意識し合う二人―里奈side―
今回は里奈視点のお話です。
この感情の正体は何なのでしょうか……
いつものように、放課後に現生徒会のリコールを呼び掛ける署名活動を行ってから帰宅した私、目黒里奈は自室にこもり、ベッドの上で丸くなりながら悩んでいます。
その悩みごとの原因は、間違いなく彼―戸越君でしょう。
最近では、私のために生徒会長に啖呵を切ったり、私なんかに自分のトラウマを話してくれたり、と私を支えてくれようとする彼を信頼できるようになってきました。それに、彼の期待に少しでも応えたいと思い私なりに頑張っているつもりです。
しかし、普段信頼し、感謝している彼に対し、今日の私はついつい冷たい態度を取ってしまっていました。別に彼が何かをしてきたわけでもありませんし、自分でもなぜ彼に対して冷たい態度を取ってしまったのか分かりません。
原因を見つけようと今日の私の行動を思い返してみると、今日の私は自分でも驚くほどに、普段なら考えられないような言動を取っていました。
例えば、今日戸越君と一緒に新聞部の浅田さんに会いに行った時のことです。
はじめは別に普通でした。初めて行く場所、初めて会う人に緊張し、おどおどしながら部屋の中に入りました。
しかし、そこからがいつもとは違いました。
戸越君が浅田さんと挨拶し、話している様子を見ていると急にイライラしてきたのです。今までずっと、周りになにも期待してなかったため他人に対してイライラしたこと等最近では記憶にないくらいでした。きっと、私にとっての戸越君と、現実のギャップに驚いたのでしょう。
私にとっての彼は、友達がおらず、いつも一人で、しゃべる相手と言えば同じ「ぼっち」である私だけのようなものでした。それが、今目の前でどう見ても私より美人の人と楽しそうに挨拶をかわし、彼女の容姿に見惚れているではありませんか。
気づけば彼に向けて冷めた視線を送っていたのです。
「……いやらしい、です……」
私のそんな言葉は予想していなかったのでしょう。彼は明らかに動揺していました。
男子が本質的にエッチだということは知っています。でも、実際目の前で戸越君がそういった行動にでるとなぜかイライラしてしまい、冷たい言葉を浴びせてしまいました。
後から考えると私はなぜあんなにイライラいしていたのか分かりません。
こんなのは初めての経験です。
その後、戸越君はいつものように人を食ったような態度で交渉に臨み、新聞部を味方につけることに成功していました。
しかし、私達の目的のためには良いことのはずなのですが、なぜか素直に喜べない自分がそこにいました。
そして、放課後前日と同じように演説をしながら署名活動です。
演説の効果もあり良い調子で署名が集まりました。しかし……
「今日の成果は30人か……」
帰り仕度をしながら、戸越君がつぶやきます。
そう、始めたばかりの頃に比べればペースは良くなったもののこのままでは期限内のノルマ達成はかなり厳しい状況です。
「す、すみません……このままでは全然足りませんよね……」
私がもう少ししっかり演説ができれば……いつも戸越君がフォローしてくれるおかげで何とかなっているものの、私が彼の足を引っ張っているのは明らかです。」
「いや、そんなに気に病む必要はない。2日で68人はそこまで悲観する数字ではない。それに、昼休みに浅田を味方につけられたのが大きい。明日からはかなり期待できそうだ。」
彼の気遣いには毎回救われています。
でも、浅田さんを頼りにしているような言い方にちょっとムッとしてしましました。―どうせ、私なんて期待するだけ無駄ですよ!なんなら浅田さんと一緒に生徒会長目指せばいいんです。
「たしかに、あの人、美人でしたもんね。それに明るくて……スタイルも私なんかより……」
思わずそう言ってしまった後、彼の様子を窺ってみるとひどく動揺しているようでした。さすがに悪いと思い、謝るタイミングを計っていると
「ふん、もしかして嫉妬か?」
戸越君は軽い感じで言ってきました。
‐し、嫉妬?なんで私が?た、確かに私は戸越君のことは信頼していますし、彼には感謝模しています。でも嫉妬?
「あ、あなたに、し、嫉妬なんて……してましぇん、……してません!」
完全に予想外の出来事に動揺しまくりの私は、すぐに否定しようとしましたが、カミカミになってしまいました。
結局、戸越君とはそのまま別れてきてしまいました。
実際改めて振り返ってみると、私が戸越君に思わずひどい態度を取ってしまった瞬間に共通点が見つかりました。
―それは、どの瞬間にも浅田さんが関わっているということです。
具体的にいえば、戸越君が浅田さんに関心を持ったり、浅田さんのことを良く言った時でした。
ここから導き出される結論は……
私は浅田さんに嫉妬していたということです。つまり……私は、戸越君のことが、す、好き?
「いやいや、そ、そんなはずは……」
急に顔が熱くなり、自分でも顔が真っ赤になっていることが分かるほどだった。
今出たばかりの答えを否定しようと、別の解答を必死に考えました。しかし、考えても考えても結局一つの答えに辿り着いてしまうのです。
―どうやら、私は戸越君のことが、好き、みたいです。
私の顔はさっきより一層熱くなり、恐らくゆでダコのような色になってしまっていることでしょう。
気づけば私は、恥ずかしさを紛らわすため枕に顔を埋め「―、―!」と声にならない声を叫びながら足をバタつかせ、ベッドで暴れていました。
「ふー。そうか、私は彼のことが好きなんだ。」
ひとしきり暴れた後、息を整えながら改めて実感した。
―そうか、私は浅田さんに嫉妬してしまうほど彼のことが好きになっていたのか……
実感すると、今まで悩んでいたのがウソみたいに胸がすーっと楽になったような気がしました。
そして、不思議と明日からはもっと頑張れる、そんな気がしました。




