天才・戸越唯一
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「…戸越!、戸越唯一!!起きろ、授業中だ!!」
「…うん?…そうか、今は授業中か…」
教壇の上に立つ男性教師に何度も名前を呼ばれ、気づいた俺は周りを見渡し現状把握に努める。どうやら、俺は授業中に寝てしまっていたらしい。
「『そうか、授業中か…』じゃない!毎回毎回ばかにしやがって…」
教師はポキっと持っていたチョークをへし折り、顔に青筋を立てるほど苛立っている。
「ただでさえ、教師の仕事はストレスがたまる仕事だってのに……」
怒りで震える声でこの数学教師の滝はぶつぶつと説教を始めた。まったく、彼も毎回毎回懲りない奴だ。どうして彼の説教ごときで俺が自分の行動を変える必要があるのだろうか、いや、ない。俺は自分の好きな言葉の一つである初志貫徹を改めて決意した。
「そもそも生徒というものはだな……」
……どうやら俺の決意は彼には全く届いていないようだ。滝の説教はまだまだ続きそうだ。仕方がない。彼の説教も聞きあきたので、ここで俺について自己紹介しておこう。
戸越唯一、国内屈指の進学校王政学園の2年生。スポーツ万能、頭脳明晰、容姿端麗と非の打ちどころのない天才少年である。さらに見た目もカッコよく、「王政学園イケメンランキング」(俺調べ)では2年連続第1位を獲得している。まぁ、こんな完璧な俺にも欠点がないわけではないが、こうも長所ばかり並べると勘違いしているだけではないか、とか話を盛りすぎているのではないかとか思うかもしれない。しかし勘違いでもなければ盛りすぎてもいない。真実なのである!そう、真実なのである!(大事なことなので二回言った)このエリート校において、テストではどの教科も常に校内3位以内に入り、スポーツはどの種目でもそつなくこなし、大抵そこらの部員より実力は上回ってしまう。さらに、休日の街中でモデルにスカウトされるくらいのイケメン振りだ。このように、俺の万能ぶりは客観的数値により証明でき、それを俺はしっかり自覚しているだけなのである。全く、自分の才能が恐ろしい……。この神に愛されているtのを通り越して過保護にされているとしか思えない俺の才能を嫉妬する奴は多い。この滝という教師もその一人なのであろう。しかし、天才はいつの時代も周りに疎まれがちである。そう、これは天才の宿命なのである。
「……おい!聞いてるのか!!お前に言ってるんだぞ!戸越!!」
「……はぁ。」
俺が自分の優秀さ故の孤独と向き合おうとしていると滝は再び俺の名前を叫んだ。
自己紹介中に大声を上げられたせいで、気のない返事をしてしまった。相変わらず沸点の低いやつだ。まったく、ゆっくり自己紹介もさせてもらえないとは……。
「クソ!……今日という今日は許さん!寝ていた罰としてこの問題解いてみろ!」
教壇の上で苛立っている数学の教師は俺に問題を解くように促した。
「はい、分かりました……」
俺は眠い目をこすり、渋々黒板の前に歩き出す。
ふと、他のクラスメートからひそひそと話し声が聞こえてきた。おそらく、俺のピンチにも動じない態度に対する尊敬の言葉や俺のあまりのカッコよさに感嘆する声だろう。周りの声に耳を傾けるのは大切なことだ。しっかり聞いておこう!と耳を澄ませてみた。
「ねぇねぇ、先生も負けず嫌いだよね?」
「戸越に恥かかせたいからってここまで難しい問題にしなくていいのに」
「まぁ、戸越は存在が恥ずかしいみたいなところあるからね。」
「ていうか、この問題全然授業関係ないし。」
「絶対このためだけに用意してきたよね。」
「っていうか、もう勝手に二人でやってくれればいいのに。」
……なるほど。予想していたものとは少し違うが、まぁいいだろう。彼女たちは俺のすごさを理解できるまでに至っていないようだ。天才は他人から理解されないことが多いからな。いつでも天才は孤独だ……。仕方がない。
俺は理解されない孤独感を感じながら出題された問題を解いていく。なるほど。これはなかなか難しい。しかし、天才たる俺にかかれば造作もない。数学教師が自信満々に出題した問題は、俺という天才により、解き始めてわずか5分足らずで解かれてしまった。さすが俺!他の追随を許さない天才ぶりだ。俺は自分の才能に酔いしれながら、後ろに立っていた数学教師を振り返り「解けた」という意思表示をする。
「これでいいですか?」
引きつった表情を浮かべる滝に対し、勝ち誇った表情で言うと
「……正解だ。」
彼は悔しさを押し殺しながら答えた。俺はそんな様子を見て満足しながら自分の席に戻った。
「クソ!覚えてろよ!」
そんな彼の負け惜しみを聞き流し、俺はゆったりと自分の席に着いた。
……この後自分がどのような報復を受けるかも知らずに……