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あかいせの短編シリーズ

ぼmb!

作者: 赤井瀬 戸草


      ***


 渇いた。


      ***



 俺たちは必死で、砂漠のど真ん中を走り抜けていた。

 走れども走れども景色は変わらない。

 どこでもどこまでも灼熱地獄。

 視界の端から端まで一面、日に焼けたブラウンの砂。

「爆発まであと二分と五十二秒だよ」

 横で弟は笑顔で言った。

 何にも面白くないけどコイツはいつもニコニコしてる。その笑顔は驚きの白さだ。

 俺は諦めて足を止め、地面に仰向けに倒れこんだ。暑さとかもうよく分からない。背中が焼けてるような焼けてないような。

「ダメだ、もう見つかりっこないよそんな地球破壊爆弾なんて。どこまで行っても砂しか見えやしない。暑いし寒いし日差しが痛いし。お前ちょっとぐらい日焼けとかしないの?」

「僕は全身のメラニン色素が死に絶えてるからね。代わりに紫外線受けたときの生命リスクが跳ね上がるんだけど、こんなつばの大きな帽子かぶってるし長袖長ズボンだし、多分大丈夫だよ」

「まあ、どの道今から吹っ飛ぶんだけどな、俺たち」

「だね。結局最後までよく分からないままだったよ」

 電話のベルが鳴り響く。衛星電話なので砂漠のど真ん中でも問題ない。俺は通話ボタンを押した。

 声の主は聞くまでもない。今回の事件を起こした、つまりこの砂漠のどこかに地球破壊爆弾を設置した真犯人だ。

 俺たちを爆弾探しの旅にいざなった奴でもある。

『ハロニチワーってなあ! ようお前ら、爆弾探しははかどってるかよ?』

「残念ながらこれから三十秒で地球の皆でお別れパーティーするところだよ。本当にとんでもないことしてくれたなお前」

『ハッハッハ、そりゃあいい! プレゼント交換には俺も混ぜてくれよ』

「お前の家に大量のハバネロまぶしたピザ送っといてやるよ」

『サンキュ、俺は辛党なんだ』

 爆発まで残り二分。会話は完全に爆弾魔のペースだ。

 弟が会話に首を突っ込んでくる。

「ねえねえ爆弾魔さん、地球を破壊するようなレベルの爆弾なんてどこで手に入れたの?」

『ん? そりゃあ俺様お手製だよ。正確にはコアを刺激し、重力崩壊を起こして超新星爆発を引き起こす。だから火力自体は地球が吹っ飛ぶほどじゃあねえのさ。まあ最終的には地球が自分で勝手に吹っ飛ぶけどな』

「へえー。でも地球の中心に自爆引き起こさせるような爆弾なんでしょ? 凄いね、もっと他の事に活かせばよかったのに」

『世界を自分でブッ飛ばす以上にイカした活かし方なんてねーよ。世界崩壊とかそれこそファンタジーの世界だったのにこれから俺の手で現実になるんだぜ。最高じゃん』

「最低だっての」

 俺は呆れながら突っ込む。

 どうしてこんな狂人にそんなテクノロジーが生み出せてしまったのか。神様仏様俺たちを見限ったのか?

 ここが終着点。

 人類自爆の巻。

 ずごごごごごごごごごごごごごごごご。

 爆弾が吹っ飛ぶ準備を始めたらしい。

 地球破壊までのカウントダウン開始。

 爆発まで残り一分。

「さあて、いよいよお前の計画が現実になるわけだ。気分はどうだい?」

『最っ高にハイだぜ。人類史上に類を見ない規模の無理心中だ』

「あーあ、これで人類滅亡かあ……もっとお腹いっぱい色んなスイーツ食べとくんだったよ」

「お前は欲がねーなあ……。これから何しようが一分で全部無に帰すんだぜ。どうせなら女でも押し倒してくるか」

「止めときなって、こんな砂漠のど真ん中に女の子なんていないよ。それに一分じゃ前戯も終わらないよ」

「早漏なめんなよ。十五秒でイッてやる」

『趣旨変わってんぞお前ら』

「お、やっと俺らのペースに乗ったな」

『中学の妄想盛んなガキでもそこまで早くないわ』

「ご丁寧な突っ込みどーも」

 地響きが徐々に大きくなる。

 残り三十秒。

「……クライマックスだな」

 弟がこっちを向いて笑う。

 いつもの〝ニコニコ〟じゃなくて、〝ニッコリ〟って感じの笑顔。

「兄ちゃん今までありがとう。無駄九割楽しさ一割だったけど今まで一緒で良かったよ」

「……一割でも楽しめたなら良かったよ。俺も、お前と一緒で楽しかったぜ」

『あ、ちょ、電話』

「水を差すなよ!」

 最後まで締まらない。

 まあ、俺たちらしいっちゃらしい。

 俺は体を起こした。

 今、この揺れを世界中が感じているんだろうか。

 そう思うとなんだか感慨深い気がしなくもない。

 じ、えーんど。

 人々は一人残らず宇宙の塵になります。

 それでは皆様ありがとう。

 おやすみなさい。


































『はああああああああああああああ!?』

 爆弾魔が叫ぶ声。

 どんっ、と地響きがした。

 地面から衝撃が伝わって、俺たちの体は一瞬浮いた。気がした。

 同時に弟と見た光景。

 遥か前方で、爆弾が爆発した影響が。

 高い高い砂柱があがった。

 そして、吹き上がった。

 水が。

 噴水が。

 新たなオアシスの出来上がり。

 もう、世界は揺れていない。

「……あれ?」

「……地球、終わらないね。兄ちゃん」

「どうなってんだ?」

 クエスチョンマークを浮かべた直後、爆弾魔から伝言がきた。


『……しくじっちまった。部下が計算違いで、地下千キロメートルの所に埋めるはずだった爆弾を地下十キロメートルの所に埋めちまったらしい』


 どんな間違いだよ。

 部下ポンコツ過ぎ。

 電話のスピーカーの向こうで、部下とおぼしき電話相手を怒鳴りつける爆弾魔。

 なんとも滑稽こっけいな話。

 おめでとう部下。君は地球を救ったヒーローだぜ。

「……どうする兄ちゃん。このあとは?」

「んー、そうだなあ――」

 俺は汗だくの体を起こして、歩き出した。


「とりあえず、女の子押し倒すか」


 今日も地球は平和だった。








 爆弾魔の計画……終

 地球……これからも、ずっと。


現実逃避です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  どうしてこんな狂人にそんなテクノロジーが生み出せてしまったのか。神様仏様俺たちを見限ったのか?、とか笑えるシーンが多い。 [気になる点] オチがつまらない。部下のミスってだけで地球が救わ…
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