう亡くなっているかもしれない。。。とにかく早く帰りたいんです」
私の必死の訴えに特命さんは神妙な顔つきになった。
「この伝達によって、国にどれほどの衝撃が走るかわかりません。それほどのモノなのです。シフォンさんのお母様が重篤なのも十分理解した上で、あえてお願いをしたい」
ムリっ!!!
「あのー、もし?あなた様はストローベリ様では?」
いちご??
「いかにも。あなたは?」
「私は2月の討伐隊に派遣された者の妻です。名前は。。。」
「2月の部隊か。。。」
女性の言葉を遮り、〝いちご〟と呼ばれる特命さんは考え込んだ。
「奥さん。。。2月の部隊は、竜の討伐を終えております」
「じゃあ、旦那は。。。」
女性の声が弾む。
「いや。。。旦那様はおそらく別の作戦に参加されています。いまはまだここでは言えないのですが、今度の作戦は長期にわたるものです。時期に国から報告があるでしょう。それをお待ちください」
特命さんはそう言うと、ナイフとフォークを置き、頭を下げた。
「シフォンさん、私の特命とは、先ほどの女性の旦那にも関係あることなのです。いまや、我々は呑気にドラゴンなどの相手をしている場合ではないのです」
葉たばこを噛みながら特命さんは目をこすった。
「戦争でも始まるのですか?」
「いやいや、シフォンさんには本当のことを言いましょう。我々はいま魔王と戦っているのです」