目黒調査
放課後、俺はなんとなく目黒のことが気になり、彼女のクラス2―2に向かった。教室をざっと見渡すが目黒の姿はなかった。
俺はドアの近くを通りかかった男子に聞いてみることにした。
「なぁ、このクラスに目黒里奈ってやつはいるか?」
「ん?目黒ならもう帰ったぞ。」
その男子は坊主頭をかきながら答えた。背は165センチくらいと少し小柄だが、筋肉質の体型から見るとどこか運動部に所属しているのだろう。
「目黒はクラスではどんな感じなんだ?」
「おいおい、あんたあんな地味で生意気のいじめられっ子のガキを気にしてるのか?悪いこと言わないからやめとけって」
「やっぱりいじめられているのか……」
俺はそうつぶやくと、イガグリ頭は大げさに両手を広げ、あざけるような調子でたたみかけるように続ける。いちいち鬱陶しいやつだ。
「もしかして、あんた目黒を助けようとでもしてんのか?あんな奴助ける価値ねぇだろ。」
「は?助ける価値がないだと……?」
俺は思わず眉をひそめた。しかし、ここでキレるわけにはいかないと必死に怒りを押し殺して聞き返した。
「おいおい、そんなに怒るなよ。」
イガグリは額に冷や汗を浮かべながら俺を制した。一瞬にして完全にビビってしまっている。
「勘違いしてるかもしれないから言うけど、最初のうちはあんたみたいに目黒を助けてやろうとした奴がいたんだよ。」
「どうゆうことだ?」
「あいつ自身が拒んだんだよ。目黒の奴何回助けようとしても『放っておいてください』『余計なことはしないでください』とか言って助けを拒否するもんだから最近では誰も助けようとしなくなったってだけだよ」
と少し焦ったように早口で弁明した。
「『助ける価値がない』っていうのはそういうことか」
今聞いた情報とさっき目黒が俺に取った行動は全く同じものだった。おそらく、彼女に手を差し伸べようとした人間に対しては全員ああいう対応をしていたのだろう。
「そうそう。だから、あんたも気にする必要ないってこと。それじゃ俺はこれで。」
そう言って、坊主頭は立ち去って行った。
その後も何人かに目黒について聞き込みを行ってみたが、同じような答えばかりでこれ以上の収穫はなかった。あきらめて、帰ろうと昇降口に向かって歩いていると、ふと校内放送が鳴った。
『生徒会長の磯子仁だ。生徒の呼び出しをする。』
周りにいた生徒たちが急にざわめいたり、歓声を上げたりと騒がしくなった。
「おい、だれか会長に呼び出されるみたいだぞ。」
「きゃー、私も磯子様に呼び出されたい」
俺の美貌に対する歓声や感嘆の声かと思い、歓声にこたえようと耳をそばだててみたが、どうやらその必要はなかったようだ。
「ばかか、下手に目つけられたらどうするんだよ」
「まさか、知らない間に目つけられるようなことしてねぇよな、俺たち」
「『生徒の呼び出し』ってことは教師ではないってことだよな」
歓声なんかは一部だけで大半の生徒や教師はおびえた様子でヒソヒソと話している。
そう。この王政学園では普通の高校と違うところがいくつかあるが、その最たる例が生徒会の権力である。通常の高校では生徒の代表者とか、仕切り役みたいな感じだが、この高校では少し違う。ここでは生徒会が学校の最高権力者なのである。「学校の」とつけるからにはその対象は生徒に限ったことではない。この学校における生徒会は教師よりも権力を持っており、その生徒会のトップたる生徒会長は言い過ぎでも何でもなく最高権力者なのである。例えば、今俺の目の前にいる磯子が「この学園の女子制服は明日からスクール水着だ」と言えば明日からの女子はスク水を着て登校してくるし(ちょっと一回やってもらいたいな)、「この教師はクビだ」と言えば教育委員会や理事長の許可なくクビにできるのである。だから、生徒や教師でさえも生徒会の言いなりであり、彼らにビクビクしながら学校生活を送っているのである
放課後のこんな時間に呼び出しか。珍しいな……一体こんな時間に呼び出されるかわいそうな奴は誰だ?
『2年1組戸越唯一、2年2組目黒里奈今すぐ生徒会室まで来い。』
……俺……だと?