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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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新生徒会フィーバー!? しかし、事態は刻一刻と変わっていきます……

「目黒さん、俺と交渉してくれ!」

「いや、目黒さんは俺の物だ!」

「荏原く―ん!私の票はデート一回分だよ―!」

「鈴森様!我々は見返りなど求めません!我々のすべての票は無償で鈴森様に捧げます!」


 会見から一夜明けた朝、俺達新生徒会候補一同は生徒への対応に追われていた。

 本選挙を数日後に控え、最初は普段通り挨拶運動をしていたのだが、数分後には大勢の生徒が押し掛けてきて、気付けば100人以上の生徒が俺達の周りに集まっている。

 この急激なフィーバー、原因ははっきりしている。―そう、昨日の会見で話題になった『役員直接交渉制度』である。

 昨日の会見でこの『役員直接交渉制度』により、事実上生徒会選挙での買収・交渉が公で認められたため、こうして生徒達が自分の票を餌に交渉を持ちかけてきているのである。

 まぁ、ほとんどの生徒は面白半分で自分の好きな役員候補と話そうとしているだけのような気はするが……

「み、みなさん、こ、交渉希望の方は、か、各役員候補の指示にし、従って受付を行ってください!」

 最前列付近では目黒があたふたしながら場を整えようとしているが、さすが目黒、ほとんど意味を為していない……

「ちょっと、あんた達!私と交渉したい奴は大人しく一列に並びなさい!私はただ騒がしいだけのノロマとは口を聞くつもりはないわよ!……お願いだからちゃんと並んでよ……」

「俺と交渉したければここに置いてある紙に名前を書け!もちろん一列に並んで順番にだ!ちょっ、おい!誰も写真を撮れなんて言ってな……」

 さらにその横では人気者コンビ(もちろん、この俺には及ばないが)が少し暴走気味な自分のファン達の対応に悪戦苦闘している。

 一方そのまた隣では、

「みなさん、順番にこちらの用紙に学年・クラス・名前を記入してください。日程を調整後、交渉日をご連絡します。」

 前出の3人より数は少ないものの、自分の周りに群がっている生徒達を要領よく整列させている。

 こいつ、地味だけど要領良いし、意外と優秀なんだよな……

 そして、俺の周りはというと……

「……なぜ俺のところは集まりが悪いんだ……!」

 ざっと数えて5,6人程度、0ではないが他のメンバーが50人程度集めている傍ら俺の周りは閑散としている。

「はははっ!そりゃ自業自得でしょ!誰も現生徒会長を言い負かした奴とは交渉したくないよ!」

 すぐ横で浅田が他人事のように笑ってくる。―まぁ他人事なんだが……

「ふん!まぁ、あまりに強大な相手から逃げたくなるのは当然だからな!凡人共にこの俺の相手をしろと言うのは無理があったようだ!」

「……この光景を見てそこまで強気になれるあんたはさすがだわ……」

 浅田がため息交じ……感嘆を漏らしながらこちらを見てきた。

「まぁ、これはこれで丁度いい。今ここに集まっている奴らの票はあいつらに任せれば大丈夫だ。俺は他にやることがあるからな。」

「他にやることって?」

「そんなの決まってるだろ?―新規開拓だ。」

 ここに集まっている奴らのほとんどは交渉後、俺達に票を入れてくれるだろう。しかし、それだけでは足りない。

 今ここに集まっている生徒がざっと200人程度。この数字は、教師含め学園全体で600人の3分の1に過ぎない。つまり、現生徒会に勝利するためには少なくともあと100表集めなければいけない計算になる。

 しかも、ほとんどが俺達の既存の支持者だ。もちろん、浮遊票はまだかなりあるが、確実に過半数を獲得するためには足りない。

「確実に勝つためにはできるだけ多くの浮遊票の獲得、そして相手の支持者の強奪が必要だ。それに、せっかく堂々と票獲得のための交渉ができるようになったんだ。これをフル活用しない手はないだろう?」

「……今度は皮肉抜きでさすがだわ……」

 俺の考えを聞いた浅田が今度こそ本当に感嘆の声を漏らす。

 ようやくこの俺のすごさを理解できたらしい。やはり天才が凡人に理解されるには時間が必要らしいな。

 ―だが、本選挙まであと1週間足らず……。普通にやっていては間に合わんな……

 俺が今後の動きをシュミレーションしていると、不意に後ろから声をかけられた。

「よお!昨日の今日で随分調子に乗っているようじゃないか。」

 振り返ると、そこには昨日随分俺の引き立てに貢献してくれた負け犬生徒会長・磯子仁が立っていた。

「なんだ?昨日の言い訳でもしに来たのか?それともあっけなく自分の手駒を奪われてことに抗議でもしに来たか?」

 昨日完膚無きまでに負かされた分際で、態度のデカイクソ会長に嘲るような挑発口調で言い返す。

「俺が弱者たるお前らにハンデを与えるためあえて負けてやったというのに……その残念な頭には憐みすら覚える。」

「やれやれ、そういうことにしておいてやるよ。別にお前に勝つくらいいつでもできるからな。勝手に勝ち誇っていろ。―まぁ昨日どちらが優勢だったか、お前以外の生徒達は理解できているだろうけどな。」

「くっ!減らず口が……!……まぁいい!お前らが偉そうにしていられるのも今だけだ。今日の昼にはお前らは再び絶望を味わうことになるだろうからな。―もちろん、お前もだ、浅田!この俺を裏切ったこと思う存分後悔させてやろう。」

 磯子は偉そうな態度でそれだけ言い終えると、すぐに踵を返した。そして、それに続き副会長の大黒をはじめ他の現生徒会メンバー達もこの場を後にした。

 ―こいつら今度は何をしようとしてる……?

 ふと隣を見ると、さっきまで何気なく話していた浅田が不安そうな顔で俯いている。

「安心しろ。磯子がどんな手段をとろうが所詮凡人のやることだ。俺の敵ではない。―だから安心して俺を信じていろ!」

 浅田はふっと笑い、

「まったく……こういう時だけ無駄にカッコいいんだから……。期待してるわよ、天才君?」

 最後はいつもの俺をからかうような悪戯っぽい口調に戻っていた。


 そして、俺達新生徒会候補達のフィーバーは各自教室に戻った後も衰えることはなかったようだ。

 昼休み、いつも通り飯を食うため、一人で資料室に向かう途中、ふと隣のクラスに目をやると、

「目黒さん!俺の交渉日決まった?」

「ロリ奈……間違えた。里奈ちゃんとの愛の語ら……交渉は俺が先だ!」

「私も目黒さんとしゃべりたい!」


「み、みなさん、お、落ち着いてください……い、今から日程調整しますので……」


 クラスの連中に囲まれ、いつも通りわたわたしつつも何とか?対応しているようだ。

 やはりというか本気で交渉しようとしている奴はほとんどいないようだ。

っていうか取り巻きの中に一人、明らかに変な奴が混ざっているんだが……

 そんなことを思いながら扉の外からそっと目黒を見守っていると、唐突に校内放送が入った。


ピンポンパンポン


『こんにちは、選挙管理委員長の飯倉です。本日は生徒会選挙についてみなさんに重大な連絡があります。約1週間後の本選挙。現状各役職候補による1対1で決選投票を行い、多くの勝ち星を挙げた側が勝利というルールになっています。』


「なんだ?今さらルール説明なんて必要ないだろ……」

「ルールのおさらいくらい、投票の直前で充分でしょ……」

 生徒達からはいきなりの放送に対する困惑と少しの苛立ちが見て取れる。


『しかし、この度多数の生徒と現生徒会側からの強い要望により一部選挙のルールを変更することとなりました。』


 ―は!?このタイミングでルール変更だと!?ありえんだろ!

 ありえないタイミングでのルール変更に、変更内容を聞くまでもなく納得いくはずがない。

 そして、それは周りの生徒達も同じようだ。

「今からルール変更って、そんなのアリ?」

「さすがに本選挙1週間前に変更ってありえんだろ……」


 みんな口ぐちに不満を漏らしている。

 ―とりあえず、変更内容の確認が先か……


『おおまかな変更内容は、①一日に一役職の選挙を行う。②票数以外で各役職に応じた能力ポイントと獲得票数の合計で勝敗を決める。③完全無記名制投票。という3点になります。詳細はポスターと配布資料をご参照ください。』


「おい、これ最初のルールから変わり過ぎじゃね……?」

「そうよ!こんな勝手なルール変更認められないわ!」

「そうだ、そうだ!ルール変更反対!!」

 いきなりのルール変更、しかも当初のルールから大幅に変更されるという内容に生徒達の不満が噴出し始めている。

 ―なるほど。今朝磯子が言っていたのはこれか……確かに今現在凄まじい勢いで票を集めまくっている俺達にとってはかなり厄介なルール変更だ……


『尚、今回のルール変更は選挙管理委員長の承認と現生徒会長の特権により決定済みです。よって、本ルール変更への異論は一切受け付けておりません。変更を受け入れられない場合その人物の選挙権は没収とさせていただきますのでご了承ください。』


 急なアナウンスに騒ぎ出す生徒、急な出来事についていけず戸惑う生徒等学園中が浮足立つ。

 そして、俺自身はというと、敵の想像以上の反撃に先ほどまで目の前にあった勝利が急に遠ざかったような気がし、思わず苦笑交じりの溜息がこぼれる。

 ―まさか選挙管理委員会を使ってくるとはな……まったく、楽には勝たせてくれないか……これは、さすがに少し苦戦は強いられそうだな……だが―

「最後に勝つのは俺達だ!本物の天才との格の違いをみせてやろう!!」

 未だざわつく教室に背を向け、俺は再び反撃の口火を切るため、とある場所に向かうことにした。





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