高崎の裏切り!黒幕は誰だ!?
「急に呼び出してどうしたんだい?」
中間投票が終わり生徒達が部活に向かう中、俺達は自分達の部室代わりに使っている資料室に一人の男子生徒を招いていた。
今回の中間投票で我が新生徒会候補が謎の勝利を挙げた件の重要参考人・高崎真司である。
「俺達が聞きたいことは一つだ。……どうして中間投票で俺達に投票するように呼び掛けた!?」
冷静に対応しようと試みるが、どうしても当事者を目の前にすると怒りがこみ上げ、ついつい口調が強めになってしまう。
「それは単純にみんなが中間投票で君達に投票したいと言ったからさ。もちろん、君達の作戦通りみんなには説明したよ。でも、残念ながら僕にはみんなを説得することはできなかった。」
高崎は落ち着いた口調でさらに続ける。
「まあ、君達の作戦通りにはならなかったけど、票は集まったんだしいいじゃないか。校内新聞の中間投票前特集で読んだけど、過去に中間投票で勝った方はそのまま本選挙でも当選するらしいじゃないか。逆にこれでよかったんじゃない?」
何も悪びれることなく、嘲笑の表情を浮かべながら、挑発的な口調で無罪を主張した。
今ここで高崎を問い詰め、自白させることはさほど難しくはない。
高崎の主張にはいくつかの矛盾があるのだ。こいつは多くの生徒の票を動かすことのできる程強い影響力を持っているらしい。
しかし、もしそんな人物に『新生徒会候補側に投票しろ』『中間投票のみ現生徒会側に投票しろ』という指示があった場合、『中間投票のみ相手に投票しろ』という部分にだけ中途半端に背くことなどあり得るだろうか。
普通、逆らうなら最初から、つまり誰に投票するかという部分から逆らうはずだ。
それに何よりこの態度だ。当初の約束が果たされていないにも関わらず、謝罪もなければ本人に気にしているそぶりもない。
総合的に考えて高崎の裏切りは明白だ。
しかし、今は別のことを確認することが先決だ。
「仮にお前の言うとおり、みんなが純粋に俺達の勝利を願ってお前の意見に背いたとしよう。それなら、なぜお前はその結果を俺達に報告しなかった?」
「はあ……うるさいなあ。それに僕は『失敗したら報告してくれ』なんて言われてないんだけど。」
高崎はあからさまに面倒くさそうな態度を取りだした。そろそろ俺の我慢も限界に達しそうだ。
そんな俺の気持ちを察してか、荏原が先に我慢の限界を迎えたようだ。
「てめえ、こっちが下手に出てれば……」
荏原が今にも殴りかかりそうな表情で睨んでいる。そんな荏原を鈴森が隣で制している。
「まあいい。とりあえず、本選挙ではしっかり投票してくれれば構わん。」
「まったく、最初からそう言ってくれればいいのに」
高崎はさらに挑発すると、踵を返し教室を後にしようとする。そして、教室の扉の前で立ち止まり、
「まあ、これで僕の協力が得られなければ生徒会選挙には勝てないってことが分かったよね。」
振り返り越しにニヤリと不敵な笑みを浮かべながらそれだけ言うと、そそくさと教室を出て行ってしまった。
「なんなのよ、あいつ……」
「クソっ!舐めやがって……!」
高崎が退室した後、教室の中はみんなイライラしており、とても中間投票で勝利したばかりの陣営の雰囲気とは思えなかった。
「今日はやけに大人しかったですね」
そんな中、芝浦がいつもの落ち着いた口調で俺に話しかけてきた。
「どういう意味だ?」
「いえ、ただ、いつもの戸越君なら有無を言わせず相手を完膚無きままに言い負かしてたと思うので……」
「確かに!戸越、あんた何あんなパッとしない奴に言い負かされてんのよ!」
鈴森もそれに追随する。
「戸越さんには別の考えが合ったに決まってんだろ!」
そして、荏原は安定の俺擁護である。うむ。悪くないな。荏原には戸越ポイントを2ポイントくれてやろう。‐ちなみに何ポイント集めても特にメリットはない。
目黒はというと、隣で俺を上目遣いで見上げ、心配そうな顔をしている。
―うん、この謎の可愛さいにも大分慣れてきたな。
「まあ、高崎を言い負かすたけならいつでもできる。それよりも今回はあいつの様子を見て、確認したかったことがあったからな。」
「確認したかったことって何よ?」
「そもそもあいつが本当に100票以上動かせる程の器なのかってことだ。」
「えっ!?でも、実際あいつと交渉しただけで中間投票ではかなりの票が動いてたじゃない!」
鈴森が大声で驚き真っ先に反応する。
「確かに、実際に票は動いた。だが、俺達は誰も自分の目で高崎が指示を出しているところを見ていない。」
「そ、それは……」
「でも、確かにそうっすね。それに冷静に見ると、とてもあの男が100人以上の生徒に言うことを聞かせられるような器の人間には見えないし……」
鈴森をはじめ、他のメンバーが戸惑い、言い淀んでいる中、荏原が真っ先に気付いたようだ。
「さすがだな。荏原の言った通りだ。」
「いやいや、自分なんてまだまだッスよ!」
俺が軽く褒めると、荏原は大げさに頭をかいて満面の笑みで謙遜した。―こいつ頭はいいんだが、なんかバカっぽいな……マイナス2ポイント
「問題なのはあいつのこの場での態度だ。」
まだ俺の言うことを全く分かっていない様子の他のメンバ―に説明を続ける。
「確かに、あいつの態度はムカついたけど……」
「別にこれが、本選挙後であればあの態度も理解できる。しかし、これはあくまで中間投票だ。当初の予定とは違っていても結果は俺達の勝ち。さらに、データ上でも中間投票で勝った側の勝率は飛躍的に高くなる。ということは、仮に裏切りが予定通り進んでいたとしても、まだ俺達が勝つという可能性は残っていることになる。もし、本当にこのまま俺達が勝ってしまったら、あいつらはどうなる?」
「なるほど!そういうことですか!!」
「私もようやく理解できました。」
「そういうことね。……まあ、私は最初から分かってたけど!」
芝浦、目黒が納得し、鈴森が見え透いた嘘をつきながらも理解できたらしい。鈴森のボケはあえてスル―でいこう。
「高崎はそのリスクマネジメントもできていない。ここでは仮に裏切りが完璧に成功していたとしても、敵を作らず、できるだけ穏便に対応するのが当然だ。そして、これは高崎一人のリスクではなく、100人以上が関係するリスクだ。そんなことも気づかない奴が、大金を配るでもなく、ただ支持するだけで100人以上を動かすなんてありえない。」
そう、高崎はこの学園においてそれほどの重要人物ではない可能性が高いのだ。
恐らく、あいつが影響を及ぼす範囲は、サッカー部部長・日本代表候補ということを考慮して、せいぜいサッカー部の連中くらいだろう。
「でも、高崎じゃないなら、誰が100人以上の票を動かしていると言うんですか?」
芝浦が冷静に質問してくる。
「確定はできんが、現生徒会の連中か他に高崎と接点があって、ある程度この学園に影響力のある奴だろうな。」
普通に考えれば現生徒会の連中だろう。もしくは……
「もし、本当に現生徒会の人なら本戦で確実に中間投票と逆の結果になるじゃない!」
「そうですね。そうなると、もう手の打ちようがありませんね。」
再び教室内が暗い雰囲気に包まれる。
「一応、黒幕が現生徒会でもそれ以外でも対抗策は用意してある。とりあえず、俺達がやることはその黒幕が誰なのか確かめることだ。それが誰かによって使える策が大きく違ってくるからな。」
「さすがッス、戸越さん!必ずやこの俺が黒幕を見つけて見せます!!」
荏原よ……褒め称えるのは良いんだが、もっとボキャブラリーを増やしてくれ……
「そういうことでしたら、すぐに私達も調査に向かいます。」
「と、戸越さーん……」
芝浦が目黒の腕をつかみ、強引に引き寄せる。そして、目黒があまりの強引さに涙目で助けを求めている。
―こいつの目黒LOVEも最近勢いが増してきてるな……だが、涙目になっている目黒がやけに可愛いので今回はOKとしよう!
「まあ、最終的には私頼みになるんでしょうけど」
この自信はどこから来るのか。鈴森はなぜかドヤ顔である。
「じゃあ、各自様子を見つつ、調査してみてくれ。」
そして、メンバーは全員調査に向かうため、教室を後にした。
しかし、他のメンバーには言っていないが、実は既に目星は付いている。
―できれば、俺の予想が間違っていてくれるといいんだがな……
俺はあまり気乗りしないまま、重い足取りでその黒幕候補の下へと向かった。




