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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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彼女の武器は「普通」です!

「面接は以上だ。結果は改めて連絡する。」

「はい……分かりました」

 面接を終えた女子が少し落ち込んだ様子で席を立ち退出していく。

 どうやら、上手くアピールできなかったようだ。

「今の女子もイマイチだったな。良くも悪くも普通過ぎて印象に残らなかった。」

「多分、それが分かったから……彼女、落ち込んでいたんじゃないでしょうか……?」

「まぁ、間違いなくそうだろうな。だが、これが結果だ。」

 荏原の後、3人面接をしたが、これといった生徒はなかなか出てこない。みんな優秀それなりの特徴は持っている。だがどこか物足りない感じがする生徒ばかりなのだ。

 例えば陸上部で関東大会で3位に入ったとか、読書数は誰にも負けないとか、料理は誰よりも自信があるとか……なかなか良い個性なのだが、どこか決め手に欠けるのである。

 まぁ、あんなキャラの濃い奴の後では仕方がない部分もあるが……

「とりあえず、次に期待するとしよう。」

 残り4人の中にめぼしい人材がいることを願うばかりだ。

「次の方どうぞ。」

「失礼します。」

 俺が呼ぶと、一人の女子生徒が入ってきた。―もしかしたら次は!という微かな希望は彼女を見た瞬間に打ち砕かれた。

 肩までの長くもなく短くもない黒髪に、背丈もおおよそ160センチくらいと平均的。肌はどちらかというと白い方だが決して色白というわけではない。顔も良いか悪いかと聞かれれば可愛いのだが、100点満点で言うと76点といった感じである。

 ……なんというか、普通である。知り合いに「あの子ってどんな子なの?」と聞かれると「うーん……普通にいい子だよ!」と答えるしかないようなどこにでもいる普通の子だ。

 その女子生徒は席に座ると、じっと俺からの質問を待っている。

「じゃあ、まずクラスと名前、それから自己PRをお願いします。」

 あまり期待せず彼女に解答を求めた。

「に、1年4組芝浦唯です。」

 緊張しているようだが、これも普通だ。目黒のようにカミまくるわけでもなく、緊張し過ぎて目が泳ぎまくるとかは一切なく、普通に緊張している。おまけに名前も探せばたくさんいそうな普通の名前だ。どこまで普通なんだ、こいつは!

 俺は、彼女のあまりの普通ぶりに勝手に「ミス・ノーマル」と命名することにした。

 ―申し訳ないがこいつは期待薄だな。手早く終わらせるとしよう。許せ、「ミス・ノーマル」

 そう思いながら続く自己PRに耳を傾ける。


 だが、その自己PRを聞き、俺は彼女の評価を見直すことになる。


「私には特技も特徴も特にありません。勉強もこの学園の中で平均点くらいだし、運動も上手くはないものの下手なわけでもありません。料理も、歌も、パソコンも得意ではありませんが並み以上にはこなせます。見た目も特別可愛くはありませんがブサイクというわけでもないと思います。私は何をやってもどんな分野でも普通なのです。でも、こんな私にも誰にも負けないものがあります。―それは、「誰よりも多くの人の気持ちを理解できること」です。」


 ―そうか!思い出した!!こいつは書類選考トップ通過の生徒だ!


 彼女の誰にも負けないことを聞いて俺は目を見開いた。

 そもそも、何でこんなどこをどう見ても普通の生徒が書類選考を通過しているのか?と違和感を感じていた。俺としたことが、その疑問に今の今まで気づかないとは……

 俺は彼女の履歴書を見た段階で、「誰よりも多くの人の気持ちを理解することができる」という自己PRに惹かれ、今回の面接でも密かに最も期待していたのだ。

 それが、まさかこんな「ミス・ノーマル」だったとは思わなかったがな……

 俺の評価が180°変わったことを知ってか知らずか芝浦は続ける。

「この世の中で一番多い人間は「強者」でも「弱者」でもありません。「普通」なんです。しだから、一番多くの人のことを知ろうと思えば必然「普通」の人間の気持ちを理解する必要があるはずです。さっきも言った通り、私は何をやってもどんな分野でも「普通」です。だから、何をやる時もどんな分野でも、私は一番多くの人の気持ちを理解し、一番多くの人の気持ちを代弁し、尊重することができると思います。」

 この時点で採用を決めたいくらいではあったが、俺にはどうしても聞いておきたいことがあった。

 そう思い、彼女に最後の質問をしようと口を開きかけると―

「そ、それでは……「少数派」の意見は、む、無視、するんですか……?」

俺が訪ねようとしたことはそっくりそのまま俺の隣でずっと黙っていた女子生徒・目黒里奈によって質問されていた。いつになく真剣な表情だ。

 ―まさか、こいつと全く同じことを考えていたとはな……思わず苦笑してしまった。

「それは『私には』できません。あくまで私は「普通」ですから。―だから、その役割は、目黒さんと戸越君にお任せします。」

 芝浦は笑顔で答えた。

 目黒の方を見ると笑顔で頷いていた。―採用決定だ。

 ここで、もし、「少数派の意見も理解できるように頑張ります」とか言ったら採用は見送るつもりだったが……

 こいつはちゃんと「自分という普通の人間」も理解していた。

 一人でできることは限られている。芝浦は誰よりも「普通」だからこそ「普通」層の人の立場に立って考えることができる。しかし、一方で「強者」や「弱者」の気持ちを理解することは難しい。

 また、逆もしかりである。俺は「優秀」だからこそ、「普通」の奴や「弱者」の気持ちを想像することはできても理解することはできないのだ。

 だからこそ、彼女は「俺達の」生徒会には必要な人材なのだ。

 自分と立場の違う人間の気持ちが簡単に理解できるはずがない。もし、そんなことができると言う奴がいればそれは嘘か欺瞞だ。

 芝浦唯という「普通」の人間は自分の利点も弱点も理解した上でアピールしていたのだ。―これは予想外の収穫だった。

 これであくまで理論上だが、俺が「強者」と「弱者」、目黒が「弱者」(特に最下層)、芝浦が「普通」とすべての人の気持ちになって考えることができることができる。

 つまり「すべての人の意見を尊重できる」生徒会の出来上がりだ。


「ありがとう。面接は以上で終了とする。結果は追って連絡する予定だ。」

「はい、ありがとうございました。」

 そう言って、立ち上がると、彼女は「普通」に退出していった。

 ―その時、不意に、俺はどこからどう見ても『普通』の彼女に少し違和感を感じた。しかし、すぐに考え過ぎだろうと思い直し、彼女の後姿を見送った


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