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旅の始まり

80年代から90年代に流行ったRPGリプレイ全盛期へのオマージュとして書いてみました。

王道RPGの世界を目指して書いていこうかと。

馬車なんてモノは貴族とかお金持ちが優雅に乗るモノであって、今みたいに全力で走らせるモノではない。だって、車体は跳ねるし、お尻は座席に打ちつけられて痛い。


これは腫れたな。


さっきまでボロネーゼを運んでいた食堂のウエイトレスが、なんでこんなことをしないといけないんだ、シフォンはそんなことをさっきから何遍も頭の中で叫んでいる。



「ここの店の魚は腐ったものを出すのか!」


たまに難癖をつけてくる客が、この食堂には定期的にやってくる。そんなやつは大体この港から遠方の国まで行かされる討伐隊に多い。

彼らは遠い見知らぬ国まで窓のない船で連れて行かれ、竜たちと戦わなければならない。

いくら給料がいいからって、得体の知れない竜なんかと戦わされるんだ、ちょっと荒くなるのはわかる。ただ気に入らないのはうちの食堂のランチにわざわざ難癖を付けることだ。


「うちの魚はさっき捕れたばかりの魚なんだからね!腐ってるわけないじゃない!」


「なんだと-、小娘ぇ!」


どんな荒くれ者にだってシフォンは負けていない。こんな男に負けていたら、港町の食堂では働けない。


「まぁ、待てよおっさん。そんなことで女に手にあげるなんて最低だぜ」


そう、こういうときは勘違いした優男が私をかばって前に出てくれる。まさにテンプレ。何度も見てきた光景だ。そしてその優男が勝てば、私を口説き、負ければ、荒くれ者が暴れて店を壊そうとする。



今回は優男があっさり荒くれ者にのされてしまった。ダサい。


「何なんだよぉ、この店はよぉ!!」


荒くれ者がテーブルを持ち上げた。周りの客は引いただけで、誰も助けてくれない。

しょうがない。シフォンはスカートのポケットに手を入れ、指輪をはめた。


ポケットから手を出し、指輪にキスをする。指輪に付いている黒い石から黒煙が上がり、シフォンの腕に絡まる。彼女は煙を纏った方の腕で荒くれ者の胸倉をひねりあげる。


「お客様のご迷惑になりますので、ご不明な点は後日改めてどうぞ!」


シフォンは思いっきり腕を振り、荒くれ者は扉を突き破り外へ放り出された。すでに気絶をしているようだ。

これで食堂はまた静かに。。。というか、お客さんは誰もいなくなってしまった。

これはまぁ、よくあること。



「あらあら、シフォンちゃん、またそんな乱暴なことしちゃったの?」


店の主人で姉のフォルカがのんびりした口調で厨房から声をだす。


「だって、お姉ちゃん、しょうがないよ。乱暴者はなんとかしなきゃ、お客さんだって怖がってたし。」



「ずいぶん荒いんだな、フォルカの食堂というのは」


そしてこれもテンプレ。私が暴れたあと、余裕をかました戦士無勢が評判を聞きつけ店に入ってくる。

うちは、美人姉妹の食堂として港から旅立つ人、また戻ってくる人たちに評判の店なのだ。

私ら姉妹となんとか仲良くなろうと色んな男がやってくる。でもそんなのは無駄だ。お姉ちゃんは婚約者の帰りを待っている身だし、私にだって恋い焦がれる相手がいる。。。と言っても、会ったことはないのだけれど。


「あなたがフォルカさんかな?それともあなたは妹さん?」


馴れ馴れしく話しかけてくる戦士は、身なりもよく、都会ではモテるタイプなのだろう。


「いえ、姉は厨房です。何でしょうか?ここは食堂なので、何か頼んでくれないと、困るんですが。両替と道案内は他へどうぞ」



「おー、それは失礼。じゃあ。。。看板メニューをお願いしようかな」


「はいよ!スペシャルボロネーゼ10人前入りましたぁー」


「えっ?10人前って??」


「お客さん、うちは海の男が満足できる大盛りが売りの店ですよ。みんなそのくらいペロリと食べていきますよ。それともお客さん、モグリ?」


男は黙ってしまった。やがて、お姉ちゃんお得意のスペシャルボロネーゼ10人前が出来上がった。




「ゲフッ。。、えーと、フォルカさんは出てきてくれるのかな?」


ボロネーゼでパンパンになった腹をさすりながら男は聞いてきた。


「あいにく、うちは衛生第一のお店なので、シェフは厨房から出ません。ご用件は私が承りますが」


とびきりの笑顔を作る。男は憮然としているが、渋々わかってくれたようだ。これは食い物屋の鉄則だ。食中毒が一番怖い。


「わかりました、ゲフッ。。えー、私がここに来たのは他でもありません、ゲフッ。。ドン・マッケイローからの伝言です。家に戻れ、母危篤とのこと」


「はぁー?!なんでそんな大事なこと、早く言わないんだよ!」


「いや、だって、まず注文しろって。。。」


「お姉ちゃん!お母ちゃんが危篤だって!どうしよう!」


こんな時でもお姉ちゃんはのんびりしている。

「うーん、困ったなぁ。私はこれから明日の仕込みをしないといけないし、シフォンちゃん行ってきてくれない?」


「なっ!?お姉ちゃん、お母ちゃん死んじゃうかもしれないよ!」


「シフォンちゃん、お母さんは死ぬときだって何だって娘が仕事を放り出していったら、きっと気を悪くするわ。こんな時はシフォンちゃんが急いでおうちに帰ってあげなさい。お父様もその方が喜ぶわ」


うちの家系は女性はとにかく働けという家訓がある。家の中の序列も女性上位。お父ちゃんもお母ちゃんやお姉ちゃんにはとにかく口答えができない。マフィアのドンなのに。


「じゃあいってくるよ。でもここから家って世界の反対側だよ?すぐに着かないよ」「それなら、そこの方はどうやってここまで来たの?その方にお願いしなさい。よろしくて?紳士の方」

「は、はあ、、ゲフッ。。私は人づてに伝言を伝えただけで、私がお宅から来たわけではありません。もしお戻りになるなら、このお金を渡せと言われているだけです」


男は銀貨の入った革のズタ袋を出してきた。袋の口が開いている。こいつ。。。少しちょろまかしたな!



私はその銀貨を受け取り、旅支度をした。近所の道具屋でマントとブーツを買い、動きやすそうなパンツもついでに買った。


さて、移動手段だが。。。町にある馬屋に行くと、早馬はあるが高すぎる。かといって、船で行っては時間が読めないだけに危険だ。


「シフォンちゃん、それなら裏の靴屋のドレバンさんに頼みなさい。あの方ならきっと何かいい手があるわよ」


ドノバンさんは、靴屋というのは表の顔。裏ではえげつない稼業をしているという、とっても怪しいおっさん。まぁ、でも私たちは嫌がらせなんかされたことないし、むしろよくお店に来てくれるお得意さんだ。


「そうかぁ、それは大変だな。よし、ちょうど昨日馬と馬車が手に入ったんだ。これをシフォンちゃんにあげよう」


「あげようって。。。こんなのもらっていいの??」


「いいんだ、どうせ持ち主はもう帰ってこない」


「帰ってこない???」


ドノバンさんのくれた馬車は、キンキラキンの、それはそれはお金持ちが乗ってそうな豪華な馬車だった。

しかも、馬は白馬。。。こんなのに乗っていいのか?しかしいまは急がねば。


翌日の朝、まだ日の出ないうちに出発となった。


「お姉ちゃぁーん!行ってくるね-!」


厨房で仕込み中のお姉ちゃんに出発の挨拶。


「シフォンちゃん、気をつけていくのよ。途中、何かあっても駆け抜けるのよ」


なんちゅう忠告なんだ。。。でもこれがお姉ちゃん流の贈る言葉。

私の珍道中が始まった。


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