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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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そっちじゃありません。会長候補はこちらです。

「署名お願いします!」

その日の放課後、俺たちは正門でさっそく署名活動をしていた。

「しょ、署名……お、お願い、します」

隣の目黒里奈はカミカミで声量も小さいため、通りかかる人のほとんどにスル―されてしまっている。ふと、彼女の手元にある紙切れを覗き見る。署名活動を開始してそろそろ30分くらい経つが、彼女の持つ署名用紙は印刷されたままの状態をきれいに保っている。……うん、まぁこいつなりに頑張ってはいるのだろう。

「はぁ。」

俺は自分の署名用紙も確認して、思わずため息をついてしまう。現状集まった数は3人である。30分で3人なら悪くはないように感じるかもしれないが、2週間で600人の3分の1である200人の署名を集めなければならないと考えるとかなりまずいペースである。しかも、早く手を打たないと部活をやっていない生徒がいなくなってしまう。

「しょ、署名……お願いしましゅ……します」

隣の目黒の様子を見るが……相変わらずだった。

「仕方がない。やるか!目黒、ちょっといいか。」

「はい?」

話かけると目黒は小首をかしげ、俺と身長差があるため少し見上げるようにしてこちらをを向く。……目黒よ、残念ながら、今欲しているのはかわいらしさや愛らしさではない。署名なんだ

「ちょっと演説やるぞ。」

「え、演説……」

目黒の表情が一瞬にしてひきつり、フリーズしてしまった。

「とりあえず落ち着け。基本的にしゃべるのは俺だから安心しろ。お前は俺がしゃべり終わった後に軽く挨拶してくれればそれでいい。」

「そ、それくらい、なら……」

「俺が話振るまでは黙って聞いててくれればいいから。ただ、顔は伏せるなよ。顔覚えてもらわないといけないんだから。」

「頑張ります……!」

 俺は、思いっきり叫ぶため、すぅーと息を吸い、

 「注―目っ!!」

 自分でもびっくりするほどの声量になった。周りを見渡すと大勢の生徒がこちらを見ている。その数はざっと50人くらいはいる。

 「おほん。」

 一つ咳払いをして息を整える。

 「俺たちは今校内新聞で知っている人も多いと思うが、2年1組戸越唯一と2年2組目黒里奈だ。俺たちは今からこの王政学園において学園史上初の快挙に挑もうとしている。」 周りの生徒たちは、完全に俺の演説に聞き入っているようだ。とりあえず掴みはOKだ。

「みんな知っての通り俺たちは先日、現生徒会長・磯子に宣戦布告をした。だが、王政学園史上これまでリコールは3回行なわれているが、そこから生徒会長になった例はないらしい。つまり、俺たちがリコールし、さらに会長選挙で勝てば学園史上初の快挙になるわけだ。」

「まじか!全然知らなかった。」

「俺も!確かに通常の選挙以外で会長になろうなんて考える奴なんて滅多にいなさそうだもんな。」

「でも、今までにもリコールってあったんだね。」

よし、まずは生徒の関心を引き付けるのは成功だ。それにしても、まさか署名活動の用紙を受け取りに行った時にたまたま教師から聞いた話がここで役立つとは。

 「そして、そんな偉業を成し遂げて新たな生徒会長になるのが今俺の隣にいる少女―目黒里奈だ」

 目黒に視線を送り、挨拶するように促す。

「……せ、生徒、会長に立候補……する予定のめ、目黒里奈、です。」

顔を紅潮させて、もじもじしながらなんとか挨拶をこなした目黒は、小さく礼をする。

「今しゃべってる奴じゃないんだ。」

「正直あの娘じゃ、会長は無理だろ」

周りはざわざわとしている。聞こえてくる声は決して目黒を歓迎するような内容ではない。

だが、今はこれでいい。

「みんなはこの目黒という少女では生徒会長は務まらない。そもそも会長には向いていない、と思っているだろう。確かに、こいつが現会長より優れているところは少ない。しかし!特に優れていないからこそお前らが今より楽しく過ごしやすいと思える学園にしてくれるはずだ」

「それに、見てみたいとは思わないか?見るからに会長どころかクラス委員にすらなれそうにない目の前にいるおどおどした女の子が、あの磯子会長相手にどこまでやれるのかを……。」

 俺の言葉を聞き、一瞬の沈黙の後、周りにいる生徒がざわざわとしはじめる。

「確かに、面白そうかも。」

「絶対勝負にならんだろ」

「いや、意外と良い勝負かもよ 笑」

「ちょっと見てみたいよな」

よし!!ここまでくれば完全にこっちのペースだ。

「しかし、その勝負もまずはリコールを成立させないことには始まらん。別に署名したからと言って投票を強制はしない。まずは、この目黒に挑戦権を与えてやってくれないだろうか!」

 そう言って俺は頭を下げながら、隣で黙っている目黒に合図を送った。

「よ、よろしくおねがいします!」

俺に続いて目黒も頭を下げる。

その後、一瞬場が静まりかえる。そして……

「よし、とりあえず署名しとくか!」

「俺も署名するよ!」

「私も!この勝負見たいし」

少しの静寂の後、次々と生徒が俺と目黒のところに押しかけ、署名用紙に群がってくる。

「みなさん。一人ずつ並んでお願いします!」

俺は呼びかけ列を整理しながら、目黒の方を見る。

「頑張ってね!」

「あ、ありがとうございます」

署名していった生徒に励まされると、ぱっと笑顔を浮かべ、うれしそうにお礼をしている。

「とりあえず、成功だな」

彼女のうれしそうな顔を見て思わず表情が緩んでしまう。ふと目黒と目が合うと、いつもなら反射的に目をそらし俯いてしまうの彼女だが、(まぁそれはそれで微笑ましいのだが)今日は違った。俺の微笑み混じりの視線に彼女は嬉しそうな笑顔で返してきた。

これで、あいつの人見知りが少しでも直ってくれると助かるんだがな……

俺は、目黒の普段では決して見られない表情に思わず苦笑しながら再び列の整列に戻った。



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