見栄張りお嬢様。最後の切り札は……
芝浦が退出した後、俺は目黒と確認を取り、面接終了を待つことなく正式に芝浦の採用が決定した。どうやら、目黒も俺と同じことを思っていたらしい。
しかし、まだ面接がすべて終了したわけではない。残りは3人だ。
「次の方どうぞ。」
残りの3人にも期待以上の人材がいることを願い、次の面接を待つ生徒を呼んだ。
その後、二人の面接が終了した。正直どちらもなかなかの人材だった。
一人はサッカーなら誰にも負けないという高崎という男子生徒だった。
うちの学園は毎年全国大会に出場している強豪校だ。しかし、高崎はその強豪校の中でも別格の存在らしく、年齢別の日本代表にも選出されている逸材らしい。
運動部の気持ちを代弁でき、他の部活にも顔が利いているというアピールポイントがある。
もう一人はこの学園での「仕事」の経験値では誰にも負けないという大田佳奈という2年生だ。
彼女は、入学後、図書委員、文化祭実行委員会、クラス委員、選挙管理委員会等様々な委員会に所属し仕事をこなしてきている。
特にその経験値と最後の選挙管理委員会に顔が利くというのは選挙のことを考えればかなりプラスだろう。
また、いくつかの委員会は掛け持ちしながら行なっていたようで、それは要領よく仕事をこなせる能力があることを示している。
二人とも少し前の荏原と共に最終候補には入っている。この中から2人を選ぶことになるだろう。嬉しい悩みだ。
俺が、3人の履歴書を見比べていると、
「あ、あの……最後の方がまだいらっしゃるんですが……」
―しまった!そういえば、まだ残っていた。
はっとして時計を確認すると、もうさっきの面接が終わってから10分くらい経過している。
目黒に言われて気がついた俺は、すぐに最後の生徒を呼んだ。
「つ、次の方どうぞ。」
ガラガラ
「ちょっと!どんだけ私を待たせるのよ!」
ツインテールの女子生徒は入ってくるなり怒りをぶつけてきた。
「自分たちが面接官だからって何様のつもりかしら!?あと1分待っても呼ばれなければ帰るところだったわよ!」
「す、すまん。……」
―完全にこちらに非があるためぐぅの音も出ない。だが、こいつ怒りのあまり自分が面接を受ける側だと忘れてないか?
彼女に謝りながらそんなことを思っていると
「まぁいいわ。いちいち庶民のミスに腹を立てていてはきりがないし。早く面接を始めましょう。私は2年3組の鈴森茜。よろしく。」
鈴森はすぐに冷静になると席に着き、勝手に自己紹介をしてきた。
―今回についてはこちらが100%悪い。確かに文句を言われても仕方がない。だが、あえて言わせてもらおう。―こいつ、ウザいな。
「そ、それじゃあ、自己PRを頼む。」
俺は、引きつった笑顔で自己PRを促した。
「私は、すべてにおいて他を圧倒しているわ。勉学、運動、容姿、そして家の格式の高さ……まさに非の打ちどころのない美少女ね。」
俺は、浅田から事前にもらった情報メモを見てみる。
―なるほど、学力は俺には劣るものの確かにどの教科も毎回学年5位以内には入っているし、運動部には入っていないもののどのスポーツもそつなくこなすらしい。容姿も青みがかった色のツインテールに目鼻立ちが整った顔。どう見ても貧乳だということを除けば、まぁ、美少女である。また、実家は大手ゲーム会社の社長であり、かなりのお嬢様らしい。そして、その優れた容姿や才能、家柄から学園一会員数が多いと言われるほどのファンクラブも存在している。
―なんとなく俺とキャラが被るな……俺のファンクラブはあまり聞かないが……
「私が役員になれば資金の援助も得られるし、何よりこの才能あふれる私を仲間にできるというメリットがあるわ。そこら辺の凡人たちを仲間に加えるよりよっぽど効率的な人選なはずよ。それに、この私が自分から仲間になってあげるなんて滅多にないことよ。泣いて喜びなさい。」
鈴森は上から目線で偉そうに言った。
―相変わらず生意気だな、こいつは。
確かに、資金面の問題や俺ほどではないものの能力も高い。さらにファンからの票も期待できる。俺の私情を抜きにすればこいつも面白い人材である。だが……
「見たところお前は人の下に就くより人を従えるほうが好きそうに思うが、どうして役員に立候補した?」
「そ、それは……」
鈴森が予想外の質問に言葉を詰まらせる。そして、その表情からははっきりと動揺の色が見て取れる。
「何を動揺している?俺はただ、志望動機を聞いているだけだぞ?」
俺は意地悪い笑顔を浮かべ、再度質問する。
「べ、別に動揺なんて……してない、わよ。」
完全に目が泳いでいる。―こいつ分かりやす過ぎだろ。
「そもそもお前本当に誰にも負けないものなんてあるのか?現にお前は目の前の俺に運動も勉強も負けているようだが?」
「そ、そんなことないわよ!私は天才なんだから。勉強だってあなたより上の順位を取ったことだっておるもの!」
「そんな見栄を張るなよ。お前がこの俺より劣ることはもはや明白だ。お前の言う俺より上だったことがあるっていうのは俺が欠席してランク外だった時だろ?」
鈴森は悔しそうに唇を噛み下を向く。
「でも、私の方が家柄は上よ」
「家柄なんて所詮親のおかげだろ?お前自身の力は関係ないと思うが?」
さらに嘲るように追い詰める。やはり生意気な奴を言い負かすのは楽しい。
「……」
鈴森は俯いたまま黙ってしまう。
「どうした?もう言い返してこないのか?まったく、この程度で黙りこんでしまうとは精神的にも脆いな」
「……たし、……」
鈴森は口を開き、小さくつぶやく。
「なんだって?」
俺は嘲るような態度で聞き返した。
「わ、私だって頑張ってるもん!」
鈴森はこちらを見据え、目に涙を溜めて、涙声で言い返した。
―しまった……ちょっとやりすぎたか……
「い、いや、すまん。ちょっとからかい過ぎ―」
俺が鈴森に謝ろうとすると、謝罪の言葉を言い終わる前に
ガラガラ
扉の音が鳴り、
「何茜様泣かしてんだ、こら!」
「貧乳をいじめるな!」
「貴様許さんぞ!……しかし、いじめられている茜様もなかなか……」
などと口ぐちに叫びながら男子生徒が面接会場になだれ込んできた。
「な、なんだ、こいつら?」
いきなり、乱入してきた男達は俺と目黒を取り囲み背後に鈴森を隠すような位置取りをしている。俺も思わず動揺してしまった。隣を見るとただでさえ小さい体をさらに小さくして目黒がおびえていた。
「貴様、こんな美少女を泣かせるなんて。恥ずかしくないのか!」
「今すぐ謝れ!」
彼らの勢いに圧倒された俺は
「あ、ああ。すまんな、鈴森。」
男子達は舌打ちをした後、こそこそ相談し、後ろを振り返った。
「茜様、こう申しておりますが、いかがいたしましょう?」
すると鈴森は制服の袖で涙をぬぐう。
「ゆ、許す……」
小さくそう呟いた。
「だ、そうだ。茜様の広い御心に感謝しておけ!」
「命拾いしたな。」
などと好き放題言いながら彼らは教室から出ていった。
「……だれだ!あいつら!!」
思わず叫んでしまった。
「私のファンよ。私が危なくなった時はいつも助けに来るわ。」
過保護か!もはやファンっていうより護衛だろ、あれ。
鈴村が口だけ偉そうにしているだけだというのはすぐに気がついたが、まさか、こいつのファンがここまで熱狂的だったとは……
「と、とりあえず、言い過ぎたことは謝る。すまん」
とりあえず、改めて謝罪する。彼女の虚勢にはすぐに気付いたが、まさかあんな厄介なファンが就いていたとは……
「う、うん……」
最初の尊大な態度はどこへやら。鈴森はしおらしい態度で頷いた。
ファンの人数とファンからの愛情の大きさでは、彼女に勝てる者はまずいないだろう。
まぁ、他の生徒に比べて能力的に優秀だということは十分分かっていたし、資金やファンからの票も正直魅力的だ。
ファンの奴らはアレだったが、それだけ支持されていると思えなくもない。学園一のファンクラブ会員数というのは伊達でははかったようだ。一応候補として残しておこう。
「とりあえず、面接は以上だ。結果は改めて連絡する。」
「わかった……。」
涙声でそう答えると、再び制服の袖で涙をふき、席から立ち上がると、そのまま教室から出ていった。
これで面接はすべて終了だ。なんだかんだで良い人材がいたのは運が良かった。
採用を既に決めている芝浦を除いて、最終候補者は荏原、高崎、大田、鈴森の4人になった。この中から2人か……これは選考に時間がかかるかもしれんな……
俺はそんなことを考え、思わず苦笑してしまいながら、改めて最終候補者の履歴書を眺めていた。
 




