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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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予想外の敗北……このままでは終わらせない!

「ちょっと、これは一体どういうことよ!」

 すっかり慣れ親しんだ資料室に、鈴森の甲高い叫び声が響き渡る。

 いつもこんな調子で叫んでいる印象の鈴森だが、今日は少し雰囲気が少し違う。

 いつものツッコミのような調子は一切なく、ただただ焦りや動揺を抑えきれずに口に出しているだけのように感じる。

 そして、間違いなく彼女の口調、様子が俺達全員の胸中を代弁している。

「なんで私達が投票で負けてるのよ!私達はこの学園の7割近くから投票の確約を取り付けていたはずでしょ!?」

 この場にいる全員が思っていることを改めて聞き、それぞれ落胆する。

 その中でも顕著なのが、敗れた張本人・荏原である。

 いつもであれば、鈴森と一緒になって騒ぎ、この新生徒会候補のムードメーカー的存在の一翼を担っている男は、教室に戻ってきて以降一言も口を開かず、俯き項垂れている。

 彼女の言った通り、投票においては、400票以上俺達が獲得し、圧勝しているはずだったのだ。それが、350対247で敗北という結果になっているのだ。到底納得できるはずがない。

 ―まぁ、原因はほぼ分かっているんだがな……

「……はっきりしているのは投票を確約した生徒達が裏切ったってことね……」

 沈黙を破り、最初に口を開いたのは生徒会とは直接関係ないが、俺達に味方してもらっている、新聞部部長の浅田だった。

「そんなこと分かってるわよ!―ついでに裏で手を引いてるのが現生徒会だってこともね!!私が聞きたいのは現生徒会がどうやってこの状況を作ったかよ!」

「それより今は、現状に対してどう対応するか話し合うべきではないですか?早く対策を打たないと、今回投票した人も離れて行ってしまうと思うのですが……」

「それも分かってるわよ!でも、原因が分からないと対策の打ちようもないでしょ!?」

「ま、まぁ、みなさん、とりあえず、落ち着きましょう……」

 鈴森と彼女に意見した芝浦がヒートアップし始めた。

 仲裁しようと目黒が入るがいつも通り効果はいまひとつのようだ……

 実は、原因も対策もおおよその見当はついている。しかし、イマイチ確証が持てない……

 ―もし、ここで方策を間違えれば取り返しがつかないしな……。何かもう一押し情報があれば……

「じゃあ、対策って具体的に何をするの?そこまで言うなら意見出しなさいよ!」

「とりあえず、今回の裏切り者を探して罰則を与えます。今後の裏切り防止という意味でも必要なことだと思います。」

「じゃあ、その裏切り者はどうやって見つけるのよ!さっきも何人か問い詰めたけど、『僕は荏原君に投票しました。』の一点張りよ!その証拠を見つけるために磯子達がどうやって短期間で100人以上を引き入れたのかを考えるべきだって言ってんじゃない!」

 そう。ここで厄介なのは『裏切り者が分からないこと』だ。

 当初の選挙方法は記名式の投票であったため、裏切ればすぐに分かる形式になっていた。そのため俺達もこの状況は全く想定していなかった。

 しかし、直前にルール変更があり、無記名投票になったため、だれが誰に投票したかが分からなくなってしまったのだ。

 ―まさか、ルール変更の一番の目的が無記名投票だったとはな……

 俺もこれに気付いたのは投票結果の発表直前だった。

 気付くのが遅れた最大の理由は、俺達が、投票前に直接対決しその勝負の応じて能力ポイントを与える、といった一見派手なルール変更にばかり注目し、他の変更点がもたらす影響について考えていなかったためである。

 ―まったく、この俺を欺くとは……敵ながらあっぱれなミスディレクションだ……

「……そんなの集会か何かを開いて大勢に呼び掛ければ……」

「残念ながらそんな集会開かれた様子はないわ。私の情報網をかいくぐって100人以上の集会を開くなんて例え校外で開催しようとほぼ不可能なはずよ」

 「!?」

 芝浦の苦しい意見に浅田が反論し、追い打ちをかける中、俺の頭に大きなひらめきが降ってきた。

 ―気付かれずに大勢に呼び掛ける……俺達に気付かれずに集会を開くのは無理だがあの方法を使えば秘密裏に大勢の人間と交渉できる!

「そうよ!大体―」

「ちょっといいか?」

 鈴森がさらなる追い打ちをかけようとしている中、俺が割り込んだ。

「な、なによ!?あんたは芝浦さんの味方をする気?」

 鈴森が不機嫌そうにしながらも、少しビビりながらたじろぐ。―こいつどんだけ俺にビビってんだよ……

「別にそう言うわけじゃない。―とりあえず、この件は俺に任せてお前らは次の会計戦に専念してくれないか?」

「ちょっと、どういうことよ!」

「いくら戸越君でも今回の件をすべて任せきりにするわけにはいきません。」

「私もさすがに賛成できないわね。」

 先ほどまで言い争っていた3人が反対する中、一人異なる反応をする人物がいた。

「あ、あの、詳しく説明をしてもらっていいですか……?」

 今まで完全に空気だった生徒会長候補・目黒が恐る恐る口を開いた。

「たった今、磯子達がこの状況を作り出した方法がほぼ判明した。そして、それに対する対策も思いついた。」

 俺はこの場の全員に磯子達がとったと思われる作戦の内容、そしてこの状況をひっくり返す起死回生の策を説明した。

「な、なるほど……」

「まさか、そんなこと……?」

「でも、その方法ならどっちでも秘密裏にこの状況を作り上げることができるわ!」

「それにその対応策ならここからの逆転も十分に可能です。」

 説明を聞き終えた彼女達はそれぞれ驚いた表情を見せつつも俺の案に賛成してくれた。

「だからここは俺に任せておけ!―と言いたいところだが、今回はさすがに俺一人では厳しい。―とりあえず荏原、お前は俺のサポートだ。」

 女子たちの言い争いにも、俺の秘策の説明にも全く反応せず、自分の席で項垂れ続けている荏原に視線が集まる。

「……えっ?」

 突然自分の名前を呼ばれ、こちらに反応する。

「『え?』じゃねぇよ1俺の話聞いてなかったのか!?お前は俺が考えた秘策の準備の手伝い役をやるんだよ!」

「い、いや、それは聞いてたんスけど……そんな大役俺なんかで良いんスか……?」

 荏原はいつもの調子のいい口調とは違い、少し上目遣いで、恐る恐る自信なさ気に聞いてきた。

 ―お前はいつもの目黒か!ついでにいくら傷心しているとはいえ、男の上目遣いは気持ち悪いからやめてくれ!!

「何度も言わせんな。今回は俺だけでは手が回らん。俺の他にもう一人何でもこなせるタイプの人間がいないと次の会計戦までに間に合わんかもしれん。」

「でも、俺は戸越さん達の期待に応えられず、格下相手に不覚を取ってしまいました……あれだけ大きなこと言っておいて、このザマでは……」

 ―やれやれ。普段はバカっぽいのに、こういうところは真面目なんだよな……

「別に今回の敗戦はお前の責任じゃない。むしろ、仕切っていた俺が奴らの狙いに気付けなかったのが原因だ。」

「そんな!でも―」

「それでも!」

 俺は荏原を制して話し続ける」。

「それでも、お前が今回の作戦に責任を感じずにはいられないなら、次の作戦を成功させて取り返せ!まだ十分に挽回可能だ。」

 言い終え、荏原に手を差し出す。

「お前の力が必要だ。手を貸せ!」

「……はい!今度こそ必ずお役に立ち、俺の才能を見せつけてやります!」

 しばらく、差し出された俺の手を取るのを躊躇っていたものの、すぐに手を取り、いつもの調子のいい笑顔を見せた。そして、それに俺も笑顔で返す。

「ちょっとそこの二人、BLは余所でやってくれない……?」

 不意に浅田が少し引いた表情で割り込んできた。

 ―まあ、こいつのことだしどうせ冗談だろうが……

「どこがBLだ!あとその引いた顔をやめろ!」

 思わずツッコミを入れると、くすくす笑い声が聞こえてくる。

 浅田がニヤリと笑った。

 ‐まあ、雰囲気を明るくするためだしな……。それにしてもこのメンバーの中で空気を読んで気遣いできる奴って貴重だな……

 浅田を仲間に引き込んで本当によかったと改めて思っていると、

「戸越さん……まさか、そっち系がタイプだったなんて……」

 目黒が涙目でこちらを見上げてくる。

 ―ダメだ!多分こいつは本気のリアクションだ!っていうかこの流れ続くのか!?

「目黒、とりあえずお前は冗談を聞き分けられるように頑張ってくれ……」

「大丈夫!恋愛に性別は関係ありません!」

 芝浦もこの流れに悪乗りしてくる。

 ―多分冗談なんだろうが、普段の行ないからどうしても冗談に聞こえない……

「芝浦、頼む。お前は黙っていてくれ……」

「はははっ!慣れないツッコミお疲れ様!」

「誰のせいだと思ってる!」

「それはともかく、さっきのあんたの作戦だと、二人でも厳しいんじゃない?なんなら私も手伝おうか?パソコンとか機械操作とかも一応できるし……」

 この俺いじりの流れを作った張本人、浅田が急に真面目に尋ねてきた。

「まあ、3人くらいいた方が効率は上がるだろうしな……それに、生徒会以外からのアプローチが必要になるかもしれんし―浅田、お前も俺達と一緒に別行動だ。」

「了―解!」

 これで選挙の準備は3人、別行動3人か……まあ、ちょうど良いかもな。

「じゃあ、これで―」

「戸越さん!それなら私が浅田さんの代わりに手伝います!」

 さっそく別行動に移ろうとしたその時、目黒が少し目を細め、不機嫌そうな表情をで意見してきた。

 ―なんかすごく圧力を感じるんだが……

「いや、お前は会長候補だし……さすがにお前まで別行動はまずいだろ……」

「それなら、私は二つを兼任します!」

 目黒が食い下がるのも珍しいが、ここはさすがに聞いてやれん。

「目黒!お前の気持ちは嬉しいが、この場を任せられるのはお前しかいない!本業の選挙の方も今回の作戦もどちらも中途半端にはしたくない!だから頼む!」

 珍しく食い下がる目黒にこちらも誠意を持って頼みこんだ。

「でも……」

 まだ、納得しきれない目黒に浅田が近づく。

「――。」

 目黒の耳元に何か囁くと

「―」

 目黒はさっきまで不機嫌そうに半開きだった目を大きく見開き、一気に顔を赤く染め上げた。

「そ、そういうことなら……」

 先ほどまでの態度とは打って変わって、今度は下を向き、手をもじもじさせながら納得した。

 ―浅田の奴一体何を吹き込んだんだ?変なこと言ってなければ良いんだが……。

 浅田の方に視線を向けると、笑顔ではぐらされた。

 ―まあ、目黒も納得してくれたようだし、良しとするか……

「そ、そうか。目黒もよろしく頼むぞ!―じゃあ、全員納得したところでさっそく行動に移ろう。それぞれ自分のやるべきことをやるぞ!」

 一同はみんな頷き、俺、荏原、浅田の3人は細かい打ち合わせをするべく教室に残り、目黒、鈴森、芝浦の3人は引き続き選挙運動をするべく教室を後にした。

 ―さて、ここから反撃だ!






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