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いじめられっ娘と下克上選挙  作者: 沖マリオ
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いじめられっ子 コンビ結成!―里奈side―

家から5分ほど歩いたところにある古い小さな公園。もう日も落ちてきているからでしょうか。私たち以外には誰もいません。

 「悪いな、目黒。急に連れ出して」

 古びた木製のベンチに私の隣で腰を降ろしている男子生徒―戸越唯一は不意に話しかけてきました。彼がいきなり私の家を訪ねてきた時はかなり驚きました。おそらく通常の1.5倍くらい目を見開いていたでしょう。

正直、私はこの人が少し苦手です。見た目は背も高く、顔も整っているいわゆるイケメンです。学年テストで全教科常に上位に位置しているほど頭もよく、運動神経も良いらしいです。しかし、自分のことを平然と「天才」「イケメン」と言い張るナルシストで知り合って間もない私を生徒会とのいざこざに巻き込もうとする自己中ぶり。なるほど私とは理由が違うものの友達がいないというのも納得です。そして、いじめられている私を勝手に気にかけてくれているようですが、ありがた迷惑です。

「いえ・・・」

 私は俯いたまま曖昧に言葉を濁します。おそらく、また私を選挙に参加するように勧誘しに来たのでしょう。私を助けるとか言って、説得しようとしているのでしょうが、私には効果はありません。

今までも、いじめられている私を助けようと手を差し伸べてきた人はいました。でも、最後は余計に傷口を広げていくだけの存在でしかありませんでした。あれは中学校の時のことです。


「ねぇねぇ、何かこんなところに机落ちてるんですけど。笑」

「ほんとだ。きったなーい。笑」

朝、登校すると私の机は廊下に出されており、挨拶代わりに罵倒されます。私はいつものことだと何も言い返さず黙って自分の机を元の位置に戻します。

周りの生徒は見ているだけで教師も薄々気づきつつも見て見ぬふりです。まぁ、みんな自分が一番大切ですし、仕方がないでしょう。そう諦めながら自分の席に着くと一人の女子生徒が話しかけてきた。

「里奈ちゃん、大丈夫?」

彼女、佐々木さんはそんなクラスの中で唯一私に気を配ってくれる。当時、話しかけてくれる友達が一人もいなかった私にとって彼女が気にかけてくれることは素直にうれしかった。でも―

「私にできることあったら何でも言ってね。」

佐々木さんは私にそう笑いかけて自分の席に戻っていきます。私はそんな彼女の背中を見ながら、彼女の優しさにどこか違和感を感じていました。

その違和感の正体に気付いたのはしばらく経ってからでした。

ある日の放課後、相も変わらずいじめに遭っていました。

帰り仕度を終え、早く帰ろうと席を立つと、いつものいじめっ子たちが出口をふさいできました。

「ねぇ、わたしジュース飲みたいんだけど」

「目黒さぁ、暇なら買ってきてくれない?」

またか・・・と思い彼女たちから視線を外すと、ふと佐々木さんと目があった。もしかしたら、「助けてもらえるかもしれない。」ついついそんな期待をしてしまいました。

しかし、そんな私の期待はあっさり打ち砕かれました。目があった佐々木さんは申し訳なさそうな表情を浮かべてすっと目をそらしたのです。彼女がよく口にする「私にできることがあったら―」というのは何だったのか。結局私はいじめっ子たち全員分の飲み物を買いに行かされました。そして、帰る気力もなくし、自分の席で茫然としていると佐々木さんが話かけてきました。

「里奈ちゃん、大丈夫だった?」

そこで、私はようやく彼女の優しさの違和感に気がつきました。結局人間自分が一番大切なのです。それをきっかけに私は他人を信じることを止めました。


「―ぐろ!目黒、聞いてるか?」

戸越君が何度も私を呼ぶ声で我に帰りました。

「すみません。ちょっとボーっとしてました。」

怒られると思い、私は恐る恐る彼の顔を覗き込んでみました」。

「まぁいい。……お前に頼みがある。」

「あの、選挙のことでしたら……?」

どうせ、選挙のことでしょう、ここは早めに断っておくのが懸命です。

「一緒に、俺たちの敵を倒そう!そして、一緒に成り上がってやろう!」

「……」

あまりの予想外の言葉に思わず固まってしまいました。「俺たちの敵」ってなんですか?これって結局選挙に参加しろってことじゃないんですか?

「俺にはお前の気持ちがよくわかる。」

この人は何を言っているのでしょう。ただお互いに友達がいないというだけで、この人に毎日毎日いじめられていて、挙句人間不信になってしまった人の気持ちが分かるとは到底思えません。頭の中で自問自答を繰り返しつつも、実際には無言を貫き続けていても彼は話し続けます。

「実は、俺も昔いじめに遭っていた。」

「えっ!?」

衝撃の告白に思わず目を見開き彼の方に顔を向けていました。

「小学校の時にな。俺のあまりの有能さに嫉妬したクラスメートによって俺はずっといじめられていた。」

なんか、いじめられていた理由に腹が立ちますが、彼の様子から察するにいじめられていたことは嘘ではないようです。

「その当時、周りの人間は見て見ぬふりをするだけで誰も助けてはくれなかった。いじめられる前は普通に仲の良かった奴も助けるどころか最後は一緒になって俺をいじめていた。俺はその時思った『自分以外は全員敵だ』と」

私と同じだ・・・。私は他人を信じられなくなって以来、自分を助けようとする人や同情して近づいてくる人を拒み続けた。「私を助けられるのは私だけだ」と自分に言い聞かせて。

「結局最後は自分の力でなんとかいじめを終わらせた。でも、あの時抱いた気持ち「自分以外は全員敵」という気持ちは今も残っている。」

「……」

私は彼の言葉になにも返すことができない。彼はそんな私の気持ちを知ってか知らずかそのまま話続ける。

「きっとお前も同じようなことを思ってるはずだ。だから俺は言える『俺がお前の理解者になってやる。』と」

「いきなり、100%信じろとは言わん。だが、数%でも信じれると思ったなら、俺についてきてくれないか?」

確かに、彼なら私の気持ちを少しは理解できるのかもしれません。ずっと自分を理解してくれる人がほしかった。でも―

「……私、役に立たないかもですよ?」

彼の話に乗ったところで、私が彼の役に立つ保証はありません。もしかしたらただ、足を引っ張るだけになるかもしれません。

「かまわん。心配せずとも俺が役に立つようにしてやる」

「私、迷惑ばっかり掛けるかもしれませんよ?」

「問題ない。この天才がすべてのミスをカバーしてやる。」

「私、地味だし暗いし、一緒にいても楽しくないですよ?」

「楽しいか楽しくないかはおれが決める。」

「私、面倒くさいですよ?」

「確かに。しかし、問題ない。俺の方が数倍面倒くさいからな」

「……ふふふ、ふふふ」

私が何を言っても即答で受け入れられてしまいます。この人には何を言っても無駄のようです。思わず、笑いがこみ上げてしまいました。

ここまで親近感を感じ、信じられそうな人は初めてかもしれません。もしかして、この人となら、自分を変えられるかもしれない。

「私の負けです。これからよろしくお願いします。戸越さん。」

一回りほど自分より背が高い彼を見上げながら手を差し出しました。

「あぁ、よろしく頼む。」

彼も笑顔で手を握り返します。冷静に考えると生まれて初めて男の子に手を握られていることに気づき、顔が熱くなってきました。とっさに、頬が紅潮しているのを隠すため、下を向きます。そっと彼の方を覗いてみると自信ありげな笑みを浮かべていました。ついさっきまでこの自信過剰な態度が嫌いだったのに、不思議と今は嫌ではなく、頼もしくさえ感じていました。



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