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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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芝浦の様子がおかしい……

 サッカー部の部室を出た後、選挙運動の方に合流しようと、俺は校門前に向かった。

 校門前に辿り着くと、部活に所属していない生徒達が新生徒会候補・現生徒会の演説に聞き入っている。

 どうやら、現生徒会側は副会長の大黒が、そして新生徒会側は生徒会長候補である、目黒が演説を行っているようだ。

 本来であれば、大黒と同じく副会長格である俺が演説をしているはずなのだが、あいにく今日は別件を任されていたため、目黒に演説をさせることにしたのだ。

 しかし、この人選が功を奏した。確かに、単純に演説の上手い下手で言えば圧倒的に大黒が勝っている。しかし、ざっと見た感じでは集まっている生徒の人数に偏りは見られず、ほぼ同じ人数のように感じられる。

 ―大健闘だ!目黒固有のファンを増えてきているようだし、俺の当初の見立て通りになってきている!さすが、俺!自分で完璧にこなす才能だけでなく、人を見る目まで備えているとは……周りの凡人達に申し訳ないな。

 ギャラリーの様子にも違いが見られる。大黒の演説を聞いている生徒達は、演説の内容を聞いて、「そうだ、そうだ!」「期待してるぞー!」といった選挙では比較的よく聞く声援を送っている。

 それに対し、目黒の演説を聞いている生徒は、「かわいい!」「焦らなくて大丈夫だよ―」と内容とは全く関係ない声援を送っている。

 目黒はといえば、相変わらずのカミカミ演説のようだが、それが逆に受けているようだ。―確かにかわいい!目黒が緊張しまくった挙句間違えまくりでおどおどしている仕草は普段から見慣れているものの、改めて見るとやはり可愛い!

 そんな目黒の様子を少し離れたところから微笑ましく見守っていると、不意に目黒と目が合った。

 俺が見ていたことに気付いた目黒はぷくっと小さな頬を膨らませ、むすっとした表情になった。―そろそろ助けてやるか。

 目黒が演説している新生徒会候補の下に向かう。

「あっ!戸越さん!!お疲れっす!」

「遅いわよ!ちゃんと上手く言ったんでしょうね!」

 すぐ近くまで来たところで荏原と鈴森も俺に気づき、声をかけてくる。

「当然、成功したに決まっているだろう。俺を誰だと思っている。」

 ―この場ではあの違和感のことは言う必要はないだろう。下手に不安にさせても意味はないしな。

「さすが戸越さん!」

 俺が自慢気に言うといつものように荏原が三次を送ってきた。―一方目黒はというと

「戸越さん、遅いです」

 相変わらずムスッとした顔のままだ。

「すまんな。―まぁ、ちょっとマイク貸してみろ。」

 俺が苦笑したところを見て、目黒はさらに頬を膨らませながらマイクを差し出した。

 俺はマイクを受け取ると

「お前ら、待たせたな!副会長候補の戸越だ!」

「おっ、戸越だ!」

「頑張ってね!」

「期待してるぞ!ナルシスト!」

 俺が挨拶すると、周りの生徒は再び騒ぎ、声援を送ってきた。―ふん。どうやら真打の登場に観客も沸いているようだな。

「今ここでしゃべっていたこいつが新生徒会長候補の目黒里奈だ。見ての通り、俺様と違い一人で何でもできる奴ではない。いつも一生懸命だったり、生徒会長として良いところもたくさんあるが、あちらの会長に比べれば能力が劣っているのは否めない。だからこそ、俺達役員だけでなくお前ら一般生徒の力が必要不可欠なのだ!是非俺達と一緒に目黒里奈を支えてやってくれ!」

 俺がギャラリーに向かって言いきると、周囲から大きな拍手が巻き起こった。―よし、反応は上々だ。この調子でいけば会長同士の対決でも十分勝機はある!

 横にいる目黒の視線に気づき、そちらを見ると、目黒はすぐに目を反らし俯いてしまった。頬を微かに赤く染めている様子を見ると、どうやら照れているようだ。

 その後、簡易な演説台から降りると、俺達役員はそれぞれ寄ってくる生徒の対応をしつつ、挨拶を行った。寄ってくる生徒の勢いはしばらく衰えず、改めて支持者が増えていることを実感した。

 しかし、ここでも気になることが一つ……芝浦がいない……。まぁ、こんな人前で聞く必要もないし、後からこいつらに確かめるとしよう。


 すっかり日が沈み、運動部もほとんど帰宅した後、現生徒会組が選挙活動を切り上げたのを確認し、俺達も撤収することにした。

 後片付けをして、それぞれ帰る準備をする中、俺は、気になっていた質問を口にした。

「そういえば、芝浦はどうした?」

「あぁ、あの子なら今日は所用があるとかで、先に帰ったわよ。」

「そうそう、なんかやけに慌ててましたけど……」

 俺の問いに対し、鈴森と荏原が答えた。

 ―この俺に対して一言もなく休むのはいただけないが、こいつらには報告していたようだし……よっぽど急用だったに違いない。今回は不問にしておいてやろう。

「そうか。まぁいい。芝浦には後から俺が言っておくが、今後はできるだけ選挙活動は休まないように!どうしても休まざるを得ない場合は事前に目黒か俺まで連絡してくれ。」

「了解ッス!まぁ、俺は何があっても休む気はないっすけど!」

「別にあんたは必要ないし、休んでも特に問題ないけど?」

「なに!?それはお前の方だろ!」

 ―こいつらも相変わらずだな。こいつらが喧嘩しなかった日があっただろうか。いや、ない!

「―もう止めるのも面倒だ……好きに言い争ってろ……」

 俺が半分あきらめながら二人を適当にあしらった。

「と、とりあえず、今日はお疲れ様でした……。あ、明日から、またよろしく、お願いします!」

 目黒はなんとか二人の気を反らそうと話題を変えた。

「じ、じゃあ、また明日の朝にこの場所に集合でお願いします。」

 目黒が締め、俺達はそれぞれ帰路についた。


「おはようございます。わ、わたくし、め、目黒、里奈をよ、よろしく、お願いします」

 翌朝、俺達は昨日演説を行っていた場所で朝の挨拶を行っていた。

さすがに、朝はどの生徒や教師達も慌ただしくしており、立ち止まる生徒は少ないものの、一声かけてきたり、笑顔であいさつを返してきたり、かなり感触は良さそうだ。

 鈴森は自分のファンに手を振っており、荏原も女子生徒の声援に顔を赤くしながらも小さく手を挙げて応じている。―こいつ、実はシャイボーイだな……

 この光景だけ見るとかなり順調のように感じられる。

 しかし……今朝も昨日の放課後に続き、芝浦は欠席している。

 今日も所用があるため欠席すると今朝メールがあった。―2回連続とは……さすがに気になるな……

 芝浦のことを気にしながらも朝の選挙活動は良い雰囲気のまま終わった。


 昼休み、俺達新生徒会候補メンバーは打ち合わせのため、いつものように資料室1に集合していた。そろそろ、立候補するにあたってのマニフェストの提出期限が迫っており、その打ち合わせのためである。

 しかし、昼休みが始ってから30分近く経過した今になっても、打ち合わせは始っていない。……芝浦が来ていないからである。

 全員そろってから始めようと待っているのだが、連絡もなく一向に来る気配もない。

「ねぇ、どうせ来ないんだしさっさと始めましょうよ!」

「ヤル気ないなら誰かと交代すればいいのに……!」

 時間が経つにつれ、鈴森と荏原は全く姿を見せない芝浦に対し相当苛立ってきている。

「が、学校には来ているみたいですけど……連絡もないですし……こ、今回も欠席でしょうか……」

 目黒は目黒でどんどん不機嫌になっていく荏原と鈴森に焦りまくっている。

「まぁ、落ち着け。だが、さすがにここまで来ないと、俺達だけで話し合いを始めるしかないな……」

 すると―

 ガラガラ

 扉の開く音がし、芝浦が来たと思い、全員が扉に視線を向ける。

「どうも!……あれ?もしかして入ったらイケない感じだった?」

 いつものように調子良く入ってきたのは新聞部部長の浅田だった。浅田は敏感にいつもと違う俺達の空気を感じ取ったらしい。

「どうした、何かなんか用か?見ての通り今は忙しいんだが……」

 俺がぶっきらぼうな態度で訊ねると

「何よ、その邪魔者みたいな態度は!―まぁ、いいわ。そんなことより大ニュースよ!」

 浅田は俺の無愛想な態度に少しムッとするが、すぐに興奮気味な様子に変わる。

「だから俺達はそんなことしてる程暇じゃないって言ってるだろ!?」

 荏原が俺に加勢してきた。

「あら、そんな態度取っていいわけ?もしかしたら今あんた達が一番気になってることかもしれないわよ?」

 浅田は挑発するような口調で俺達の態度を試そうとしている。

「……で、その大ニュースってのは何だ?」

「芝浦さんのことよ」

 俺が嫌々ながらニュースの内容を聞くと、浅田は不敵に笑って答えた。

「!?芝浦だと?」

 俺たちは『芝浦』という単語を聞き、全員浅田の話に食いついた。

「あら、急に食いつきが良くなったわね。―まぁいいわ。とりあえずこれを見て」

 浅田はそう言ってポケットから1枚の写真を取り出すと、俺達の間にある机の上に置いた。

「何だ?これは……?」

「これが、芝浦さんが選挙活動を休んでいる理由よ!」

「どういうことだ……?」

 その写真を見て、思わず目を見開いた。他の連中も同じようなリアクションだ。

「これはつい15分ほど前に撮った写真よ。見ての通りここに映っているのは磯子会長と芝浦さん。二人が密会して話し合っているところよ。」

 浅田が見せてきた写真にはどこかの教室で芝浦と磯子が真剣な表情で話している様子が映っている。

「ちょっと!これって、芝浦さんが私達を裏切って現会長と通じてたってこと……?」

「浅田先輩が言ってることも嘘じゃなさそうだし……やっぱり……」

 確かに、写真の端には今日の日付とつい20分ほど前の時間が記載されている。

「浅田、ちなみに芝浦と磯子は何を話していたか聞こえてたんじゃないのか?」

「もちろん!と言いたいところだけど、残念ながら聞こえたのはほんの少しよ―聞こえた単語は『選挙』『投票』とか『裏切り』とか言う単語だけ。でも、この単語と芝浦さんと磯子君の接点を考えれば彼女が磯子会長と通じていた可能性はかなり上がるはずわ。」

 ―浅田の話を聞いて俺たちはしばらく無言になった。

「マジかよ……」

「じゃあ、初めから裏切るつもりで候補者選考に参加してたってこと?」

 荏原と鈴森は、怒り半分、信じられないといった気持半分といった様子である。

 しかし、本当に芝浦は裏切り者だったのか?そもそも、まだ磯子と一緒にいたというだけで実際に実害が出ていない。なんとなく俺の中で芝浦を裏切り者呼ばわりするには抵抗があった。

「まだ、本当に芝浦が裏切っていると決まったわけじゃない。とりあえず、芝浦に直接聞いてみるしかないだろう。」

 俺がとりあえず事態の鎮静化に努めると

「っていうか、芝浦さんを採用したのもあんた達じゃない!もし、芝浦さんが裏切ってたらあんた達にも責任あるんじゃないの?」

 いきなり攻撃の矛先が俺と目黒に向いた。

「おい!なんで戸越さんの責任になるんだよ!そんなこと言ったら俺達だって近くで活動しながら気付けなかったんだから、お互い様だろ?」

「とりあえず、責任の話は後だ。まずは事実確認だ。今日の放課後芝浦のところへ直接確かめに行こう。」

「わ、私も芝浦さんの話を聞くべきだと思います。」

 目黒も俺の意見に乗っかってきた。

 特に反対意見も出なかったため、とりあえず、今日の放課後、ここに集合し、芝浦が来なければ彼女の教室に直接乗り込もうということで一応収拾はついた。

 だが、全員互いにギスギスしており、今までになく雰囲気は最悪だった。

 そんな中昼休み終了の予鈴が鳴ると、自然とみんな席を立ち、それぞれが自分達の教室に戻っていった。

 ―今まで時折感じてきた不安や違和感はこれの前兆だったのか……?そんなことを考えながら俺も自分の教室へと歩いた。


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