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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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いじめられっ娘、生徒会長を目指します。

「それでは、第一回戦略会議を始める」

翌日の昼休み、俺は目黒と共に特別棟の一室、マイベストプレイスこと資料室1に来ていた。俺の必死の説得により共に「打倒生徒会」に向けて生徒会選挙に参加することになった目黒は俺と向かい合うようにパイプいすに座り、いつもようにもじもじしながら目をぱちぱちと何度も瞬きをしながら視線をあちこちさせている。完全に挙動不審である。ここが取調室なら証拠ゼロの状態からでも有罪と断定してしまう程である。

どうやら、部屋に男子と二人きりという状況に緊張しているようだ。

まぁ、こんなイケメンと二人きりなら、緊張してしまうのも無理はない。

ここで一つの疑問が生まれた。現状どう見てもいっぱいいっぱいのこの少女にさらにプレッシャーをかけるとどうなるのか。うむ、実に興味深い。さっそく検証開始だ。

俺は尚おろおろし続けている目黒の顔をじっと見つめてみた。

目黒はすぐに視線に気づき、ちらっと俺の方を見るとあわてて目をそらして俯いてしまった。

―ここまでは予想通りだ。問題はここからだ。俺は引き続き彼女をじっと見つめてみる。すると彼女は小さな体をさらに丸くして小さくした。そして、うずくまるような姿勢でさらに深く俯き、意地でも俺に顔を見せないといった感じだ。しかし、俺も負けじと少し顔を近づけさらにじっと見つめる。すると彼女は控えめに顔を上げ、上目遣いでこちらを覗きこんできた。

「……あまり、見ないでください……」

目黒は少し涙目になり、顔を紅らめながら懇願してきた。

―検証の結果「目黒に限界まで視線を浴びせてプレッシャーをかけ続けると……かわいくなるようだ。もし、俺がロリコンや妹萌えといった属性を持っていれば即効惚れていたかもしれない。……うん、ノンケで良かった。

「あの……作戦会議、しないんですか?」

俺が、改めて目黒の危険性について考察していると、目黒が少し眉を寄せてムッとした表情で訪ねてきた。

……完全に忘れていた。

「よし、それでは改めて作戦会議を始める。まずは、そうだな……まずはどちらが会長になるかだな。」

「……えっ!?」

目黒はしばしの沈黙の後目を見開き聞き返す。

「あの……会長は戸越君がなるのではないんですか?」

彼女は恐る恐る尋ねてくる。

「いや、出来れば俺はお前に会長をやってもらいたいと思っている。」

「ぜ、絶対無理です!!」

彼女はバッと身を乗り出し、食い気味に訴えた。いつものおどおどした態度が嘘のような反応速度だったな。

「理由は2つある。一つ目は今の会長との差別化だ。非常に忌々しいことだが、俺と磯子は客観的に見てキャラがかぶっている部分がかなりある。選挙で勝つためには相手と違う方法・考え方の方がいい。同じような奴なら普通は現職に投票するのが当たり前だからな。」

そうなのだ。頭が良いところや運動ができるところ、何をやらせてもそつなくこなしてしまう万能さ等―もちろん俺の方が格上であるが―客観的に見ると似ている部分がかなりある。違うところと言えば、奴は人当たりがよく、人望があるところくらいか……。

「た、確かに。……二人とも性格が悪そうですもんね。」

「……お前実はなかなか毒舌だな」

遠慮気味の態度とは裏腹に結構バッサリと切ってくる。俺が少しひきつった表情で目黒の方を見やると、やはり彼女はあわてて目をそらした。

「あ、いえ……すみません……」

視線を泳がせながら、焦った様子で答える。

「まぁ、いい。二つ目の理由は目黒、お前のキャラクター性だ。」

「私のキャラクターですか?」

「そうだ。お前はお世辞にも特別優れているとは言えない。頭が良いとか、リーダーシップがあるとか、天才的な発想力があるとか、他人と比べて並はずれた才能があるわけじゃない。お前の特徴と言えばいつもビクビクしているとか、人見知りが激しいとか、どう見ても中学生にしか見えないとか普通に考えればマイナス的要素しかない。」

「ちゅ、中学生ですか……」

目黒は袖が余った制服や自分の胸あたりを見てしょんぼりしている。どうやら、気にしているらしい。

「しかし、そのマイナス面は、見る人によってはプラスになる。「可愛い」「なんか助けてやりたい」「放っておけない」と他人に思わせられるんだ。正直俺もお前のことを可愛いと思ってしまうことが多々ある。男子や母性心の強い女子にはかなり効果的なはずだ。そして何より、これは俺にも、ましてや磯子にもないキャラクターで、俺たちでは引き込めない層の票が期待できる。」

「か、可愛い、ですか……私が……」

可愛いという単語がよほど嬉しかったのか、彼女は顔を真っ赤にさせて照れている。まぁ、俺のようなイケメンから可愛いと言われれば思わず照れてしまうのも当然だ。

「でも……それじゃあ、それ以外の人達からの票は見込めないんじゃ……」

しばらくいつものように顔を赤らめて下を向いていた目黒だが、顔の赤らみはまだ治まらないものの、すぐに心配そうな表情になった。なるほど、こいつもちゃんと考えてるじゃないか。感心だ。

「確かにその心配はある。だが問題ない。なぜなら、通常の層の票は「俺が」引きこむからだ。」

「えっ……?」

「別に会長だけが選挙活動をするわけじゃない。実務の大半は俺が受け持つつもりだしな。」

「……」

まだ、よく分かっていなさそうな彼女にさらに説明を続ける。

「つまり、役割分担だ。お前は会長候補として演説やあいさつ回りなんかの表立った仕事をしてくれればいい。俺は裏で交渉をして実利でしか動かない層を引き入れる。もちろん、どっちの活動も一緒に行うし協力はする。でも、最終的な判断はそれぞれが行なうってことだ。」

「でも……わたしにそんなこと……」

「お前はお前にできる範囲で頑張ってくれればいい。」

「……」

目黒は俯き考え込んでいる。

「まぁ、別に俺が会長に立候補してもかまわん。それでも勝てる見込みはあるしな。―だけど、俺は俺の力だけで勝ちたいとは思ってない。俺は「二人で」勝ちたいんだ!」

「……」

目黒はまだ、俯いたまま黙っている。まだ、迷いがあるようだ。

「まぁ、それでもお前がやりたくないなら、無理強いはしない。別の方法を考え直す。」

「……ほんとうに、私にできますか?」

目黒は顔を上げすがるような表情で訪ねる。

「当たり前だ。」

「失敗するかもしれませんよ?」

「もし失敗してもこの天才が何とかしてやる。安心して失敗しろ。」

「……」

しばし俯き沈黙していたが、彼女は両拳を握り、強い意志のこもった目を向けてきた。

「分かりました。私、生徒会長になります。」

「おう、頼んだぞ、会長。」

俺は笑顔で彼女の頭をくしゃくしゃなでてやる。

「や、やめてください!」

彼女は顔を少し赤らめて照れながら、軽く身をよじり逃れようとする。

「ははっ、ははははっ!」

そんな彼女の仕草がとても同級生とは思えず、思わず笑ってしまう。

「……むぅ……」

目黒は顔を赤らめつつも少しムッとした表情を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。

「はい、頑張ります」





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