役員メンバー初顔合わせ
翌日、予定通り、役員選考会の結果がポスターにより学園中に知らされた。
生徒の反応は様々で
「やっぱり鈴森様は選ばれたみたいだな。」
「1年生の荏原君も選ばれてる!この子可愛いのよね―」
「この芝浦って人誰だ?聞いたことないんだけど……」
「っていうか意外なメンバーばっかりだよね」
「これじゃあ、現生徒会には勝てないだろー」
「いやいや、逆に良い勝負しちゃうかもよ?何せあの『変才』戸越が仕切ってるんだし」
役員メンバーが決まったことによって生徒の関心もかなり高まってきているようだ。
反応もほぼ予想通りの反応ばかりだ。―ただ、『へんさい』って何だ!?どうせ二つ名のようなものを付けるのなら、俺の才能を余すところなく伝えられるようなセンスのある名前にしてほしいものだ。
一応『へんさい』の意味を浅田にでも確認しておこう。
そう思いながら、自分の教室へと向かった。
昼休み、いつもは俺と目黒が二人で集まり選挙の打ち合わせや作業をしているのだが、今日は違う。
―ちなみに朝気になっていた俺の二つ名『へんさい』についてだが、浅田に確認したところ、『変才』という漢字で『変人』と『天才』を合わせたものらしい。やはりいつの時代も天才は変人と呼ばれる運命なのか……
そんな運命に抗うため現実に目を向け直すと、資料室1の教室には俺と目黒の他に2人の女子生徒と1人の男子生徒が集まっていた。
今日は、顔合わせを兼ねて昨日決定したばかりの役員メンバーを招集してあるのだ。
「改めて、俺はこの副会長候補の戸越唯一だ。今日は急な招集に応じてもらってすまない。だが、選挙に勝つためにはお前らの力が必要不可欠だ。存分に活躍してくれ。」
俺が挨拶し、続いて会長の目黒が挨拶する。
「わ、私は会長候補の目黒里奈です。わ、私はみなさんのようなすごい才能とかはないですが……一生懸命が、頑張ります!」
緊張のせいか、少し上ずった声で、視線をあちこちさせている。
相変わらずのたどたどしい話し方だが、最初に演説を行っていた頃に比べれば大分ましになっている。こいつも成長したもんだ。
「本当にこの子が会長候補なの?今からでも変えた方がいいんじゃない?」
「確かに。会長にふさわしいのは戸越さんの方だと思うんですが……」
俺が目黒の成長に感慨深くなっていると、鈴森と荏原の二人が目黒の会長に異を唱え始めた。
まぁ、こういった反応を予想していなかったわけではないが……
「見ての通り、目黒はかなりの上がり症で人見知りだ。一般的に生徒会長にふさわしいと言える奴ではない。」
「じゃあ―」
鈴森がさらに意見しようとするが、良い終わる前に俺が話を続ける。
「しかし、だからこそ俺はこいつが今の生徒会長にふさわしいと考えている。」
「どういうことですか?」
今まで黙っていた芝浦が口を開いた。
「今までの生徒会長を振り返ると、現生徒会超を含めて漏れなく全員が独裁タイプだ。―まぁ、学園で最も優秀な人物でかつ絶大な権力を持っている奴が選ばれるわけだから、自然とそういった人物が多くなるのは分かる。それにずっとそういうタイプの人物が会長になっていれば、投票する側も『こういう奴が会長にふさわしい』と勝手に決め付けてしまう。―“たとえそれが、自分達にとって悪い人選だとしても。”」
「なるほど。だけど、それじゃあ今回も同じように『今までと同じ独占タイプ』の磯子会長が勝っちゃうんじゃないんですか?」
芝浦が尤もな意見を出した。
「あぁ、その通りだ。だからこそ俺達がやるのは『投票者の意識改革』だ。演説、交渉様々なことを行って投票者の意識を変える。誰だって圧政より自由の方が良いに決まっているからな。」
「でも、それなら誰が会長になっても良いんじゃない?」
鈴森がまたも尤もなことを言う。―さすが(厳密に言えば最終的に選んだのは目黒だが)俺が選んだ役員だ。頭の回転が速くて助かる。
「俺も周りから見れば『独裁タイプ』だろう。そして俺のような天才タイプは周りからどうしても警戒されてしまう。そんな人物が『生徒や教師を無理矢理従わせたりしない!』とか言っても説得力に欠ける。―だからこそ、俺や磯子と正反対な目黒が会長としてふさわしいんだ」
「なるほど。さすが戸越さん。なんと思慮深い!」
「まぁ、そういうことなら一応納得だわ……。」
「私は最初から納得済みですけど。」
三者三様ではあるが、とりあえず全員が目黒会長の下で選挙を戦うことに納得したらしい。
隣を見ると、目黒がほっとしたように小さく息を吐いた。
「それじゃあ、全員が納得したところで、改めて自己紹介だ。」
「じゃあ、私から。2年3組の鈴森茜よ。容姿端麗、成績優秀、格式高い家の生まれ、さらに人気も学園一の完璧美少女よ。私が加わったからにはもう怖いものはないわ。安心しなさい、愚民ども。」
鈴森が『通常の』強気な姿勢で自己紹介をして、偉そうに胸を張って威張っている。
荏原と芝浦を見ると、彼女の偉そうな態度に少しムッとなっている。
まぁ、普通はこういう反応になるだろう。俺も面接の時はイラっとしたものだ。
だが、彼女の泣き虫な面を知っている俺と目黒にとってはどこか微笑ましく見えてしまった。
「おい、貴様!雑魚の数合わせの分際で生意気じゃないのか?」
荏原が鈴森に対して突っかかった。―おい、お前の態度も大概だろ。
「あなたこそ、チビガキの分際で頭が高いんじゃない?」
二人がにらみ合う。ある程度予想はしていたが、似た者同士いきなりの険悪ムードだ。
「まぁ、二人とも仲間内で無駄に争うな。」
俺が二人に対して注意すると
「だけど!こいつ戸越さんに対して失礼じゃないですか!?」
荏原がさらに食いついてくる
「お前の気持ちは嬉しいが、『真の天才』には寛大な心が必要だ。これくらいのことで一々目くじら立てていては、無駄に体力と時間を減らすだけだ。」
「た、確かに!すみません。以後気をつけます。」
俺が荏原を上手く諭すと荏原は大人しく頭を下げた。―こいつは実際には一つ年下なだけとはいえ、見た目は中学1年生がいいところ。……そんな奴にここまで従順にされると逆に罪悪感が生まれてくるな……
「ふん、次からは気をつけなさいよ!」
このまま自己紹介に戻りたいところだが、鈴森が黙っていなかった。
「おい、鈴森。また俺に屈服されたいのか?」
俺が威嚇のため鋭い視線を鈴森に向けながら言うと、
「―わ、分かったわよ!」
と言って鈴森が黙りこんだ。
「さすが、戸越さん!この生意気女を既に調教済みとは!」
一連の流れを見ていた荏原が目をキラキラ輝かせている。
「い、いや、別に調教とかは……なぁ、鈴森!」
無駄な誤解を避けようと、俺が鈴森に助けを求めようとすると、
「え!?そ、そうね……」
鈴森は顔を赤くして少しあわてた様子で答え、すぐに俺から目を反らした。
「ややこしい反応をするな!」
―全く、これでは逆効果ではないか。
ふと、視線を感じ隣を見ると、目黒が白い目でこちらを見ていた。いや、お前は現場に立ち会ってただろ!
「とにかく、自己紹介だ。次は荏原お前の番だ。」
「はい、分かりました!」
俺が何とか話を反らし、荏原に振ると元気よく返事をして自己紹介に入った。
「俺は1年2組荏原英雄。〈えいゆう〉と書いて〈ひでお〉と読む。さっきキャンキャン騒いでいた雑魚とは違ってすべての分野においての才能に突出している。この生徒会には俺が『本物の天才』と認めた戸越さんからいろいろ学ぶために立候補した。」
良い終わると、荏原は鈴森に向けてフッと挑発的な視線を向けた。
「―このクソガキ……!」
鈴森も睨み返し、再び一触即発の空気だ。
「おい、二人とも」
俺が視線で二人にけん制を送ると、二人とも互いを視線から外して黙った。
―これは前途多難だな……
「それじゃあ、最後は私ですね。2年4組の芝浦唯です。私はお二人とは違って勉強も運動も容姿も普通です。それに、目黒さんのように不幸な境遇だったわけでもなく、隠れた才能があるわけでもない、本当に取るに足らない『普通の女子生徒』です。役に立つかは分かりませんがよろしくお願いします。」
最後の芝浦が普通の模範的な自己紹介をしてくれた。この中だとこいつの普通さはかなり貴重だ。本当に採用しておいて良かった……
ふと、時計を確認すると、もうすぐ昼休みが終わる時間になっていた。
「とりあえず、昼休みはここまでだ。今後の選挙については放課後集まって打ち合わせだ。放課後もこの場所に集まってくれ!―とりあえず、解散!」
俺がそう言うと、みんなゆっくり席を立ち、教室を出ていく。
「どうだ?新しいメンバーは?」
俺が目黒にそう問いかけると
「はい、やっぱりみなさん、面白くて良い人そうなので安心しました。」
「そうか。」
笑顔で答える目黒に俺も笑みで返した。
そして、彼女が書いた選考理由の最後の欄を思い出す。
『私や戸越君を理解してくれそうな人。そして、これからお互いに信じ合えそうな人。』
まぁ、あいつらならこれにも該当するだろう。
―少し違和感もあるんだが……その正体が分からん。
「あの、大丈夫ですか?」
隣を見ると、目黒が心配そうな顔で下から覗き込んでいた。
考え事をしているうちに表情が険しくなっていたようだ。
「なんでもない。さあ、教室にもどるぞ。」
考え過ぎても仕方がない。そう自分に言い聞かせて俺は、考えを一旦保留にした。




