人が足りない!
「な、なんだと……?」
「ですから……リコールはこちらで受理しました。しかし、あなた達は生徒会選挙に立候補することはできません。」
翌日の昼休み、昨日の放課後の時点でリコール申請に必要な200人以上の署名を達成した俺と目黒は、選挙管理委員会の部室に来ていた。もちろん、正式にリコール申請をするためである。
しかし、選挙管理委員会の受付を行っていた男子生徒は、実に事務的にあしらってきた。くっ、これが噂のお役所仕事と言う奴か!
しかし、なぜこのようなことになったのか。
―遡ること5分前―
集めた署名用紙を渡し、リコールの申請が受理されたところまでは良かった。問題が生じたのはそのあとである。
「それじゃあ、次に生徒会選挙に立候補したいんだが……」
そう言って記入済みの立候補用紙を提出した。選挙管理委員会の受付は俺が提出した紙一枚を受け取ると、不備がないかチェックを始めた。
クラスと名前しか書く欄がない用紙に不備なんかあるわけないだろ。まぁ、一応形だけのチェックだろうな。
「お待たせしました。」
やっとか、と思い教室を出ていこうと踵を返した俺の背中に思いもよらない言葉が投げかけられた。
「すみません。あなた方の立候補は受理できません。再度記入を行ってからまたいらっしゃってください。」
「な、なんだと……?」
そして現在に至る。
「どうして、この立候補が受理できないんだ?」
「いえ、どうしても何も……人数が規定に達していないので……」
なに!?人数が足りない?どういうことだ?
「ちょっと詳しく説明してくれんか?」
俺の問いに受付の男子生徒は少し面倒くさそうに説明し始める。
「生徒会選挙に立候補するためには、生徒会役員候補の記名が必要なんです。つまり、あなた達の場合、あと3人足りないことになります。」
おい、嘘だろ?そんな規定があったなんて……。ふと、隣を見ると、目黒と目があった。目黒は私も知らなかったと言わんばかりに首をぶんぶん振っている。……いや、普通に声に出して言ってくれよ。
「とりあえず、そういうことですので、ひとまずお引き取りください。」
受付男にそう言われ、用紙を受け取ると俺達は渋々教室を後にした。
「さて、これからどうする?」
我らが部室(と化している)資料室1に戻った俺達は今後について打ち合わせを行うことにした。
「ど、どうするっていっても……とりあえず誰か役員をやってくれそうな人を探すしか……」
目黒が自信なさげに答える。そうなのだ。足りないのならば新たに探すしかない。
しかし、問題は誰に声をかけるか、だ。正直適当に人数を集めるだけであればすぐに何とかなる。しかし、そうもいかないらしい。
リコールが受理され、新たに選挙が行なわれる場合、通常とは違うシステムで選挙が行なわれるらしいのである。
①旧生徒会、新たな生徒会候補は共に5人の役員候補がそれぞれ選挙に出馬させなければならない。
②出馬した役員候補者はそれぞれの役職同士で決選投票を行い勝敗を付ける。
③これを5戦行ない、多く勝利した側が新生生徒会となるものとする。
通常選挙と違うルールはこんな感じである。
つまり、通常は会長選挙だけを行い、会長決定後会長の指名で役員が決定するのに対し、今回は役員候補5人の総力戦ということになる。
なるほど。そりゃあ、リコールから会長になる生徒が今まで出なかったわけだ。自分一人ならまだしも自分以外に最低2人票を集められる人物を見つけなければいかんのだからな。
しかも、まずいことに立候補期間はリコール受理から1週間だ。時間がない。
「目黒、お前の知り合いで優秀な奴はいないのか?」
「すみません……私ずっと他人のことなんて気にしてなかったので……」
ダメ元で目黒に聞いてみるが、予想通りの返答が返ってきた。
そう、俺達は理由は違えど、他人のことなど全く気にかけずに過ごしてきたせいで、他の生徒の情報が全くない。
俺の場合は自分以外の生徒など興味がなかったため、目黒の場合は人間不信のため他人を完全にシャットアウトしていたため、お互い生徒会長などの限られた人物しか知らないのである。
そのため、すぐにめぼしい人物が頭に浮かばないのだ。
となると誰かに聞くしかないが……この短い期間では何人にも話を聞いている時間はない。
「あ、浅田さんに聞いてみるのはどうですか?」
「……」
「あ、あの……ダメですか?」
目黒が上目遣いで自信なさ気な表情で聞いてきた。
「……そうか!浅田がいるじゃないか!でかしたぞ、目黒!!」
予想外の目黒のファインプレーに一瞬思わずフリーズしてしまった。普段校内新聞を書いているあいつなら、他の生徒にも詳しいはずだ。
「よし、それじゃあ早速行くぞ!」
「は、はい」
「そうだ、目黒。今回みたいな感じで今後もどんどん意見出してくれよ。」
そう言って目黒の方を振り返り笑いかけると、彼女はいつものように頬を赤く染めて照れつつも
「は、はい……頑張ります。」
そう言って、控えめな笑顔を浮かべた。
「優秀な生徒なら何人も知ってるけど……役員に向いていて、さらに現役員に勝てるかと言われると難しいわね。」
新聞部部長の浅田を訪ね、早速相談してみるが、期待通りの解答は得られなかった。
「やはり難しいか……」
「学力が高いとか、部活でいい成績を残してるとかならいくらでも紹介できるんだけどね……あなた達が探してるのはそういう生徒じゃないんでしょ?」
「確かに……」
そうなのだ。ただ優秀な生徒というだけなら、調べればいくらでも出てくる。
だが、優秀な生徒と役員選挙で勝てる生徒っていうのは全く別なのだ。くそ、このままでは完全に手詰まりだ……。
「もういっそのことじゃんけん大会でも開いて決めてみたら?」
浅田は冗談交じりに投げやりなことを言ってきた。
「おい、じゃんけんとか、そんな適当な……そもそもそんな大会の参加者を募集している暇があれば……!?」
参加者の募集!?そうか、その手があった!
「浅田、お前に頼みがある!」
俺は妙案が浮かんだ高揚感を抑えられず興奮気味に浅田の両肩を掴んだ。
「ち、ちょっと……」
「あーすまん。ついテンションが上がってしまった。だが、これで何とかなるかもしれん。」
隣にいる目黒から冷ややかな視線を感じた気がしたが……うん、後でしっかり説明して機嫌を直してもらおう。
「お前に頼みたいことは一つだ。校内新聞に募集記事を載せてくれ!」
「ぼ、募集記事?別にいいけど……」
浅田は「何で?」と言いたげな表情を浮かべている。
俺の隣に目を向けると目黒も頭に?を浮かべて俺の解答を待っている。
俺は二人の疑問に答えるため、高らかに宣言した。
「これより、全校生徒対象、役員候補面接試験を実施する!」




