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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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『不要』宣告と宣戦布告

放課後、生徒会室に呼び出された俺は何気なく窓の外を眺める。グラウンドでは野球部、サッカー部等の運動部が練習をする活気ある声が聞こえてくる。

「おい、こんな時間に俺たちを呼び出して何の用だ?」

苛立ちながら前方の豪華な席に座る生徒会長に呼び掛ける。先ほどの校内放送で呼び出された俺と目黒は生徒会長と向かい合い、並んで立たされている。部屋の中には生徒会長と俺、目黒のほか生徒会役員がそろっている。何度かこの会長には呼び出されたことがあるが、生徒会役員が総出とは通常ではありえないことだ。

「こんな時間に呼び出したことは済まないと思っている。」

生徒会長・磯子仁は豪華なイスに偉そうに座り、組んでいる足を組みかえ、全くすまないと思ってなさそうな傲慢な態度だ。

「チッ、人を呼び出しておいて偉そうに」

通常ではありえない状況に、動揺が隠しきれずに余裕のない悪態をついてしまう。

「おい、生徒会長に向かってその態度は何だ!」

いきなり、会長の後にたたずんでいた短髪で整った顔立ち(俺ほどではない)の男は睨みを利かせた。

「まぁいいじゃないか、大黒副会長。こいつらもいきなり呼び出されて動揺しているだけだ。」

「さすが、会長。御心が広い。」

副会長の大黒は会長に頭を下げながら答えた。おいおい、これが同級生に対する態度かよ。さすが王政学園・生徒会だ。

「戸越、今のは会長のご厚意に免じて許してやる。だが、俺たちは王政学園の生徒会で、こちらにいらっしゃるのは王政学園の絶対権力者・磯子会長だ。以後は十分注意して発言しろ」

はいはい、既に役員総出のところに呼び出されたって時点で注意しても遅いだろうけどな。まったく、俺の方が優秀でイケメンであると言うのに、「少し人望がある」だけでこの差だ。忌々しい。そんなことを考えながら自分を落ち着ける意味も込めて改めて部屋を見渡してみる。……そこで、一人の男と目が合った。その男―数学教師の滝は俺と目があったことに気付くと「ざまぁw」とでも言いたげなドヤ顔を向けてきた。―なるほど、そう言うことか。おおよそここに呼び出された理由を把握し、再び磯子の方に目を向けると

「まぁ、時間もないし、早速本題に入ろう。……もしかしたら薄々気づいているかもしれないが、今日は二人に残念なお知らせだ。……本日をもって戸越唯一、目黒里奈両名を退学処分とする」

……やはりそうだったか。まぁ、俺の方は授業態度が原因だろう。別にこの高校を退学になったからといって大したことはない。だが、予想外なのは……

「おい、ちょっと待て。納得はできないが俺が退学処分になる理由はだいたい分かる。しかし、隣にいる目黒の処分理由は何だ?」

この磯子という男は「なんとなく」とか「ムカつくから」とか子供のような理由で退学処分にするような暴君ではない。そんなことをしていればすぐにリコールされてしまうからだ。しかし、俺はともかく目黒の処分理由は俺が集めた情報では検討もつかない。

「さすがにお前は自分の処分については驚かなかったか。まぁ、あれだけ悪目立ちしてれば当然だ」

「まぁ、別に校則とか法律とか破ったりはしてないから普通の学校なら退学なんてありえないけどな。」

予想通りの反応と言わんばかりの磯子に俺は冷静に切り返した。

「でも、隣のこいつは何かしたのか?」

「彼女自身は特に何もしてないんだけど、まぁ、強いて言うなら「クラスの雰囲気を悪くしているから」かな」

磯子は手に持っていたボールペンを手で回しながら適当な調子で答えた。

「『雰囲気を悪くしたから』だと?」

思わず頭に血が上り言い方が少し荒くなってしまった。隣をみると、目黒は俯いたまま、特に何も言い返さない。

磯子は、説明を聞いて明らかに不機嫌になった俺の反応を楽しみながら説明を続けた。

「彼女がクラスなんかでいじめに遭っているのは知ってるか。俺としては学校にいじめがあるのは問題だと思い、2年2組の生徒や教師を何人か使って彼女を助けようとした。だけど、彼女はそれをすべて拒み、しかし自分の力で解決するわけでもなく、未だにいじめられ続けている。これによって、彼女のクラスの雰囲気は最悪。この影響でいじめが拡大しないように彼女には退学してもらうことにしただけだ。」

「それ、本気で言ってんのか?……」

必死に怒りを押し殺しながら磯子に再度問いかけた。

「もちろん、いじめを行ってた連中は普通に退学処分にした。」

いじめられて空気を悪くしたから退学だと?正気か?いくらいじめてた連中が退学したって?それがどうした。関係ないだろ!俺はふと隣の目黒を見た。

「……」

相変わらず俯いているだけで何も言わない。おい、自分のことだろ?何で何も言い返さないんだよ!

「まぁ、いじめる奴もいじめられる奴もどっちもこの学園には不要な存在だからな。仕方ないだろ」

磯子はあくびをしながら、適当に言った。俺はこの説明にこぶしを強く握り、怒りを爆発させた。

「ふざけんなっ!!」

さすがに我慢の限界だった。怒りにまかせて怒鳴り散らした。

「えっ!」

横では今までずっと俯いて黙っていた目黒が顔を上げこちらを向き、目を丸くして驚きの声を挙げた。

「いじめに遭って助けを拒んだからって『不要』だと!ふざけんな!何で被害者と加害者が一括りに『不要』にされるんだよ!」

そう叫び磯子につかみかかろうとしたが、あと一歩のところを後ろに控えていた役員共に取り押さえられた。

「おいおい、自分の退学が不当だと言って怒るならまだしも、大して仲がが良いわけでもない奴の退学でそこまで怒るやつも珍しいな。ましてや、お前のような友達一人作れない社会不適合者がこんなこと言うなんて面白いこともあるもんだな。」

磯子は笑いながら、取り押さえられた俺を見下し言い放った。

「そうだ。ついでに言っておいてやろう。お前の退学理由で最も大きな理由は普段からの傲慢な態度だが、もうひとつある。」

「お前も『不要者』だからだ。」

「俺が『不要者』だと?」

「当たり前だろ。少し頭がよくて、運動ができるからと言って、傲慢な態度でぼっちで協調性のない奴なんて不要に決まってるだろ」

磯子は嘲るような笑みを浮かべながら見下している。

俺はそんな磯子の様子を見ながら、ふと目黒と目があった。彼女の顔は悔しそうで、申し訳なさそうで、悔しさと自分の無力さが入り混じり今にも泣きだしそうだ。……目の前のクソ野郎に見下されたままってのもあるが、女にこんな表情させたまま、終わるわけにはいかんな。

「はは、ははは」

笑いが抑えられない……全く俺をヤル気にさせやがって。俺がこのクソ会長を這いつくばらせてやる。……そして、『不要者』だと言ったことを撤回させてやる。負けたまま退学を受け入れるなんて、この天才でイケメンな俺に許されるはずがない。

「なんだ、こいつついに壊れたか?」

いきなり笑いだした俺に驚き、俺を抑えつけていた役員共の手が緩む。

大黒がそんなことを言っているような気がするが俺の耳には届かない。俺はすっと立ち上がり目の前の会長に話しかける。

「おい、磯子。俺から言わせてもらえばお前こそ『不要者』だ。」

「なんだ?負け犬の遠吠えか?」

少し苛立ったようだがまだまだ余裕そうな表情で磯子は反応した。

「どっちが『不要』か試してやるよ。……俺たちが―俺とそこの目黒がお前から会長の座を奪ってお前が『不要』だって証明してやるよ。」

「……なんだと?」

俺の一言に磯子は眉をひそめ怪訝な表情を見せた。

しかし、さすがは生徒会長、すぐに冷静さを取り戻した磯子は

「別に選挙で勝負したいなら、すれば良い。だが、お前は既に退学宣告されている。」

そうである。退学宣告された生徒は本来なら翌日から学校に登校することは許されない。

「分かってる。だから、お前にもメリットをやる。お前がしばらく俺の退学を保留してくれるなら、俺は勝負に負けた場合退学後俺の進路をお前に決めさせてやる。」

「えっ!?」

不意に予想外の人物から驚きの声が上がった。声の主は隣に立ち、俺と一緒に『不要者』と断定された目黒里奈だった。ここにきて第一声目がようやく今か。

軽く苦笑いを目黒に向けて、俺は続けた・

「お前がニートになれと言えば俺は中卒ニートになるし、今からプロ野球選手を目指せと言われれば、無理とわかっていても野球選手を目指して練習しよう。どうだ?面白そうだろ?ただし、リスクを負うのは俺だけだ。俺が勝手に言いだしたことだし。」

最初は驚いた表情を見せた磯子だったが、すぐにニヤリと笑い、

「なるほど。おもしろい。それじゃあお前らの退学を1週間だけ待ってやる。せいぜいその間にまずはリコールさせられるように頑張ることだ。。」

 やれやれ、なんかノリで結構大きな賭けをしてしまったな。……まぁ勝てば何も問題ないか。


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