ぼmb!
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渇いた。
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俺たちは必死で、砂漠のど真ん中を走り抜けていた。
走れども走れども景色は変わらない。
どこでもどこまでも灼熱地獄。
視界の端から端まで一面、日に焼けたブラウンの砂。
「爆発まであと二分と五十二秒だよ」
横で弟は笑顔で言った。
何にも面白くないけどコイツはいつもニコニコしてる。その笑顔は驚きの白さだ。
俺は諦めて足を止め、地面に仰向けに倒れこんだ。暑さとかもうよく分からない。背中が焼けてるような焼けてないような。
「ダメだ、もう見つかりっこないよそんな地球破壊爆弾なんて。どこまで行っても砂しか見えやしない。暑いし寒いし日差しが痛いし。お前ちょっとぐらい日焼けとかしないの?」
「僕は全身のメラニン色素が死に絶えてるからね。代わりに紫外線受けたときの生命リスクが跳ね上がるんだけど、こんなつばの大きな帽子かぶってるし長袖長ズボンだし、多分大丈夫だよ」
「まあ、どの道今から吹っ飛ぶんだけどな、俺たち」
「だね。結局最後までよく分からないままだったよ」
電話のベルが鳴り響く。衛星電話なので砂漠のど真ん中でも問題ない。俺は通話ボタンを押した。
声の主は聞くまでもない。今回の事件を起こした、つまりこの砂漠のどこかに地球破壊爆弾を設置した真犯人だ。
俺たちを爆弾探しの旅に誘った奴でもある。
『ハロニチワーってなあ! ようお前ら、爆弾探しは捗ってるかよ?』
「残念ながらこれから三十秒で地球の皆でお別れパーティーするところだよ。本当にとんでもないことしてくれたなお前」
『ハッハッハ、そりゃあいい! プレゼント交換には俺も混ぜてくれよ』
「お前の家に大量のハバネロまぶしたピザ送っといてやるよ」
『サンキュ、俺は辛党なんだ』
爆発まで残り二分。会話は完全に爆弾魔のペースだ。
弟が会話に首を突っ込んでくる。
「ねえねえ爆弾魔さん、地球を破壊するようなレベルの爆弾なんてどこで手に入れたの?」
『ん? そりゃあ俺様お手製だよ。正確にはコアを刺激し、重力崩壊を起こして超新星爆発を引き起こす。だから火力自体は地球が吹っ飛ぶほどじゃあねえのさ。まあ最終的には地球が自分で勝手に吹っ飛ぶけどな』
「へえー。でも地球の中心に自爆引き起こさせるような爆弾なんでしょ? 凄いね、もっと他の事に活かせばよかったのに」
『世界を自分でブッ飛ばす以上にイカした活かし方なんてねーよ。世界崩壊とかそれこそファンタジーの世界だったのにこれから俺の手で現実になるんだぜ。最高じゃん』
「最低だっての」
俺は呆れながら突っ込む。
どうしてこんな狂人にそんなテクノロジーが生み出せてしまったのか。神様仏様俺たちを見限ったのか?
ここが終着点。
人類自爆の巻。
ずごごごごごごごごごごごごごごごご。
爆弾が吹っ飛ぶ準備を始めたらしい。
地球破壊までのカウントダウン開始。
爆発まで残り一分。
「さあて、いよいよお前の計画が現実になるわけだ。気分はどうだい?」
『最っ高にハイだぜ。人類史上に類を見ない規模の無理心中だ』
「あーあ、これで人類滅亡かあ……もっとお腹いっぱい色んなスイーツ食べとくんだったよ」
「お前は欲がねーなあ……。これから何しようが一分で全部無に帰すんだぜ。どうせなら女でも押し倒してくるか」
「止めときなって、こんな砂漠のど真ん中に女の子なんていないよ。それに一分じゃ前戯も終わらないよ」
「早漏なめんなよ。十五秒でイッてやる」
『趣旨変わってんぞお前ら』
「お、やっと俺らのペースに乗ったな」
『中学の妄想盛んなガキでもそこまで早くないわ』
「ご丁寧な突っ込みどーも」
地響きが徐々に大きくなる。
残り三十秒。
「……クライマックスだな」
弟がこっちを向いて笑う。
いつもの〝ニコニコ〟じゃなくて、〝ニッコリ〟って感じの笑顔。
「兄ちゃん今までありがとう。無駄九割楽しさ一割だったけど今まで一緒で良かったよ」
「……一割でも楽しめたなら良かったよ。俺も、お前と一緒で楽しかったぜ」
『あ、ちょ、電話』
「水を差すなよ!」
最後まで締まらない。
まあ、俺たちらしいっちゃらしい。
俺は体を起こした。
今、この揺れを世界中が感じているんだろうか。
そう思うとなんだか感慨深い気がしなくもない。
じ、えーんど。
人々は一人残らず宇宙の塵になります。
それでは皆様ありがとう。
おやすみなさい。
『はああああああああああああああ!?』
爆弾魔が叫ぶ声。
どんっ、と地響きがした。
地面から衝撃が伝わって、俺たちの体は一瞬浮いた。気がした。
同時に弟と見た光景。
遥か前方で、爆弾が爆発した影響が。
高い高い砂柱があがった。
そして、吹き上がった。
水が。
噴水が。
新たなオアシスの出来上がり。
もう、世界は揺れていない。
「……あれ?」
「……地球、終わらないね。兄ちゃん」
「どうなってんだ?」
クエスチョンマークを浮かべた直後、爆弾魔から伝言がきた。
『……しくじっちまった。部下が計算違いで、地下千キロメートルの所に埋めるはずだった爆弾を地下十キロメートルの所に埋めちまったらしい』
どんな間違いだよ。
部下ポンコツ過ぎ。
電話のスピーカーの向こうで、部下と思しき電話相手を怒鳴りつける爆弾魔。
なんとも滑稽な話。
おめでとう部下。君は地球を救ったヒーローだぜ。
「……どうする兄ちゃん。このあとは?」
「んー、そうだなあ――」
俺は汗だくの体を起こして、歩き出した。
「とりあえず、女の子押し倒すか」
今日も地球は平和だった。
爆弾魔の計画……終
地球……これからも、ずっと。
現実逃避です。