本選挙開幕!~波乱の初戦・庶務戦!~
6月2日編集しました。
話の最初の部分が抜け落ちてたので付け足しました。
「新生徒会頑張れよ―!」
「俺達はお前らの味方だぞー!」
「あんな汚い連中に負けんなよ―!」
その日の放課後、校門前でいつもと同じようにしているだけで俺達の周りは大騒ぎだ。
授業が終わったばかりで部活がある生徒もいるというのに、俺達の周りにはざっと300人以上が既に集まって声援を送ってくれている。
「それにしてもすごい人数だな……」
今朝200人程の生徒が集まって驚いていたばかりだというのに……この人数は軽く引くな……。
俺は、人混みから少し離れ、勢いよく押し寄せてくる大群に顔を引きつらせていると
「ちょっと、戸越!サボってないであんたも働きなさいよ!」
声のする方を見ると、鈴森が人混みに埋もれながらも必死に人混みを整理し、生徒達の対応をしようとあがいている……なるほど、これが無駄なあがきというやつか……
「っていうか、いくらなんでも人、集まり過ぎッスよ!どうなってんッスか!!」
また少し離れたところで女子生徒を中心に群がる生徒達の対応をしている荏原が叫ぶ。
―なんだろう、この敗北感は……
「や、やはり……現生徒会と、選挙管理委員会による、き、急なルール変更が影響してるんでしょうか……?」
俺が後輩に対し軽く嫉妬をしていると、すぐ隣で声が聞こえた。声のした方向を見るが、そこに生徒会メンバーはいない。
「と、戸越さん……ここです……」
再び声がする方を注意深く見ると、人混みの中から白い手が力なく見え隠れしており、こちらに助けを求めていた。
「もしかして、目黒か?」
俺がその白い手を引きよせ、人混みから引っ張り出してやると、新生徒会長候補・目黒里奈が朝の電車のラッシュアワーからなんとか出てきたようなグロッキー状態になっていた。恐らく、この小さい体ではこれ以上人混みには耐えられそうにないだろう……
「……とりあえず、一旦教室に戻るか……?」
「そうね……生徒会長がこの調子じゃね……」
「目黒さん、大丈夫ですか!?みなさん、目黒さんは私が担いでいきます!!」
なんか、約一名急にヤル気になっている奴がいるが、誰もツッコミを入れる気力はなかった……
「それで、ルール変更についてだが……どう思う?」
人混みを抜けだし、いつもの資料室に戻ったいつもの生徒会候補+浅田は校内に張り出されてあったルール変更の詳細を机に広げていた。
生徒会本選挙、ルール変更内容
①一日に一役職の選挙のみ行う。
一日目…庶務選
二日目…会計戦
三日目…書記選
四日目…副会長選
五日目…会長選
②票数以外で各役職に応じた能力ポイントと獲得票数の合計で勝敗を決める。
各役職候補者は、投票前にその役職に応じた勝負をし、勝者には右記のポイントが別途付与される。
会長戦…200ポイント
副会長戦…150ポイント
会計…100ポイント
書記…80ポイント
庶務…50ポイント
尚、勝負内容については選挙管理委員会が決めるものとする。
③投票用紙の完全無記名制
名前の書いてある投票用紙は無効票とする。
「問題は②番ですね……」
「そうね、これでただ票を集めればいいってわけじゃなくなったわ。」
確かに。②の能力ポイントの導入によって例え票数で勝っていても能力ポイントの有無によって敗北する可能性がある。
しかも、問題なのは勝負内容を恐らく既に現生徒会に取り込まれている選挙管理委員会によって決定されることだ。
これによって、かなり不利な勝負になることは間違いない。
しかし、よく考えればこの程度勝敗には大きく影響しないはずだ。なぜなら……
「でも、俺達の現在の票数考えると、別に当日勝負で負けても問題ないんじゃないッスか?」
そうだ。俺達は現状メンバー全員が400以上の票数を確定させている。
さすがに、会長戦は影響するだろうが、他の役職に関しては大きな影響はないはずだ……
「まあ、警戒しておくにこしたことはない。一応当日まで気を配っておくとしよう。」
一見意味のないように見えても何かあるはずだ。あの磯子という男が意味もなくこんな策を弄するはずがない。……それに、このルール変更なにか見落としているような気がするんだが……
「浅田、この勝負内容について何か分かるか?」
「ごめん。今回のルール変更については何も知らされないの……多分、私がこっちについてから考えられたものだと思うわ……」
「そうか……」
―まあ、相手にバレているかもしれな作戦を磯子が行なうとは思えんしな……
「とりあえず、投票数で勝っている以上、俺達の優位に変わりはない。当日勝負はそれぞれ個人に頼らざるを得んが、お互い頑張ろう!」
とりあえず、これ以上考え込んでいても雰囲気が悪くなるだけだと感じ、 メンバーに激を送った。
そして、浅田の方に顔を向け
「浅田、お前も何か情報が入ったら連絡してくれ。」
「分かってるわ」
そして、そのまま俺達は特に深刻に考えることなく、その場は解散することにした。
―このルール変更によって、この後自分達が想像以上の苦戦を強いられることになることなど知らずに……
選挙当日。会場となる体育館には選挙開始30分前だというのに既に全校生徒の大半が集合していた。
「つ、ついに、ほ、本番でしゅね……。」
隣では目黒が会って間もない頃を彷彿とさせるような噛み具合で緊張していた。
「いや、目黒……今日は庶務選だけなんだが……」
「そ、それは分かってますけど……」
―おい、自分の出番がないのにこの調子じゃあ……自分の出番の日までに倒れるんじゃないのか……?
「大丈夫。里奈には私が付いてますから。」
「あ、ありがとうございます……」
その様子を見ていた芝浦が目黒を落ち着かせようと背中をさすっている。かなり幸せそうな顔をして……
―芝浦の危険度が増しているように感じるのは俺だけだろうか……何か目黒が緊張しているのを良いことにさり気なく芝浦が距離を縮めようとしているんだが……
俺が芝浦の方に視線を向けると、
「……なんですか?」
鋭く冷たい視線を返された。
「……いや、かまわん……続けてくれ……」
『それでは間もなく庶務選を開始します。両陣営庶務候補は壇上に出てください』
そうこうしている間に、招集のアナウンスが聞こえてきた。
「よし!じゃあ俺の出番か!」
荏原は気合を入れて立ち上がる。
「ちょっと、あんた負けたら承知しないわよ!」
「お前に心配されるまでもない。お前のようなまな板と違って俺は天才だからな。」
「誰がまな板よ!このチビ!!あんたなんか応援してやんないんだから!!」
「ふん、まな板の応援なんて必要ない」
いつも通りの光景だ。荏原もこの調子なら大丈夫だろう。なにせ初戦は流れを決める上でもかなり重要だからな……
「荏原、頼んだぞ!」
「任せてください!戸越さん!俺が軽く勝ってきますよ!」
そう言って、荏原は自信満々の表情で壇上へと出ていった。
『それでは、これより生徒会本選挙、初戦の庶務選を開始します!』
「荏原くーん、頑張って!」
「荏原君!私達がついてるわよー!」
「荏原君、愛してる!」
開催のアナウンスと同時に声援が聞こえてくるが、その数は圧倒的に荏原が上だ。
―まあ、女子の声援が圧倒的なのもいつも通りだがな……
「すごい声援だな、荏原。」
対戦相手の葛西領はこの圧倒的アウェーにも全く動じることなく隣の荏原に話しかけてくる。
顔は整っており、陸上部で関東大会上位入賞をしているだけあり、ガタイもかなり良い。小柄な荏原と比べると20センチほど差がありそうだ。
同じイケメンでも荏原は草食系、葛西は肉食系のような感じだ。
「あ?まあ、俺のような天才にとっては普通のことだな。」
荏原は荏原でいつも通り、ドヤ顔で葛西を見下している。
「まあ、今のうちに勝ち誇っておけ。最後に勝つのは俺だからな。」
「おいおい、そんな負けフラグ立てまくりの発言してていいのか?まあ、お前みたいな負け犬顔にはぴったりだがな。」
「言ってろ。」
二人が小声で言い合っている中、司会の選挙管理委員は構わず進行を続ける。
『それでは早速庶務選の当日勝負について説明します。―名付けて、生徒の相談解決勝負!』
まあ、庶務っぱい勝負ではあるな。あと、問題はルールだが……
『それではルールを説明します。今回は現生徒会が使用している意見箱を使います。ここには今まで実際にあった生徒の方々からの悩みや相談事が入れられています。お二人にはこの箱から一枚紙を引いてもらいます。』
そう言って、司会者は小さな正方形の木箱を取り出しながら説明を続ける。
『そして、お二人には自分が引いた紙に書かれた悩みを制限時間30分以内に解決してもらいます。無事解決すればポイントゲットとなります。尚、ここに書かれている内容はすべて匿名になっておりますので、解決されたかの判定は僭越ながら私が勤めさせていただきます。』
「なんでお前が判断するんだ!」
「現生徒会側の犬が平等な判定なんてするわけねぇだろ!」
会場は大ブーイングに包まれた。その多くは判定を選挙管理委員会の司会者が行なうというところに対するものだ。―まぁ、俺も文句を言ってやりたいところだが、逆効果だろうな……
『警告!!』
司会者がマイクを使い大声で叫ぶと、一気に会場が静まり返った。
『今のは警告です。本選挙については選挙管理委員会が一任されています。今後、我々の決定に従えない生徒は即刻退場となりますので注意してください。―それに、我々はどんな状況でも平等な審判を下します。ですので皆さんが心配されていることは起きないと思いますのでご安心ください。』
―やっぱりこうなるか……。まあ、後は選挙管理委員が今言ったようにしっかり仕事してくれるのを信じるしかなさそうだな……。
『それでは、改めて質問はありますか?』
会場内はまだ静けさを保ったままだ。
「ひとついいか?」
そんな中、荏原が手を挙げる。
「何でしょう?」
「この勝負引き分けになったらどうするんだ?」
―そう、この勝負は引き分けが存在する。お互いがお題をクリアしてしまった場合だ。
「先ほども申しました通り、この勝負は“クリアすれば”ポイントを差し上げます。つまり、お互いクリアした場合は二人に50ポイント。逆に二人ともクリアできなければ0ポイントとなります。あくまでこれは庶務としての能力を見るための参考資料ですので―よろしいですか?」
「分かった。」
そう短く返した荏原はいつになく真剣な表情で頷いた。
『それではさっそくくじを引いてもらいます。―先行は新生徒会候補・荏原君お願いします!』
荏原は黙って、司会者の方に歩み寄ると、何の躊躇もなく箱に手を入れる。
「ほらよ。」
そして、一枚の紙切れを司会者の方に渡す。
『それでは、荏原君のお題を読みあげます。“僕には好きな人がいます。片思いです。付き合うにはどうすればいいでしょうか?”以上です。』
「なに!?それだけか!?」
荏原は焦った様子で司会者に聞き返す。
『はい、これで終わりです。―それでは制限時間は30分です。スタート!』
「クソッ!マジかよ!!」
荏原はまさかの出題に頭を抱えながらも真剣に考える。
―このお題、問題なのは相談事が抽象的なところと匿名なところだ。
付き合うための具体的なアドバイスを送るために必要なことが一切書かれていないのだ。
例えば、誰のことを好きなのか。現在の二人の距離、そして相談者のスペック等重要なところが一切書かれていない。
そして、より面倒なのはこれが匿名であることだ。名前が書かれていれば その人物と面会して状況に応じたアドバイスを送ってやればそれで解決だ。―しかし、今はその二つとも不足している。
つまり、問題になっていないのだ。
「こんなの分かるわけねぇだろ!」
「荏原君可哀そう!」
「いい加減にしろ!」
場内は再びブーイングに包まれる。
しかし、司会者がキッと睨むとすぐに静まり返った。
この勝負かなり厳しそうだな……
―だが、正解だという確証はないが、答えはある。後は荏原本人が気付けるかだ……
「頼むぞ……荏原……」
俺はただ祈るように荏原を見ていることしかできなかった。
「さすがにこれはヤバいな……」
お題の開始から既に10分が経過したが、全く解決の糸口はつかめていない。
「おい、荏原もう降参したらどうだ?」
隣の対戦相手、葛西は余裕の表情でニヤついている。
「黙れ。気が散る。」
そう言いつつも、正直ジリ貧だ……。
まず、この問題がおかしい。具体的な相談内容が全く書かれていない。おまけに匿名だ。このままでは正解は出せない……。
だが、これが出題されている以上少なくとも解答例はあるはずだ。
俺は改めて出題内容を眺めてみる。―何か見落としはないか……
『残り時間15分です。』
「クソッ!」
残り時間が迫り焦りが増す。
「荏原、お前こんな問題も解けないのか?」
葛西が挑発してくる。―クソッ!うぜぇ!
一応、解決策ならある。―この相談者を探し出せばいいだけだ。筆跡・指紋等から候補者を絞れば探し出せないことはない。ただ、圧倒的に時間が足りない。調べるのに最低でも3日はかかるはずだ。
『荏原君、もう限界かー?これでは庶務の適正があるとは言えませんね』
―クソッ、何が庶務の適正だ!そもそも戸越さんから頼まれたから庶務に立候補しただけで、俺は庶務なんてやりたくねぇんだよ!戸越さんからの頼みじゃなきゃ、この天才が地味で普通過ぎる庶務なんてやるわけねぇだろ!
「!?」
―待てよ!もしかしたら俺は勘違いをしてるかもしれない。
俺は再度問題文を読み直す。
“僕には好きな人がいます。片思いです。付き合うにはどうすればいいでしょうか?”
「―そういうことか……」
『残り10分です』
「分かった……」
『えっ!?分かったって言うと……?』
「回答が分かったに決まってるだろ。」
言った瞬間会場が沸き立つ。
「さすが荏原君!」
「荏原君にできないことなんてないわ!」
「さっさと正解行ってやれ!」
司会者が驚き、葛西も眉をひそめている。
『それでは、荏原君、正解をどうぞ!』
会場が再び静かになる。俺の回答を待っているのだろう。
俺は息を整え、口を開く。
「相談者への返事だ―『とりあえず、好きな人に自分の気持ちを伝えろ!具体的な作戦とかアドバイスがほしい時は俺のところまで来い!面倒見てやる!』―以上だ。」
会場は静かなままだ。
後は、司会者の正誤の判断を待つだけだ。俺にもこれが正解だという確証はないしな……
『―荏原君の回答は……』
会場は一気に緊張感に包まれる。
『……正解です!』
一瞬の間をおいて、会場が沸き立つ。
「うおー!すげぇ!!」
「本当に正解しやがった!」
「さすが荏原君!」
「荏原君、カッコいい!」
―なんとか正解してくれたみたいだな……
舞台裏の方を振り返ると目黒さん、鈴森のバカに芝浦さん、それから浅田さんまでがガッツポーズしたり拍手したりハイタッチしたりで喜び合っていた。
そして、戸越さんは笑顔で拳を突き出していた。
俺も笑顔で拳を突き返し、それに答えた。
『見事正解した荏原君、解答の説明をお願いしていいですか?』
司会者が再びこちらにマイクを渡してくる。
『とりあえず、この状況で相談者に具体的なアドバイスを送るのは不可能だ。それに相談者は一言もアドバイスをくれ、とか告白が上手くいくようにしてほしいとは言っていない。つまり、この相談の解決は“告白を成功させる”という意味ではない!―したがって、こいつは誰かに背中を押してほしいのだと解釈し、告白を促した。念のため告白のサポート等具体的な話も聞いてやれるようにしてある。―説明はこんな感じだ。』
「なんか、意外と普通な回答だな……」
「答え聞けば、そんなことかって感じだけど……」
「まさか、こんな回答でいいなんて思わないよね・・・・・」
正解発表の盛り上がりとは全く違い、観客にもいくらかの戸惑いが見られた。
―そう。今回の俺の回答は『単純』だ。恐らく、会場の誰もが一瞬この回答に辿りつけたはずだ。
しかし、この本選挙で出された問題、学園の中でも優秀な奴しかなれない生徒会役員選の勝負で出題される問題だ。まさかこの回答でいいなんて思わない。
―そして、一旦その考えに至ってしまえば正解に辿り着くのは難しくなる。
おそらく、この問題の趣旨の一つは単純な問題に自信をもって挑めるかが試しているんだろうな。
『それでは、見事正解した荏原君には50ポイントが入ります。』
純粋な投票で勝ちがほぼ決まっている以上、これで俺の当選は決まったわけだ。
―しかし、隣の葛西はまだ余裕の表情だ。少なくとも敗北が決まった奴が見せる表情ではない……
『続きまして、葛西君のターンです。こちらに来てクジを引いてください。』
呼ばれた葛西は司会者の方に歩み寄るとさっとクジを引き、それを司会者に渡した。
『それでは、葛西君へのお題を発表します。―“次の部活の大会でいい成績を残したいです。どうすればいいでしょうか?”以上です!』
「!?」
―おい!ちょっと待て!これじゃあ……
「おい、この問題って―」
「これじゃあさっきと同じじゃない!」
「意味分かんない!」
『―今不満を漏らした3人、即刻退場です。』
「は?」
会場がざわっとした直後
「ちょっと、なにすんのよ!」
「おい、なんだお前ら!」
「ちょっと、意味分かんないんだけど!」
先ほど叫んでいた奴と同じ声が聞こえたかと思うと
ガラガラ
体育館の音が鳴り、その声が遠くなっていった。
『みなさんには先ほど警告しましたよね?今後、不満を言う方はあの3人のように退場になることを覚悟の上で叫んでください。』
再び会場がざわざわとし出す。
先ほどまでならブーイングに包まれていたであろうん場面だが、先ほどの光景を見せられたからだろう。大声で非難する生徒はだれもいない。
―やっぱり、一筋縄ではいかないみたいだな……
『それではスタート!』
「分かった。」
司会者がスタートを宣言した直後、葛西は静かに手を挙げた。―まぁ、この問題の内容ならそうなるだろう。
『それでは答えをお願いします!』
「答えはこうだ。『とりあえず、精一杯練習をして本番に備えろ。具体的な作戦や練習内容の見直しなど相談したい場合は俺を訪ねてこい』―以上だ」
回答を終えた葛西はニヤリとこちらに視線を向けた。
会場は相変わらず、ざわざわしている。生徒達の表情を見れば快く思っていないのは明白だ。
『葛西君の答えは―正解です!おめでとうございます!』
司会者が正解の発表をしても会場は静かさを保ったままだ。
―茶番だな……まぁ、こいつが正解しようが勝敗には関係ないが……
『回答の説明は―どうやら必要ないみたいですね……』
そう言って司会者も笑う。
『今回の勝負では“スピード”と“思いきりの良さ”の要素を測ってみました。庶務は仕事の範囲が明確でない分、仕事量も多い役職ですからね。周りに気を配ることとかも大切ですが、卒なく仕事をこなすスピードと自分の考えに自信をもって行動する思いきりの良さは必要不可欠な要素ですからね。』
―なるほど。やっぱりそういう要素を問う問題か……。だが……
「一応勝負の主旨は説明してくれるのか。―例えこれが出来レースでも……」
皮肉を言い、司会者の方を睨むが、本人はどこ吹く風という感じで気にも留めていない。
『一応仕事ですからね―それに、出来レースっていう証拠もないですし』
司会者は何も悪びれることなくそう言い放った。
「まぁいい。早く投票を始めろ!」
「それもそうだな。時間をかけても結果は変わらんしな。」
―こいつ、自分の負けがほぼ確定してるのが分かってないのか?―それとも……
『そうですね。それではサクッと投票に移ります!みなさん、投票用紙は持ってますね!それではお二人のうち生徒会庶務にふさわしい方に投票してください!』
司会者のアナウンスが終わり、どんどん生徒達が投票箱の中に票を入れている。
そして、15分ほど経ち、すべての人間が投票を終え、後は集計結果を待つばかりだ。
―俺達は400人以上の生徒一人一人と契約を交わしてる。それに、裏切った場合は罰則もある。俺が負けるはずがない……
「荏原、お前自分が負けるわけないと思ってるだろ?」
「……なんだ急に!?」
隣に立っている葛西が話しかけてきた。
「別に。結果は最後まで分からないってことだよ。」
そう言って葛西はまたニヤリと笑いかけてきた。
―こいつ、何を企んでるんだ……?
そして、その時、
ドカッ!バタン!!
不意に後ろから何か物が蹴り倒される音が聞こえた。
「しまった!完全にやられた!!」
振り返ると舞台裏の方で戸越さんの声が聞こえた。
―戸越さん!?一体どうしたんだ……?
『それでは投票結果が出ましたので発表に移ります。』
『投票結果―247対350……当選者は―』
会場中に緊張感が走る。―どう考えたって俺の勝ちに決まってる……
『当選者は―葛西領君です!』
まさかのアナウンスに自分の耳を疑い、舞台裏からこちらを覗いている戸越さん達の方を振り返る。
そして、彼らの悔しそうな表情、そして放心状態等の様子を確認し、先ほどのアナウンスが自分の聞き間違いではないことを理解した。
「―うそだろ……?なんで……?」
俺は力なく、ただそう呟くことしかできなかった……




