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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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特権にはこだわらない!これが俺たちの公約だ!!

「あ、あの……他に案のある方は……?」

 先ほどまで芝浦の裏切り疑惑の解消で笑顔と笑い声で満ち溢れていた資料室の光景はどこへやら……。意見が出しつくされ、生徒会役員一同は目黒の懇願にも近い問いかけにも沈黙を貫き続ける。

 そんな一同の反応に目黒は目をうるうるさせて涙目になりながらも必死に進行を続けようと奮闘している。

 最近目にする回数が減ってきた、目黒のおろおろする姿を微笑ましく見守っていると、今にも泣き出しそうな目黒と目が合ってしまった。

 ……さすがに、目黒が哀れに思えてきた。ここは俺が助け舟を出してやるか。俺は立ち上がり、

「いきなり具体的な方策を考えるのは無理があるだろう。まずは公約の方向性を決めてみたらどうだ?」

 俺の申し出に目黒は目を輝かせている。―最近はすっかり表情豊かになったものだ……

 沈黙という会議の進行役としては苦痛の時間から解放された安堵感と助けてもらえた嬉しさから満面の笑みを俺に向けている目黒に苦笑を浮かべながら、進行役を変わってやることにする。

 ―なんとか、この会議をコントロールできそうだ。

 実は、俺が進行役の交代しようと思ったのは何も目黒のためだけじゃないんだが……

「まず、どんな学園にしたいか、またはこの学園の生徒や教師が普段どうしたいと思っているか意見を出してくれ。とりあえず思いついたことを言ってくれて構わん。」

 俺が改めて生徒会メンバー全員に意見を求めると次々と意見が出てくる。

「とりあえず、今の生徒会が偉そうにしてるのが気に食わないわね。」

「確かに!あのカス共、無能なくせに生意気なんだよな。」

 確かに。磯子をはじめ、現生徒会、そして歴代生徒会の面々は権力の乱用して自分達の存在を誇示したがる風潮がある。それに、もともと俺が現生徒会に宣戦布告したのも、あいつらの理不尽な職権乱用に我慢できなかったからだしな……

「私も同意見です。とりあえず、私達は生徒会に当選しても生徒や教師の方を脅したり、無理矢理従わせるのはやめましょう。」

 かつて自分がされたことを思い出したのか、目黒は苦笑いで鈴森と荏原の意見を肯定した。

「とりあえず、目黒さんを退学させようとした磯子をはじめ現生徒会の方は断罪します。そして、今までの自分達の行ないを後悔し、懺悔してもらいます。……たとえそのために多少法を犯すことになったとしても……。」

 そんな目黒の姿を見て、芝浦が今まで見せたことのない不気味な笑みを湛え、猟奇的な雰囲気を醸し出している。―こいつ、いろいろと暴露した途端、変な属性つけてないか……?なんかヤンデレキャラみたいになってるんだが……。

 メンバー全員が芝浦の思わぬ新たな一面に驚きつつ(少し引きつつ)さらに議論を続ける。

「じゃあ、生徒会の権力縮小って方向にする?」

「でもさじ加減間違えると今までの生徒の不満が暴発して生徒会制度破綻するんじゃないのか?」

 単に権力を放棄するのは簡単だ。しかし、今まで長い間生徒会の独裁政権で成り立っていたのを急に180°変えて上手くいくとは思えない。それに……

「別に生徒会の権力の大きさはさほど問題じゃない。問題なのはすべてにおいて生徒会の独断で決定されてしまうということだと思うが……どうだ?」

 俺は自分の意見を述べた後、メンバー全員を見渡し意見を求める。

「そうですね。でも……」

「どうやって、私達が権力を乱用しないって生徒達に信じさせるのよ?」

 目黒と鈴森が俺の意見に同意しつつも難しい顔で問い返す。

「それについては考えがある。とりあえず方向性としては『すべての学園の生徒・教師の意見を取り入れ、自由で平等な学園を作る』とかどうだ?」

 俺は、既に自分の頭の中にあった意見をここで投げかけた。

「うーん。ちょっと具体性に欠けるけど、方向性としてはいいんじゃない?」

「俺は当然戸越さんの意見に賛成ッス!」

「私も賛成です。」

「私も特に異論はありません。」

 メンバー全員、特に反対意見もなく、無事俺達の方向性は『すべての学園の生徒・教師の意見を取り入れ、自由で平等な学園を作る』という少しありきたりで偽善的な方向性に固まった。

「じゃあ、次に具体的な方策についてだが……」

「戸越!さっきあんたが言ってた『権力を放棄せずに私達が権力を乱用しないことを生徒に信じさせる』方法って何なのよ!?」

 俺が切り出す前に鈴森が間髪はさまず口をはさむ。相変わらずせっかちなお嬢様だ。まぁ、俺もすぐに言うつもりだったから良いんだが。

「そんなの簡単だ。生徒・教師全員に自分の意見を反映させるチャンスを与えてやればいい。そういった制度を作ってしまえば生徒も教師も信じざるを得まい。」

 自信満々に言い放った俺だが、周りの反応はイマイチだ。

「す、すみません。私あまり理解できてなくて……」

「具体的にはどういう制度なのよ。」

 どうやら俺の言いたいことがイマイチ伝わっていないようだ。―まぁ仕方ない。天才はいつだって理解されない生き物だからな。

「簡単に説明すると、俺達役員と生徒・教師が直接交渉する制度のことだ。その名も『役員直接交渉制度』。生徒・教師達はそれぞれ意見がある場合は好きな役員を指名して交渉を行う権利を有する。その交渉がまとまればその案は即刻採用される。―これが主な概要だ。」

「それって、交渉する役員は責任重大じゃない!」

「俺達の独断で案が可決されるってことですよね!」

 一瞬の沈黙の後、役員一同は不安の表情を浮かべ、不満を口にした。まぁ、この程度は予想通りだ。

「別にすべての責任を負えと言ってるわけじゃない。交渉は2人1組で行う予定だし、難しい案件は持ち帰って役員全員で検討すればいい。―とにかく、今までただ生徒会の言いなりになっていた生徒や教師にも等しくチャンスを与えることによって『平等で自由な学園』を訴えられることが重要なんだ。」

「確かに、面白い制度ですね。」

 一同がまだ迷っている中、真っ先に賛同したのは、予想外の人物だった。

「芝浦……」

「これなら、現生徒会との明確な差別化になりますし、浮遊票を獲得するには面白いと思います。―ただ……」

 どうやら、芝浦は気付いたようだ。さらに荏原や鈴森も遅れて気づく。

「これって、俺達役員の権限が横並びってことッスか……?」

「私は別に良いけど……」

「目黒さんはどうなんですか?」

 一同の視線が一人の黒髪少女・目黒里奈に集まる。

「そうだ。この制度を採用すれば自動的に俺達役員の間に上下はなくなる。―つまり、『生徒会の権力』の大きさは変わらないが、『会長の権力』は俺達平役員と同じ程度まで縮小される。」

 そう、この制度を適用するには副作用がある。―それは生徒会役員の権力均等化、つまり生徒会長の特権や優位性が縮小するということ……。これで、選挙で俺達の特色を出せるうえに目黒の負担を軽減できるはずだ。それに……

「私は、別に構いません。元々会長になりたいわけではないですし。それにこの会議の中でも言いましたが、私は生徒会長や生徒会の権限をあまり誇示したくないんです。」

 生徒会候補メンバー全員からの視線に対し、目黒は笑顔で答えた。

「まぁ、目黒さんが良いなら私も構いません。」

「そうね。私も構わないわ。」

「俺もッス!」

 一同異論はないようだ。

「でも、そうなると戸越さんの権限も縮小してしまうんじゃ……」

 目黒が少し不安そうな表情になり、俺に尋ねる。

「俺は別に権力に興味もないし、縮小しようがなんとも思わん。」

 目黒の問いかけに一瞬、一同が俺の方に視線を送るが、俺の返答に全員が納得したようだ。

「まぁ、自ら会長を目黒さんに譲ったくらいだしね。」

「さすが、戸越さん!器がでかいッス!!」

「私は目黒さんがよければそれでいいんですが。」

 約一名、目黒にぞっこんで俺に一切関心がない奴がいるんだが……まぁ良いか。それにしても、芝浦は完全にヤンデレの本性をさらけ出すことにしたようだ。

「じゃあ、俺達の公約は①役員直接交渉制度、②会長の権限縮小ってことでいいか?」

 俺が改めて全員を見渡し確認を取る。

「はい、それで行きましょう。」

「賛成ッス!」

「私もそれでいいわ。」

「私も構いません。」

 全員の同意を得て、俺は一枚の用紙に決定事項を記入して、一息つく。

 ―一応、予防線は張っておいたが……できれば俺の思いすごしであることを願うばかりだ。

「じゃあ、この内容で明日の校内新聞に張り出してもらう。」

 そして、俺は教室の時計を見ると、同じく時計を見ていた目黒が

「もう遅いですし、今日は解散にしましょう。」

「そうだな。明後日は中間投票だし、明日の選挙活動は重要だ。今日はしっかり休んで、明日に備えるとしよう」

 明日の公約公示を踏まえ、明後日は現時点での目安を計るための中間投票がある。ここで良い勝負ができていれば本投票での逆転は十分に可能だ。それに……

「それでは、今日はお疲れ様でした。」

 目黒が挨拶すると、他のメンバーも各自教室を後にする。

「戸越さん?帰らないんですか?」

 一人取り残された俺に、教室を出ようと扉の前に立っている目黒が声をかける。

「あぁ、すぐ行く。」

 ―あとは当日の動向を見守るしかないか……。

 俺は一抹の不安を無理矢理押し込め、教室を出ようと目黒の方に向かった。



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