目黒生徒会メンバー遂に決定!
面接から一夜明け日の昼休み、いつものように俺と目黒は集まっていた。
昨日の面接試験から役員選出をするためである。
「さて、どうするか。」
昨日の面接を終えた時点で候補は何人かに絞っているものの、どの生徒も捨てがたいと感じてしまいなかなか決めきれないでいる。
現時点で決定しているのは、面接を終えた時点で二人とも採用を即決した芝浦のみだ。
他の候補はというと、サッカー部のエースにして、年代別の日本代表に名を連ねる高崎真司、この学園において選挙管理委員会をはじめ多種多様な委員の経験を有する大田佳奈、俺を師と崇めるほど「天才」荏原英雄、そして学園一のファンクラブ会員を有する泣き虫お嬢様・鈴森茜の4人だ。
この中から2人を決めなければならないわけだ。
「目黒、お前はどう思う。」
俺は向かいに座る目黒里奈に尋ねる。
「みなさん、私なんかより優秀な方ばかりですし……私より生徒会長にふさわしい人ばかりですね……」
目黒は困ったような笑顔を向けながら答える。
おそらく、彼らに劣等感を抱いているのだろう。選考の前にそこを取り除いておかないとな……
「目黒、確かにここに残っている生徒は普通に考えれば全員お前より優秀な奴らばかりだ。だが、優秀なこと=生徒会長とか役員にふさわしいということはない。もし、そうなら俺が会長をやっているしな。以前にも言ったが、お前にはお前の良い部分がある。そこを活かせれば良い生徒会長になる。そして、何より俺は他の誰でもなくお前に会長になってもらいたいんだ。お前は「この天才である俺のお墨付きを得た」会長候補なのだ。もっと自信を持て!」
「あ、ありがとう、ございます」
目黒は顔を真っ赤にして伏し目がちにもじもじしている。
少しは自信を持たせることができたようだ。まぁ、この天才に励まされれば当然のことだな。さすが、俺。今日も絶好調のようだ。
「それじゃあ、改めて選考をしよう。」
とは言ったものの、目黒は人を選ぶという経験がほぼないはずだ。おそらくどこを重視して選べばいいか分からないだろう。
ここはある程度俺が情報をまとめ、選択肢を作ってやる必要があるな。
「まず、重視する点としては「現時点で俺達に不足している部分を補えること」だ。」
「不足している部分ですか……?」
「もちろん、選挙で勝つために不足している部分という意味だ。具体的に言うなら「人気」だ。」
「確かに……」
「すぐに納得するな。あくまで『多くの票を既に持っている』という意味での人気だ。まぁ、最近は俺も女子からの人気が高まっているようだがな。俺のかっこよさと才能から考えれば当然ではあるが。」
浅田からの情報によれば生徒会選挙を始めた頃から俺の女子人気はかなり高まっているらしい。
確かに最近いつもにも増して女子からの視線が増えた気もする。きっと俺のカッコよさを改めて認識し、見惚れてしまっているのだろう。
「『女子からの人気』ですか……それは良かったですね。」
目黒が冷たい口調でこちらにジト目を向けてきた。
―こいつ、俺に対しては遠慮しなくなってきたな。まぁいいことではあるが……
「まぁ、話を戻すが、この4人の中で『多くの票を持つ』人気者は鈴森、荏原、高崎の三人だろう。」
俺は浅田からもらった情報メモを取り出す。
「学園一のファンクラブを持つ鈴森は別格として、荏原は生意気ではあるが裏表がなく、少し抜けている部分が『かわいい』『弟にしたい』と女子生徒にかなり人気があるらしい。高崎の方はサッカー部のエースで年齢別の日本代表だ。特別イケメンというわけではないため女子からの絶大な人気があるわけではないが、同じサッカー部を始め運動部の連中とは仲が良く慕われているらしい。」
3人ともどんな種類の票かは違えど、みんな大きな票を持っている。ファンクラブをはじめとして『男子票』を持つ鈴森、一部の『女子票』を持つ荏原、そして、『運動部票』を持つ高崎。普通に票数だけ考えれば鈴森と高崎だろう。だが……
「でも、人気だけで決めてしまって良いのでしょうか……?」
「その通りだ。どの候補者も良い個性を持っているし、選挙である以上、ある程度は人気投票のようになってしまうだろう。だが、それだけではダメだ。」
これが普通の高校ならこの人選で問題ない。だが、残念ながらこの学園は『普通』ではないのだ。
「この学園の生徒会は絶対的な権力を有している半面、仕事内容はかなりヘビーだ。噂によると普通の高校の生徒会と比べると10倍くらいの仕事量らしい。それに権力がある分責任も追及される。まぁだからこそ大きな権力を与えられているわけだが。だからこそ、生徒会の業務を上手くこなせるだけの有能性も問われる。」
おそらく、現生徒会もそこを突いてくるだろう。
「有能性ですか……」
目黒が少ししょんぼりした表情で俯いた。
「一応言っておくが、お前に求めているのはそこではないからな。逆に言えば、お前が持っていない部分だからこそ、俺を始め他の役員に求められる物だ。だから、何度も気を落とすな」
「わ、分かってますよ!」
図星を突かれて焦ったのか、少し怒った様子で答えた。
「なら、かまわん。―ちなみに候補者の中で有能性を重視するなら、荏原、大田、鈴森の順だろうな。荏原は一つ下の学年だが学力は学年トップ。さらに俺と同じで何でもそつなくこなせる。大田は今までに多くの委員会を経験していて『仕事』の経験が豊富だ。さらにいくつも掛け持ちしていたようだから要領の良いのだろう。鈴森も俺や荏原に比べれば少し見劣りするが、それでもすべての分野で学園上位。さらにファンクラブの連中を自由に使えるのなら人手が必要な時も効率よく仕事を回せる。」
説明を一通り終えたところで目黒の方を見てみると、真剣な表情をして迷っている。
「まぁ、基準としてはこんなところだが、あとはお前の気持ち次第だ。」
「私の気持ちですか?」
「そうだ。会長のお前が誰と一緒に生徒会をやりたいかっていうのも重要なことだ。だから、俺は助言や提言はするが最終的な判断はお前に任せる。」
「そんな、責任重大……」
目黒は不安そうな顔を向ける。
「会長だからな。そこは仕方がない。」
「そんな……私には……」
再び自信のなさそうな顔で俯く。
「だが、俺はお前一人に責任を押し付けるつもりは全くない。もともとお前を会長に推したのは俺だしな。何かあれば俺が何とかしてやる。だから、お前は好きなように選べばいい。」
「―分かりました!少し時間をください。」
少しの沈黙の後、目黒は顔を上げ、真剣な目で答えた。
「分かった。じゃあ俺はしばらく席を外す。しばらくしたら戻ってくるから。」
目黒にそう告げて席を立った。
「あ、あの!」
出口に向かって歩こうとした時、突然目黒が引きとめた。
「?どうした?」
「あ、あの……」
目黒は顔を真っ赤にして伏し目がちになっている。何度か言おうと口を開くが、すぐに口を閉じもじもじしているだけだ。
「何か気になることがあるなら、遠慮しなくていいぞ。」
「い、いえ、そういうことではなくて……」
「じゃあ、何だ?何もないならもう行くが。」
そう言って俺が再び扉の方に視線を向けると
「あ、あの携帯の番号を教えてください!」
「……は?」
目黒のあまりに予想外の質問に少しフリーズしてしまった。
「い、いえ……き、決まったら、連絡しようと……で、でも私、と、戸越君の連絡先知らないですし……」
目黒は顔をさらに赤く染め上げてあわあわしながら答える。
どうやら、選出を決めたらあちらから連絡をしようと思い、俺の携帯番号を聞こうとしたらしい。
「なるほど、そんなことか。」
「だ、ダメですか……?」
目黒が上目遣いで聞いてくる。―相変わらずの威力だな!
というより、別に携帯の番号を教えるくらいかまわない。そもそも今後のことを考えれば必要だろう。
かなり目黒と一緒に行動していることが多いのに未だに番号交換をしていなかったとは……
「全然かまわん。むしろ、お前に番号を聞かれて断る理由がない。」
「―あ、ありがとうございます」
目黒はより一層赤くなり、ゆでダコのようになっている。
―言い方が少しややこしかったかな。
そう思い苦笑しながらも、目黒の仕草に悪い気はしなかった。
ピリリリリ
資料室を出てから20分くらい経過しただろうか。目黒からメールが入った。
やはり、人見知りにとって電話はハードルが高かったか……
そう思いながらメールを確認すると
『メンバー決まりました。確認していただきたいのでよろしければこちらに戻ってきてください。』
丁寧過ぎる程のメール文に思わず笑みがこぼれてしまった。
『了解した。すぐに向かう。』
すぐに返信をして資料室に向かった。
「結果はどうなった?」
質問しながら教室のドアを開くと、目黒がビクッとしてこちらを振り返った。
いきなり、俺が入ってきて驚いたらしい。
「は、はい。こんな感じです。」
そう言うと、目黒は一枚の紙を差し出した。
俺はそれを確認すると、そこには既に採用を決めている芝浦を含め5人の候補者の名前と選考理由が書かれている。
そして、名前の横に二重丸印がつけられている生徒が3人いる。
おそらく、この印が採用した生徒だろう。
「なるほど。良い人選だ。」
俺は笑顔で目黒称えた。
「一応、戸越君が言っていた基準をメインで考えました。最後に私の気持ちも少し入れてしまいましたが……。本当にこれで良いんですか……?」
目黒が不安そうな表情で俺に確認を取る。
「当然だ。選考理由も納得できるし、何よりお前が決めた人選だ。何の不満もない。」
「そうですか。ありがとうございます。」
目黒は安心したような柔らかい笑顔で答えた。
俺は再び紙を確認する。
◎1年4組 芝浦唯
◎2年3組 鈴森茜
◎1年2組 荏原英雄
2年5組 大田佳奈
2年4組 高崎真司
最終的に選出者は芝浦、鈴森、荏原の3人になったようだ。
選考理由を読むと、おおむね俺と同じだが、最後は目黒自身の気持ちで決めたようだ。
俺の言った基準で芝浦と荏原は決定したが、最後の一人が決まらなかったようだ。
どうやら、面接で鈴森が見せた泣き虫要素に親近感を覚え、一緒に頑張りたいと感じたらしい。―まぁ、目黒らしい人選だ。
「じゃあ、発表のポスターの作成と採用・不採用に関わらず面接を受けた生徒全員に連絡だ。全部今日中に終わらせないとならない。急ぐぞ!」
「は、はい!」
そう言って俺と目黒は慌ただしく教室を後にした。




