戸越2世!?荏原英雄!
翌日の放課後、俺達は資料室で待機していた。いつもと同じ教室だが、今日は机といすを並べ直している。言わずもがな、今から行なわれる面接のためである。
本来なら昨日行なわれるはずだったが、昨日はずっと落選者のフォローに駆け回っていたため、今日にずれ込んだのである。
落選者へのフォローも特に問題なく、今から行なわれる面接にしっかり集中できる。
すべての準備を終え、目黒の方を見てみると、
何かあうあうつぶやきながら立ったり座ったりを繰り返している。まさに緊張している人のテンプレとも言える姿である。
「おい、何でお前が緊張してるんだ?」
ちょっと呆れたような口調でたずねる。
「そ、しょんなこと言っても……」
大丈夫か、こいつ?なんか心なしか顔色も悪そうなんだが……
「まぁ、深く考えずに気になることがあれば聞いてくれればいいから。」
「……は、はい……」
「とりあえず、時間もないしそろそろ始めるぞ」
目黒は黙ってうなずいた。もはや返答する余裕すらないらしい。
まぁ、そのうち慣れてくれるだろう。それまでは俺がフォローするしかないな……
そして、俺は最初の生徒を呼ぶ。
「それじゃあ、最初の方入ってきてください!」
ガラガラ
扉の音が鳴り、一人の男子生徒が入ってきた。面接選考会スタートだ。
「ありがとうございました。結果は明後日には発表します。」
そう言うと、面接を終えた男子生徒が席を立ち、教室を出ていく。
「うーん……なんかパッとしないな……」
面接を開始して彼でちょうど半分の10人目だったが、これまで全くと言っていいほどめぼしい生徒はいなかった。元々優秀で尚且つ書類選考も通過した生徒だけあってどの生徒も熱意があり、しっかりアピールポイントがある優秀な生徒ばかりだ。
だが、これと言った特徴がないというか、キャラが薄いというか、とにかくパッとしない生徒ばかりなのだ。
まぁ、どうしても天才で個性あふれる俺の前ではどんな生徒も霞んでしまうからな。仕方がない。
……だが、このままだとまずい。とにかくだれかキャラの濃そうな奴現れてくれ。
「次の方どうぞ。」
そんなことを願いながら次の生徒を呼ぶ。
「失礼する。」
小柄な男子生徒が入ってきた。前髪が眉毛にかかるくらいの長さの茶髪に大きな目、肌は白く中性的な顔をしている。いわゆる美少年というやつである。
事前に浅田に作ってもらった情報メモによると、学園中の女子から絶大な人気を誇っているらしい。―こいつ小さいくせに生意気だな。
「じゃあ、自己紹介と自己PRを3分以内でお願いします。」
「1年2組荏原英雄だ。えいゆうと書いて英雄と読む。名前の通り、俺のなんでもこなせるスーパーヒーローだ。」
キャラ濃いの来た!!いや、確かにパッしない奴ばっかりでうんざりしていたが……なんだこの痛々しい奴は!
「戸越先輩!あんたにお願いがある。」
そう言って荏原はおもむろに立ちあがった。―おい、こいつ何で面接で頼みごとしてるんだ。
「戸越唯一、俺をあんたの弟子にしてください。」
いきなり土下座してきた。……まじでなんだ、こいつ?正直ドン引きなんだが……
俺があまりに予想外の出来事に黙ったままになっているにも関わらず荏原は続けて話し続ける。
「さっきも話したが俺はなんでも万能にこなせる天才だ。頭も良く、さらにスポーツも万能だ。―だが、そんな俺でも一人だけ敵わないと思った人がいた。―戸越さん、それがあんただ!」
ま、まぁ、俺に敵う奴等全国探してもそうそういないだろうがな。だが、こいつはなかなか見どころがあるな。
「詳しく話してみてくれ。」
「俺は昔から何でもできる天才だった。そして、全国から優秀な奴だけが集まっているこの学園に入学してからもそれは変わらなかった。だが、内心では自分が一番優秀だ、自分は天才だと思っていても周りを気にして謙虚な態度を取ってきた。そうしないとすぐに浮いてしまうからな。突出した才能を持つ奴は大なり小なり同じようにして他人と接しているはずだ。―だが、戸越さん、あんたは違った!俺以上に頭がよく、スポーツもできて容姿も良い。それなのに、あんたは周りに全く媚びようとしない。周りから「自己中だ」「自意識過剰だ」などと言われても自分を貫き通す。俺はそんな疑いようのない才能と周りの圧力に屈しない強い心を持ったあんたを見て、生まれて初めて他人に憧れた。―正直俺は生徒会なんてものにはあまり興味がない。だけど、あんたの下で働き、あんたのような真の天才になるため、俺は役員に応募した。―だから、頼む!俺を弟子として、あんたの下で働かせてくれ!」
なるほど。俺の才能を魅了され、俺への憧れから生徒会を目指しているとは……もしかしたら、こいつは良い奴かもしれない。さっきドン引きしてすまん!
俺が自分の中の評価を一新し、荏原株を急上昇させていると、
「あの……その、さっきの少し偉そうな感じは、戸越君の真似ですか……?」
この面接で初めて目黒が発した質問であった。
ここで来たか、目黒!正直お前が面接で口を開くことは半分あきらめていた。
その質問を受け、「うーん」と少し悩んだ後、
「確かに最初のころは真似をしようと思っていたが、今はただ自分の思っていることをありのままの自分をさらけ出して話しているに過ぎん。真似しているだけでは永遠に二番煎じだからな」
なるほど、この考え方には好感が持てる。確かに人の真似も大切だが、それだけでは、追いつき、追い越すことはできない。だが、それなら一つ矛盾が生じてしまう……
「荏原、お前は「俺に教えてほしい」のか、それとも「俺から学びたい」のか、どっちだ?」
俺が真剣な表情で質問すると、
「俺は、あんたから「本物の天才」について学びたいです。」
荏原は即答した。
「じゃあ、お前を弟子にすることはできない。」
「そんな!?」
「だが、俺の下で働くことは前向きに検討しておく。もし、お前が役員になっても俺はお前になにも教えない。俺の行動を見て勝手に学んでいけ。」
俺はそう言って荏原に笑いかける。
「はい!ありがとうございます!」
「結果は改めて連絡する。面接は以上だ。」
「了解ッス!失礼しました!」
荏原は元気に教室を後にした。




