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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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雨降って地固まる~『理解者』ってなんですか?~

 翌朝、昇降口前には予想通り人だかりができていた。

 その人だかりの先頭に何があるのかは分かっている。

「とりあえず、さっさと部室に行くか……」

 俺は人混みをそのまま素通りしていつも通り我らが部室資料室に向かった。

「うす。」

 軽く挨拶して教室に入ると

「遅いわよ!戦う張本人が一番遅いってどういうことよ!」

 いつも通り、鈴森の甲高い声が頭に響く。

「そうよ。もう一人の主役は一番乗りで来てるっていうのに!」

 浅田が鈴森に加勢してくる。―こいつら最近すっかり息ぴったりだな……主に俺に口撃する時に限って……

「戸越さんはいつも働きまくりでお疲れなんだよ!」

 そして、こちらもいつも通り、平常運転の荏原である。

「そ、それより早く会議を始めましょう。」

 そんないつものやり取りの中、目黒が会議の進行を促す。

「あぁ、悪いな。」

「……いえ、別に……」

 一応謝罪するが、素っ気ない返事を返される。

 ―俺こいつに何かしたか……?

「それじゃあ、改めて会長・副会長戦の内容を説明するわよ。」

 そう言って、浅田は説明を始めた。

 昨日磯子の発表によって再び選挙戦のルールが変更されることになり、その詳細が今朝昇降口に張り出される等して全校生徒に発表されていたのである。

 浅田が説明した会長・副会長戦の内容は次の通りだ。


 ①対戦内容は演説・質疑応答。生徒会長のみ、それぞれが演説を行い、そ  の後質疑応答を行う。

 ②その後、投票を行い票数の多かった組の勝利とする。


「なるほど。つまりボーナスポイントは一切なし。通常の純粋な選挙で勝敗を付けるってわけか……」

 ―ポイントは演説と質疑応答だな。特に生徒会長候補のみ行う演説は重要だ。ここでミスるとその後の質疑応答で集攻撃されることになるからな……

「とりあえず、重要なのは会長候補の演説ね。」

「演説ってことは台本考えないといけないわね」

「磯子は会長だけあって演説なんてやり慣れてるからな。完全にあっち有利じゃねえか」

「早速全員で演説内容を考えましょう。」

 他のメンバーも何をするべきか分かっているようで、早速作業開始の雰囲気になった。

「じゃあ、とりあえず浅田と芝浦は相手の出方を調べてくれ。それから鈴森と荏原は選挙運動を頼む。俺と目黒で演説の台本を―」

「一人でできます!」

 俺が全員に指示を出していると、目黒の声がそれを遮った。

「は?何を一人でやるんだ?ここはみんなで協力して―」

「台本は私一人でできます!―なので戸越さんは鈴森さん達と選挙運動に行ってください。」

 再び目黒の声に遮られた。その目は鋭く真剣そのもので、その口調は鋭く、攻撃性を含んでおり有無を言わさぬ迫力があった。

 しかし、その後「しまった」という表情で目線を反らし俯いてしまった。

「おい、目黒。遅刻したことなら謝ったじゃ―」

「そ、そういうことじゃありません。ただ、演説は私一人で充分ですから、戸越さんには選挙運動の方に行っていただきたいだけです……」

「そ、そうか……」

 三度俺の言葉を遮るが、今度はいつもの目黒に近い少しおどおどした口調になっていた。

 しかし、あくまで「近い」だけでどこか取り繕ったような印象が抱いてしまう。

 他のメンバーもいつもと違う目黒に戸惑い、ただ立ち尽くしているだけだ。

 ―おいおい、こんな目黒初めてだぞ。そんなに遅刻したこと怒ってんのか?それとも他に何かしたか?

 最近の出来事を思い出し、原因らしき出来事を探してみるが全く心当たりがない。

「そ、それじゃあ、とりあえず台本は目黒さんに任せて私達も行きましょう!」

 浅田が切り出し、それぞれ教室を出ていく。

「なんかあったら相談しろよ。」

 そう言って最後に俺も教室を後にする。

「自分は私に相談なんてしないくせに……」

 何か聞こえた気がして振り返るが目黒は机に向かい、無反応を決め込んでいる。

 ―気のせいか……

 俺は再び踵を返し、教室を後にした。


 そのまま日にちは経ち、会長・副会長混合戦前日。

 俺達は緊急会議を開いていた。

 会場はいつも通り資料室なのだが、雰囲気はピリピリしており緊迫しているため意識しなければいつもの場所・人・時間で行われている会議とは思えない。それほど張りつめた空気である。

 その原因は……

「ちょっと、目黒さん!台本がまだ全く書けてないって本当!?」

 いつも通り鈴森の甲高く、大きな声が響いているが、今日ばかりはこれが大げさでうるさいとは思えない。

「さすがに、本番を明日に控えて内容もほとんど決まってないのは……」

 浅田もまさかの事態に困惑している。

「す、すみません……」

 目黒が俯き、体を小さくしたまま小さな声で呟く。

 今まではほとんど別行動していた俺達だが、本番を明日に控え演説やら質疑応答の練習をしておこうということになり集まったわけだが……

「でも、まさか目黒さんの作業が全然進んでないなんて……」

 荏原の言うとおりまさかの事態である。今までどれだけ本番でミスをしたりしようと、目黒が期日までに自分の仕事を終わらせていないなんて初めてだ。

 昨日までも目黒と顔を合わせる度に進捗を聞いたが、大丈夫とのことだったため油断していた。

 今から思えば、どこか無理をしているような風でもあった。

 ―俺がもっとこいつのことを見ていれば……

 しかし、すべては後の祭り。大切なのはこれからどうするかだ。

「まぁ、過ぎたことは仕方ない。ここはみんなで協力して―」

「やめてください……」

「あ?どうした?」

 目黒の声が聞き取れず聞き返す。

「やめてください!」

 顔を上げ、こちらをキッと睨むと大声で叫んだ。

「お、おい。やめてくださいって……」

「いいですから!戸越さんは手を出さないでください!!私一人でだってできますから!!」

 不覚にもこの逆ギレのような態度に少し苛立ってしまった、

「大丈夫って……お前、みんなに迷惑かけてるのが分からねぇのか!!」

 つい怒鳴ってしまった。そして、一度キレてしまうともう自分では止められない。

「大体最近のお前はなんなんだ!人が手伝ってやるって言ってんのに『一人でできます』『大丈夫です』とか言って……その結果がこれかよ!全くできてねぇじゃねぇか!!」

 教室が静まりかえる。

 すべて言った後ハッと気付き後悔した。

 ―しまった。言い過ぎた。

「す、すま―」

 俺がとっさに謝ろうとするが、

「私だって……私だって、好きでできないわけじゃないです……」

 目黒は拳を握りしめ、涙声で詰まりそうな声で、悔しさをかみ殺すように言って俯いている。

 そして、彼女は顔を上げると、目に涙を溜めて、さびしげな笑顔を見せた。。

「身の程知らずと思われるかもしれないですけど……私は、戸越さんと対等な関係でいたかったんです。……でも、……どうやら、お互い『理解者』にはなれなかったみたいですね……」

 そう言って、彼女は俺の横をすり抜け、そのまま教室から出て、走り去っていく。

 俺はその後ろ姿を茫然と眺めることしかできなかった。

 『お互い理解者にはなれませんでしたね……』彼女のその一言が頭から離れない。

 ―俺が今まで目黒にしてきたことは単なる自己満足だったのか……?俺は目黒を助けようと思ってやっていたことはただの迷惑だったのか……?

「なにボーっとしてるのよ!早く追いかけなさいよ!」

 声のする方に振り向くと、鈴森が真剣な目でこちらを見ている。

「別に俺じゃなくてもいいだろ……?」

「はぁ!?どう考えてもあんたが行く以外あり得ないでしょ!?」

 いつもの甲高く、よく通る声で叫ぶ。

「聞いての通り、俺はあいつのことを何も理解できていなかった。そんな俺が行ったところで意味はない。どうやら今まで俺があいつにしてきたことは独りよがりの自己満足だったみたいだしな。」

「あんたねぇ……」

 口からは勝手に自嘲の言葉があふれてくる。いつもの自分では考えられない発言の数々に、芝浦や荏原も戸惑って声をかけてこない。

 そんな中、

「はー……鈴森さん、放っておきましょう。こんな豆腐メンタルのネガティブ思考が行くより私達が行った方がよっぽどマシよ。」

「……なんだと?」

 浅田がため息をつき、諦めるような口調で罵倒してきた。

「だって、そうでしょう?たった一回仲違いしただけでいじけまくって……。おまけに『俺があいつにしてきたことは独りよがりの自己満足だったみたいだ……』ですって?勝手に判断して勝手に落ち込んでんじゃないわよ!こんな面倒くさい奴が追いかけて行ったって何の解決にもならないわ!」

「浅田……!!さっきから言わせておけば……!!」

 完全に喧嘩腰の口調にイラつき、睨みつけるが、彼女は全く動じていない。

「あんた達の言う『理解者』ってのはそんな簡単になれるもんなの!?」

「!!」

「あんたは一回も間違うことなくお互いのことを理解できるなんて本気で思ってたわけ?―そんなことあるわけない!少なくとも目黒ちゃんが欲しがってた『理解者』っていうのは違う。―だがら、あの子は『対等でいたかった』って言ったのよ!」

 浅田の言葉が深く胸に突き刺さった。

 ―そうだ。俺と目黒はまだ知り合って数カ月なんだ。お互いに知らないことの方が多い。そんな短期間でお互いができるわけないじゃねぇか!それなのに一回不正解を突きつけられただけで全てが否定されたかのようにヘコンで……。

「別に間違ってもいいじゃない!間違えて、答え直しして、また間違えて……それでお互いに理解を深めて―それで『理解者』ってのになれるんじゃないの!?」

 俺は何も言い返せない。浅田の言うとおりだ。間違えて、答え合わせをして、また間違えて……それを繰り返してはじめて互いを理解し合える

 ―ずっと一人でいるとこんな当たり前のことも分からないんだな……

 自分の愚かさに苦笑が漏れる。

「分かったなら行ってあげなさいよ。―今回の答え直しに。」

 浅田はふっと優しい目で笑顔を浮かべながら、諭すような穏やかな口調に変わっていた。

「そうっすよ!早く行ってください!!」

「残念ながら、今の目黒さんには私では役不足です……。」

「行くなら早く行きなさいよ……世話焼けるんだから。」

 他の3人も笑顔で俺の背中を押してくれる。

「ああ。行ってくる!―みんなすまんな。」

 そう言って、教室の扉を開いて勢いよく飛び出すと、目黒の下へ駆けだした。

 ―なんとなく、あいつの行きそうなところは分かる……!

 廊下を一気に駆け抜け、校舎の外に出る。

 外は雨が降っていることに気付き、傘立てに置きっぱなしになっていた傘を拝借することにした。

 そして、迷うことなく校門を通過し校外へ出て、自分の帰宅ルートをしばらく走り、目的地にたどり着く。


 古びた遊具しかない小さな公園―そこの古びた木製のベンチに傘もささず、黒髪を雨で濡らした小さな少女が俯いて腰掛けていた。

「やっぱりここにいたか……」

 その少女に近づき、彼女の頭の上に傘を広げてやる

「戸越さん……」

 その少女―目黒里奈は顔を上げ、こちらに視線を向ける。ついさっきまで泣いていたのだろう。目は赤く充血して、腫れぼったくなっていた。

「すみません。大事な時に勝手に暴走してしまって。ご迷惑おかけしました。」

 そう言って立ち上がり、こちらに笑いかけてくる。しかし、その笑顔は無理して作っているのがはっきり分かる。

 ―どうやらこいつは今回のことをなかったことにしようとしてるらしいな……

 だが……!

「目黒、すまん!俺はお前の言った通り―」

「どうして戸越さんが謝るんですか?悪いのは完全に私の方じゃないですか。会長候補のくせに自分勝手にできもしないことやろうとして失敗して、その上、戸越さんに八つ当たりして飛び出したんですから……」

「いや、しかし……」

「私が言ったことなら気にしないでください。―戸越さんに感謝してるのは変わりません。どうしようもないいじめられっ子だった、私を何度も助けてくれたり、心配してくれたりしてくれました。感謝してもしきれません。」

「だが俺はお前の『理解者』になると言って―」

「だからそれはもういいんです!」

 俺の言葉を遮り、目黒が大声で叫ぶ。

「戸越さんが悪いわけではありません。そもそも他人を理解するってことに無理があったんです。『理解者』っていう一つの言葉の解釈が違っていることすら分からなかったんですから。」

 目黒は声の再び落ち着いた声で、しかし悲しそうな表情で話す。

「私は、戸越さんの力になりたかったんです。ただ助けられるだけじゃなくて、お互いに助け合えて、何でも言い合える関係になりたかったんです。―私にそんなことできるわけないって頭では分かっていても、どこかで期待していたんです。戸越さんとならもしかしたら……って。……でもやっぱりそれは無理でした。やっぱり他人と理解し合うなんて私には不可能だったんです……」

 そう言って彼女は再び諦めたような弱々しい笑みを浮かべ空を見上げる。

「確かに、天才である俺にもお前が何を望んでいるかは分からなかった。」

「……」

「しかし、それもこれまでだ!」

「……えっ?」

 目黒が再びこちらに視線を向ける。何を言っているのか分からないと言った顔だ。

「俺は今日、お前が何を望んでいたかを一つ理解することができた。そして、それはこれからどんどん増えていく。」

「……どういうことですか?」

「今まで俺達が理解し合えていなかったことは事実だ。しかし、これからも理解し合えないわけじゃない。」

「そんなのこれからも変わるわけ―」

「いや、変わる!」

 今度は俺が目黒の言葉を遮る。

「どうやら『理解者』っていうのはそう簡単になれるものではないらしい。―間違えて、言い合って、答え直しをして……それを繰り返していくうちに本物の『理解者』になれる。」

 目黒は黙ったままだ。ただ真剣な目で俺の話しを聞いている。

「俺はこれからもお前の『理解者』になることを諦めない!だが、これからも間違え続けるはずだ。まだまだ分からないことだらけなのだから当然だ。―だから俺は、分からないことは聞くし、伝えたいことは必ず言う!―もう一度、俺にチャンスをくれないか?」

「でも、そんなの、やっぱり……」

「確かに『言わなくてもお互いに理解できている』っていうのが究極の『理解者』なのかもしれん。だが、俺達は互いに人間関係には未熟だ。―『言わなきゃ分からないこともある』―これが今回俺が学んだ教訓だ。これができれば俺達は今よりずっと理解し合えるはずだ!」

「でも、そんな簡単には……」

 まだ、自分の気持ちをさらけ出すのに躊躇いがあるのか。それとも俺が自分の気持ちをちゃんと言うのか信じきれないのか。……恐らくどちらも正解だろう。―それなら……

「じゃあ、俺から手本を見せてやろう。―俺の気持ちを一つお前に教えてやる。」

 ―ここで覚悟を決めるしかない!

「―目黒、お前のことが……好きだ!!」

 しばらく、沈黙が流れる。そして、一拍おいて目黒が目を丸く見開く。

「え、え!?一体どういう意味……?」

「そのままの意味だ。聞き逃したのならもう一度言ってやる。―俺はお前のことが好きだ!!」

「ち、ちょっと待ってください!!そ、それはもちろん人としてとか、友達として、とかそういう意味ですよね!?」

 目黒が顔を真っ赤にして焦っている。今まで顔を赤くしているのは珍しくなかったが、今日は一段と赤い。

「いや、もちろん、人としても友達としても好きだが、俺が言ったのは女としてだ。LIKEではなくLOVEの方だ。分かったか?」

 淡々と説明してやるが、目黒の方は一層あたふたしだす。

「そ、そそんな、き、急に言われても……」

 顔をリンゴのようにさらに真っ赤に染めて、目をきょろきょろさせながらあわあわしている。

「これが俺の気持ちだ。―こんな感じで言葉に出して初めて伝わることもある。」

「そ、そ、そうでうすね!」

「じゃあ、次はお前の番だ。」

「!?え、えぇ!?わ、私もですか!?」

「当然だ。どっちかが一方的に自分の気持ちを言っても理解し合うことはできないだろ?」

 俺はニヤリと笑って、意地悪く目黒を見つめる。

「うう……」

 目黒は顔を赤く染めたまま、俯き小さく唸ることしかできない。

「言いにくそうだから、俺が質問してやろう―お前は俺のことをどう思っている?」

「!!」

 驚きのあまり、勢いよく顔を上げる。完全に涙目になっている。

 実際、今やこれまでの反応で目黒の気持ちはほぼ予想が付く。

 俺はそこらの漫画やラノベの鈍感主人公ではない。それくらいのことは理解しているつもりだ。

 ―こいつのこういうところも可愛いんだよな。

 予想外のことに慌てながらも一生懸命なんとかしようとあわあわしている姿は愛らしく、この様子を見たいがためにわざわざ意地悪いことを聞いているのである。

 ‐まあ、大分苦労したし、これくらいの悪戯は良いだろう。

「い、言わなくても分かってるじゃないですか……?」

「言っただろ?『言わなければ伝わらないことがある』って。―まぁ、ここまで俺を悩ませたことへのささやかな仕返しだ。」

 そう言って、悪戯っぽく笑いかける。

「うう……やっぱり戸越さん根に持ってます……」

「それで、どうなんだ?」

 再度返答を促す。

 そして、目黒も諦めたような表情で息を吐き、上目遣いで恐る恐るこちらを見上げる。

 どうやら、討論で俺に勝てないことを察したらしい。

「―私、また今回みたいに暴走するかもしれないですよ……?」

「俺が何度でも止めてやる。」

「私、また戸越さんに八つ当たりするかもしれないですよ……?」

「かまわん。」

「私、かなり面倒臭いですよ……?」

「俺程の器量のでかさがあれば全く問題ない。」

 目黒がくすりと笑う。

「やっぱり、戸越さんは変わってますね。―私も戸越さんのことが大好きです。ここで戸越さんに生徒会に誘われた時からずっと……。」

 そう言って、目黒は満面の笑みを浮かべた。

「おう!」

 そう言って、俺は目黒の頭をくしゃっと撫でる。

 目黒はいきなり頭を撫でられたことに驚き、頭を押さえ、顔を赤く染めて、上目遣いでこちらを見上げてくる。

 ―とりあえず、一件落着だな。


「ラブラブしてるところ悪いんだけど、そろそろ打ち合わせしないと間に合わないんだけど」

 突然後ろの方から聞きなれた声が聞こえ、振り返る。

「戸越さん!マジ男らしかったッス!!」

「戸越君……絶対負けないから……!!」

「そ、そんなところでイチャイチャしてる暇なんてないでしょ!!会長戦は明日何だから!!」

 浅田、荏原、芝浦、鈴森といったいつものメンツが勢ぞろいしていた。

「なんでお前らがここに……?」

「あんた達が遅いから向かえに来たに決まってるでしょ!」

 鈴森の甲高い声が公園に響きわたる。

「まあ、あの後すぐに戸越君を追いかけただけなんですけど。」

「なるほど……」

 思わず苦笑がこぼれる。

「そんなことより二人とも言うことがあるんじゃないの?」

 そう言われ目黒の方に視線を向けると目が合う。

「「迷惑かけてすみませんでした(すまん)」」

 二人して頭を下げるが反応がない。

 ちらっと浅田達の方を見上げるとそれぞれ笑い堪えているようだ。

「まさか二人初めての共同作業が謝罪なんてね……くくっ」

「す、すみません、戸越さん……くっ」

「はははッ!戸越が頭下げるところなんてレア写真も撮れたことだし、今回は許してあげるわ!!」

「目黒さんとの共同作業……羨ましい!!」

「お前ら……!!」

 ―こいつら人を笑い者にしやがって!っていうか約一名変な発言があったんだが……

「まあ、冗談は置いておいて、早く明日の作戦会議しないと。」

「そうね。演説の原稿も書かないといけないし……」

「す、すみません……」

 目黒が小さな体をさらに小さく丸める。

「そのことだが、俺に考えがある。」

 怯えた小動物のような反応をする目黒を堪能しながら、俺は他のメンバーに今思いついたばかりの作戦をメンバーに説明する。


「そ、それ本気で言ってるの!?」

「なかなか思い切った作戦ッスね……」

「さすがにリスクが大きいですね……」

 説明を聞いたメンバーが口々に不安を述べる。

「リスクがあるのは百も承知だ。だが、上手くいけば確実に勝てる。」

 俺が自信満々に言い放つ。

「うーん……ちなみに目黒ちゃんはそれでいいの?」

 浅田も不安そうな顔をしつつ、当事者の一人である目黒に意見を求める。

「わ、私は……この作戦やってみたいです!」

 目黒は力強く言い放った。そして、その光景に意見を求めた浅田を始め、 俺以外の他のメンバーは驚き、目を丸くしていた。

「確かに不安はあります。もしかしたら私のせいで失敗するかもしれません。……それでも戸越さんと二人ならできると思うんです!―もう私達は『理解したつもりの二人』ではありませんから。」

 そう言って俺に笑顔を向ける。

 不意打ちに顔が熱くなるのを感じる。

 ―やはりストレートに言われると少し照れるな……

「どうしたんですか、戸越さん?『言わなきゃ伝わらない』ですよね?」

 そう言って悪戯っぽく笑いかけてくる。

「お前、さっきの根に持ってるだろ……」

「なんのことですか?」

 目黒は満足気に笑う。

「イチャイチャするのは後にしてもらえる……?―まあ、二人がそれで良いなら私は良いけど……」

 浅田が他のメンバーに視線を向けると

「私もそれで勝てるなら文句ないわ!」

「もちろん戸越さんの意見に賛成ッス!」

「私も反対する理由がありません。」

 どうやらみんな了承してくれたようだ。

「最後の大勝負だ!―全員で勝つぞ!!」

 それぞれ黙って頷く。言葉に出さなくてもそれぞれの表情からは次の一戦に懸ける覚悟が見て取れる。

 結束力もどこか今まで以上に高まっているような気がする。

 ―これもこの騒動のおかげかもな。


『雨降って地固まる』―見上げるとすっかり雨は止んでいた。






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