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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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役職にはこだわりません!私たちの対戦相手はだれですか!?

 その日の放課後、資料室1には再び俺を始め新生徒会候補の5人が集合している。

学習机5台が島型形式(小・中学校の頃、給食を食べるときに使われていた並べ方)で配置されており、席順はお誕生日席に俺、俺から見て右側が目黒、芝浦、左側が荏原、鈴森という配置になっている。

「これより、生徒会選挙の具体的な打ち合わせを行う。だが、その前に―目黒、ちょっと立て。」

「!?は、はい、分かりました。」

 俺の指示の意味するところがよくわからないといった様子で目黒が返事をする。

「じゃあ、今からお前が会議を仕切ってくれ。」

「わ、私には無理です!」

 今までにないくらいの反応速度で拒否した。―どんだけ嫌なんだよ……

「何度も言うが会長はお前だ。会長が生徒会の会議を仕切るのは当然だ。」

「そ、それはそうですが……」

 俺の言葉に目黒は少し俯き、困った様子で言い淀んでいる。

「別に仕切るのなんて誰でもいいわよ。―なんなら私が仕切って上げても良いけど?」

 言い淀んでいる目黒をかばう形で鈴森が仕切り役に名乗りを上げる。その表情は……なんたるドヤ顔!

 ただ、実は泣き虫であることを知っている側からするとなんとも微笑ましく思える。

「いや、そういうわけにもいかん。現時点でこいつは『会長の仕事』をほとんどやっていない。別に現会長のようになる必要はないが、最低限会長がやるべきことはやってもらわんと困る。選挙のことを考えても『生徒会長らしさ』は必要ないが、最低限の『会長の仕事』をやっている姿を見せることは必要だ。会議の仕切り役もその一つってことだ。」

 俺の話を黙って聞いていた目黒は俯いたままである。まだ躊躇しているのだろう。

 だが、少しの沈黙の後、ギュッと拳を握ると、顔を上げ、

「そ、そういうことでしたら……やってみます。」

「よし、じゃあ頼む。分からないところは俺がフォローするから安心してやってくれ。」

「は、はい!……そ、それでは、はじめに、誰がどのや、役職に立候補するか、き、決めたいと思います。」

 目黒が緊張気味に会議を進行し始めた。

「とりあえず、会長と副会長は決定済みだ。あとは、書記、会計、庶務の3つになる。」

「で、では、この3つの中でやりたい役職がある方は―」

「俺はなんでもいいっすよ!何でもこなせる天才ですから!」

 目黒が良い終わるより早くリアクションがあった。真っ先に反応を示したのは荏原だ。まぁ、こいつらしい返答だ。

 ―そしてこいつもドヤ顔である。

「私はその中で一番大変そうな仕事でいいわ。何せ私はこの中で最も優秀な人材なんだから!―まぁ、一番簡単そうな役職はお子様の1年生にでもやらせておけばいいわ!」

 それを聞いて、すぐに鈴森が対抗し、荏原を挑発している。―こいつも1年生相手にムキになり過ぎだろ。

「はぁ!?お前は無能なんだから一番簡単そうな書記でもこなしてろよ。」

「無能はあんたでしょ?ガキはただ書くだけで許される書記でもやってなさいよ!」

 おいおい、また喧嘩かよ……ていうか書記人気ねぇな!

「おい、お前ら!いちいち喧嘩するな。」

「はい、すみません!」

「べ、別に喧嘩なんて……」

 俺が一喝すると二人はすっかりおとなしくなった。

「じゃあ、二人とも拒否されているようですし、私が書記をやります。」

 ずっと、俺達4人のやり取りを黙って見守っていた芝浦が現時点で不人気極まりない庶務に名乗りを上げた。

「別に構わんが、どうしてだ?」

 正直この役職の人気・不人気に関わらず書記には芝浦を推そうと思っていた。だが、俺が頼む前に彼女から手を上げるとは……

「別に特別なことはないんですが……二人の言っていたように書記が一番簡単そうで私でも出来そうですし……」

 芝浦は苦笑いで遠慮気味に答える、さらに、

「―それに、現生徒会書記の志村さんとは個人的に勝負したいので……」

 先ほどまでの遠慮気味の態度とは違い、何か強い決意を胸に秘めたような強く、真剣な眼差しで続けた。

「なるほど……」

 二つ目の理由に芝浦の本音があるような気がした。

 浅田からもらった情報によると、現生徒会書記・志村志保。成績、運動新家、容姿に至るまで学年で中位に位置している女子生徒だ。

 ここだけ見ると芝浦とキャラが被っているように思われるが、決定的に違うところがある。

 ―それは、クラス内でのカーストである。

 芝浦はクラス内で無口と言うわけでもなく、特別明るい性格というわけでもない。そして、友達もいないわけではないが、常に多くの友達に囲まれているというわけでもない。

 それに比べ、志村は明るい性格でクラスのムードメーカー的存在らしい。そのため、友達は男女関係なく多く、常に友達に囲まれ、その中でも中心的存在である。

 故に志村も『普通な部分』は持っていても『普通さ』という部分で芝浦には到底及ばない存在なのだ。

 だからこそ、俺は芝浦を書記にしようと思ったのだが、まさか彼女から立候補してくれるとは……

 志村との間になにがあったかは気になるが……ともあれ好都合なのは確かだ。

「―目黒、お前の意見は?」

「わ、私も書記は芝浦さんで良いと思います。できるだけ皆さんの意思は尊重したいので……お二人はどうですか?」

 急に話を振られ、少し慌てつつも無難に進行しようと努める。

 ―どうやらしゃべるタイミングを計りかねていただけで進行役のことは忘れていなかったらしい。

「俺は別にいいっすよ!」

「私も特に問題ないわ!」

 二人も特に異論はないようだ。

「そ、それでは、書記は芝浦さんお願いします。」

「はい、分かりました。」

 芝浦は柔和な笑みで答えた。


「つ、次は会計と庶務ですが……」

 目黒が未だに慣れないながらも一生懸命進行するが、荏原と鈴森は相変わらず無駄に言い争うばかりで全く決まりそうにない。

「あの、もう会長と副会長の指名で良いんじゃないですか?」

 あまりにも決まらない状況にうんざりしてきたのか、芝浦が手っ取り早い方法を提案してきた。

 確かに、手っ取り早く決めるにはそれが一番だが……

「わ、私は、できれば立候補で決めたいんですが……」

 俺が反対するより早く、珍しいことに目黒が口を開いた。

 ―俺も目黒と同じく、できれば立候補で決めたいと思っている。

 やはり、自ら手を挙げた仕事と周囲に決められた仕事ではモチベーションに差ができてしまう。

 おそらく、選挙戦ではモチベーションが結果に影響し得ることを考えると俺達が勝手に決めてしまうのは得策とは言い難いのだ。

 ―仕方ない。こちらでアシストしてやるしかないか……

「俺に考えがあるんだがいいか?」

 俺が意見を申し出ると、

「さすが戸越さん!なにか名案を考え付いたんですね!?」

 荏原が目を輝かせて身を乗り出してくる。

「聞いてあげるわ。どうせ大した考えじゃないんでしょうけど。」

「お前!戸越さんに向かってなんて態度だ、コラ!」

「痴話げんかはいいから、とりあえず聞け。」

 俺が自分の意見を言うために二人のくだらない口論を仲裁すると、

「「誰がこんなやつと!」」

 二人の声が完全にハモった。やはり、二人の息はぴったりだ。

「二人とも役職にはこだわりはないなら、選挙の対戦相手で選らんだらどうだ?」

「さすが、戸越さん!まぁ誰が相手でも俺の勝利は変わりませんが!」

 ドヤ顔が少し癇に障るが荏原は予想通りの反応だ。

「私もどうせなら骨のある相手がいいわ!それで、残っている二人はどんな奴なの?」

 この二人は扱いやすくて非常に助かる。……だが、同時に不安でもあるのが珠に傷だ。

 俺はおもむろに浅田からもらった情報ノートを開く。

「まず庶務の方だが、葛西領かさいりょう、1年生だ。代々庶務は1年生が勤めているらしい。端的言うとこの葛西という男は優等生キャラだ。成績優秀、陸上部でも関東大会で上位入賞を果たすなど文武両道。さらに、誰にでもわけ隔てなく明るく接し、授業態度もまじめ。生徒、教師問わず人気者だ。」

「なるほど。俺とキャラが被っているようですね。」

 俺の説明を聞いて荏原が真面目な顔でつぶやく。―荏原、残念ながらお前は『優等生』ではなく『問題児』だ。

「次に会計だが、2年の戸田みなみだ。彼女はとにかく頭が良い。こと計算においてはこの学園で間違いなくトップだ。そして、黒髪ロングに整った顔立ち、さらにあまり感情を表に出さない性格から『クールビューティー』と呼ばれ、一部の生徒にかなり人気があるらしい。」

「なるほど。どうやら私の相手は彼女のようね。」

 鈴森がニヤリと笑いつぶやく。

 ―ちょっと待て!俺の説明の中のどこにお前が対抗意識を燃やす箇所があった!?

「二人ともヤル気になってるみたいですし、これで決定で良いんじゃないですか?」

 鈴森が冷静に意見を述べる。

 俺も芝浦と同じ意見だったため、進行してもらおうと俺は、目黒にアイコンタクトを送った。

「???」

 しかし、目があった目黒は俺の方をじっと見つめ、小首をかしげる。

 ―っ可愛いけど!!どうやら、俺の意図は全く伝わらなかったらしい。目黒よ、残念ながら今俺が欲してるのは『かわいらしさ』じゃなく、理解なんだ……アイコンタクトを送った側として少し気恥ずかしい。

「目黒先輩、それではこれで決定でいいでしょうか?」

「……!!す、すみません!……そ、それでは、庶務は荏原君、会計が鈴森さんで……いいでしょうか?」

 目黒が一応みんなの意見を確認してみるが、誰も異論をはさむ奴らはいない

「そ、それではこれで決定にします。……」

「はい。」

「了解ッス!」

「分かったわ!」

 思い思いに返事を返し、最後に俺が目黒に対して黙ってうなづき、再びアイコンタクトを送る。

「じゃあ、これで今日の会議は終わります。……み、みなさん、ありがとうございました。」

 今度は俺の意図がしっかり伝わったらしい。

 もし、伝わっていなければ、ショックで今後アイコンタクトは使えなくなっていたかもしれない。

「あ、あの、明日の朝からは選挙活動が解禁になるらしいので、朝と放課後に演説を行います。み、みなさん準備をお願いします。」

 目黒、残念ながら心の準備が一番必要なのはお前だ。頑張ってくれ。

「それでは、解散……にします。」

 目黒の頼りない挨拶を聞き、それぞれ席を立った。

 最終的にすべての役職が立候補でき決まったからか、どことなく教室を出ていく時のみんなの表情は、どこか満足気な表情に見えた。


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