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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
38/49

支持を得るのは大変だが、支持を失うのはあっという間です……。 

 コンコン

 ノックをするが、中から返事はない。

 俺は一人、今回の中間投票騒動にケリをつけるため、とある部室を訪れていた。

コンコン……

再度ノックしてみるがやはり返事はない。中の様子を覗こうとするが、教室特有の特殊なガラスで良く見えない。しかし、人がいる気配もなく、物音もない。―クソ、ここにはいないか……。

俺たち新生徒会メンバーが予定外の中間投票勝利の黒幕の正体を調べる中、俺は一人、黒幕の有力候補がいるであろう部屋を訪れたものの、どうやら不発に終わってしまったようだ。

 仕方なく、その場を後にし、他の場所を探しに行く。そして、その人物の教室や部室棟、生徒会室等心当たりのある場所はすべて探したものの全く見つからない。ダメ元で電話もかけてみるがやはり出ない。

 ―仕方がない。また、明日探すとするか。

 俺は溜息をつき、自分達の部室に戻ることにした。

 その後、それぞれが調査から戻ったが、結局、有力な手掛かりを掴めたメンバーはおらず、そのまま解散することになった。


 翌朝、いつものように途中で遭遇した目黒と一緒に登校すると、昇降口前に人だかりができておりざわざわしていた。見慣れた光景だが、今日は何か 雰囲気が違うような気がするな……

「なんだか嫌な雰囲気ですね……」

 隣を歩いている目黒も心配そうな表情になる。

「おそらく、昨日の中間投票の結果発表が張り出されているだけだと思うが……とりあえず、近くに行ってみるか」

 二人で人だかりの方へと歩いていくと、人だかりの中で俺達に気付いた生徒から予想外の言葉がかけられた。

「おい、卑怯者が登校してきたぞ」

「影でこそこそやっておきながら、よくきれいごとばかり演説でしゃべれたな!」

「口だけの偽善者が!!」

「お前ら何かに生徒会を任せられるか!!」

 俺達の存在に気付いた生徒達から容赦ない罵声が次々に飛んできた。

 ―まさか、早速しかけてきたのか……?

 隣を見ると、目黒は完全に俯き、少し肩を震わせながら怯えている。

 ―とりあえず、今はこの騒ぎを収集することが先決だな。

「おい、お前ら俺達に何か文句でもあるのか?」

 周りの生徒を鋭く見まわし、言い返すものの

「何が『何か文句でも』―だ!」

「お前らには文句しかねぇよ!」

 ブーイングは鳴り止むどころか、さらに勢いをました。

「今さらとぼけてるんじゃねぇよ!」

 一人の男子生徒が怒りとともに丸められた紙をこちらに投げつけてきた。

「!?」

 その紙を拾い、広げて読んでみると

「……」

「ふ、不正……!?」

 俺と目黒は二人揃ってその一枚の新聞記事に絶句し、言葉を失う。

 ―やはりこうなってしまったか……


『新生徒会候補不正!中間投票勝利の裏には買収行為』


 この人だかりの原因となった新聞記事にはこんな見出しが一面を飾っており、そこには俺と高崎真司が交渉を行っている光景が映っている。

 おそらく、昨日の高崎が大きな態度を取っていたのもこの記事のことを知っていたからだろう。

「これを見てもとぼけられんのか!?」

「ひどい……応援してたのに……」

 周囲は完全にアウェー。ブーイングの勢いは衰える気配すらない。

 予想していた事態を事前に回避できなかった悔しさから、俺は唇を噛みしめた。

 その時、袖口が軽く引っ張られるの感じ振り返ると、目黒が今にも泣きだしそうな表情を浮かべ縋るようにこちらを見上げていた。そして、その手は小刻みに震えている。

 多分、目黒が泣きそうになって震えているのは、大勢の生徒に責められているからでも、ましてや俺が買収行為をしたからでもないだろう。(高崎との交渉については新生徒会メンバー全員がしっているからな)

 恐らく、気づいてしまったのだろう。予想外の人物に裏切られていたことに……

「目黒、残念ながらお前が気付いたことは本当みたいだ。」

 ―すまんな。否定してやりたいが、ここで嘘をついても仕方がない。

 目黒は俺の返事を聞くと、俺の袖口を掴む力を強め、俯いてしまった。その姿を見て、自分のふがいなさを痛感する。そして、決意した。

 ―俺がこのザマでは目黒や他のメンバーにも不安が増してしまう。なんとかこの場で盛り返しておかないと……

 俺は大きく深呼吸をし、自分を落ち着かせると、再び俺達を取り囲む生徒達を睨みつけ、

「お前らは馬鹿なのか?」

 俺がそう切り出すと、生徒達は目つきをより一層鋭くし、さらにきつく俺達を睨んできた。

「馬鹿なのはお前だろ!」

「そうだ!こんな汚い真似してた分際で!!」

 生徒達はさらにヒートアップしている。俺はそんな生徒達はお構いなく、

「逆に聞こう。仮にこの記事が本当だったとして、どこに卑怯とか裏切りとか批判される要素がある?」

 さっきまで、勢いよく騒ぎ立てていた生徒達が一瞬静まり返る。

「選挙の買収行為がいけないことだってことくらい誰でも分かるだろ!」

「そうだ!!」

 一瞬の沈黙の後、再び一部の生徒達が騒ぎだす

「はあ?どうして買収行為がいけないことなんだ?ちなみに選挙管理委員会の規定には買収行為の禁止は明記されていないんだが」

 見下すような目、挑発するような口調で言い放った。

「っ……」

「……そ、それでも買収行為が認められるわけないだろ!」

 批判を続ける生徒達からは、さっきまでの勢いは完全に失われ、苦し紛れの言葉しか出てこなくなったようだ。これで、完全に形勢逆転だ。

「まあ、ここまで大事になった以上、俺達としても説明責任はしっかり果たすつもりだ。今日の放課後、いつも選挙運動をしている校門付近で会見を行う。気になる奴はそこに来い。そこでお前らの疑問にすべて答えてやる。」

 俺はそれだけ言い終えると、ボーっとしている目黒の手を引きその場後にした。


 昇降口前の人だかりを抜けた俺と目黒はとりあえず、我らが部室・資料室へと向かうことにした。おそらく、他のメンバーもこの惨状を目の当たりにして、とりあえず集まっていることだろう。

 ガラガラ

 勢いよく資料室のドアを開けると、案の定鈴森、荏原、芝浦と俺達以外のメンバーも集まっていた。

「おい、お前ら―」

 早急に今朝の件について他のメンバーの意見を聞くため、切り出そうとすると、

「戸越!あんた、この大変な時に何イチャイチャしてんのよ!!」

 鈴森から、予想外の言葉が挟み込まれてきた。そして、鈴森のすぐ向かい側では、芝浦がこちらを睨みつけている。―何、この状況……

「は?お前、いきなり何言って―」

「と、戸越さん……」

 よく分からない言いがかりをつけてくる鈴森に言い返そうとすると、すぐ後ろから消え入りそうな小さな声が聞こえてきた。ふと振り返ると、そこには顔を真っ赤にして俯いている目黒がいた。そして、少し視点を下げると―俺と目黒は手を繋いでいた。

「すまん。そういえばあの人だかりを突破する時から繋ぎっぱなしだったな。」

「い、いえ……私は別に……」

 手を離した後も、しばらく、目黒の顔から赤らみが消えることはなかった。―いや、今はそれよりも重要なことがあるだろ!

「それはそうと、お前ら今朝の校内新聞は見たか?」

 朝の始業時間まで時間もないため、改めて本題を切り出す。

「当たり前でしょ?何なのあの記事は!?」

「あんなの生徒会選挙では暗黙の了解でしょ。」

「当然、現生徒会も行なっているはずですが……納得できませんね」

 どうやら、三人とも同じような意見のようだ。

「ああ、当然俺も納得していない。それに、生徒会選挙の規定でも買収の禁止は記載されていないしな。俺達が罰せられることはないだろう。だが……」

「生徒からの非難と支持率の低下は避けられないッスね」

 俺が言おうとしたことを荏原が引き継いで話始める。

「今までの選挙でも行なわれてきたことですけど、裏側でこっそり行なわれていたことッスからね。一般の生徒は知らない人が多い。だから、この記事のように表沙汰になると、ルール上はともかく印象はかなり悪いッスね……」

「極論、一般生徒が全員投票しなくても、買収を含め、それ以外で過半数の票を集めれば問題ないんですが……今回はそれも厳しいですね。」

「このままだと私達は間違いなく完敗するってことね……」

 さらに、芝浦と鈴森によって、メンバー全員が厳しい現状を改めて再認識した。

 現実を改めて知ったことによって、空気が重くなる。ここは俺が何とかするしかなさそうだな……

「まあ、そんなに悲観的になるな。とりあえず、この件に関しては対策を準備している。」

「本当ですか!?戸越さん!!」

「ここから逆転できる策なんてあるんですか……?」

「対策って、一体何する気なのよ。」

 俺の一言にお通夜モードだった空気が少し軽くなった気がした。

「とりあえず、今日の放課後に会見を開くことにした。そこで俺が全校生徒を納得させる。もちろん、勝算もある。」

「それって、どれくらい勝算あるの?」

 俺の策が思いの外普通だったからだろう。一同が不安な表情を見せる中、鈴森が代表して口を開いた。

「今のところ正直五分五分だ。だが、放課後までには材料を揃えて7割くらいまでには持っていくつもりだ。……不安なのは分かる。だが、ここは俺に託してほしい。」

「五分って……あんた―」

 鈴森はさらに何か言おうとするが、それは途中で遮られた。

「わ、私は戸越さんを信じます!」

 その声の方に視線を向けると、その声の主・目黒里奈はまっすぐ少し緊張しながらも俺の目をしっかり見据えていた。その表情には不安は少しも見られない。

「戸越さんに任せておけば間違いないッスよ!」

「ここは目黒さんの意見を尊重するべきですね。」

 目黒の表情を見て、荏原、芝浦も賛同する。そして、反論していた鈴森も

「まぁ、会長がそう言うなら仕方ないわね。」

と渋々ながら賛同してくれた。

「すまんな。」

 俺が一言感謝を伝えると、みんなはやれやれといった表情を返す。

 ようやくこの部屋に安堵感が広がる。―今回は目黒にも助けられたな。

 俺は隣にいる、今回の影の殊勲者の方を見ると、あちらも俺の視線に気づき、満面の笑顔で返事をする。

「それで、今日の昼休みの選挙運動だが、俺は準備で欠席するとして、お前らはどうする?」

 この際、昼休みは選挙運動を中止してしまうというのも一つの手ではあるが……

「そこは私達に任せてください。」

 今度は目黒が自信満々に言いきった。

「とりあえず、今回の件については私達の方で上手いこと時間稼ぎしておくわ。」

「戸越さんは何も心配せず放課後の準備に専念してください!」

「目黒さんのことは私に任せてください。」

なかなか頼もしいことを言ってくれるな。(約一名少し不安になりそうなことを言っている奴がいるが……)

「じゃあ、選挙運動のことは頼んだぞ。」

「はい、任せてください。」

 目黒が一同を代表して返事をすると、他のメンバーも黙って頷く。

「それでは、放課後の会見で合流しましょう!」

 目黒が締めると、一同はそれぞれ教室を後にする。その後ろ姿を眺め、

―信頼してくれているこいつらのためにも何とかしないとな。

改めて決意すると、最後に俺も教室を後にした。


 そして、昼休み。俺は一人とある部室の前に来ていた。

 もちろん、今日の放課後行なう予定の選挙での買収騒動の会見の下準備のためである。

 コンコン

……中からは返事がない。こいつも居留守を使うつもりか?

 コンコン

 今度は少し強めに扉を叩いてみると

「どうぞ」

 中から女子の声が聞こえてくる。

 ガラガラ

「邪魔するぞ。」

 中に入ると、そこには見慣れた機材がいくつ火並んでおり、窓際に一人の女子生徒が立っている。

「そろそろ来る頃だと思ってたわ。戸越くん。」

 そう言って、その女子生徒はこちらに振り返る。

「じゃあ、俺が何をしに来たかもわかってるんだろ?」

「ええ、分かってるわ。」

 その表情からは申し訳なさそうな感情が見て取れた。その表情を見て、改めてこいつは俺達を本当に裏切っていたんだと実感する。

 そして、同時に未だに信じたくない気持ちでもある。

「何で、俺達を裏切った……浅田!」

 窓際に立つ女子生徒―生徒会中間投票から今朝の買収騒動までの一連の黒幕・浅田早記は、ただ黙ってこちらを見つめていた。


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