表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

5ショートストーリーズ10

タイムマシン

タイムマシンって知ってますか? 実は…

 博士が長年研究していたタイムマシンがついに完成したとの報を

受け、かつて彼の教え子だった私たち四人は、博士の研究室に集まっ

た。


 博士は元々国立の研究所にいたのだが、タイムマシンに取り憑か

れ、退職したと言う経緯があった。当時の教え子である私たちにこ

んな言葉を残して。

『タイムマシンが完成した暁には、みんなを呼んでお披露目をする

から。とりあえず、十年後を目処にな』


 あれから十年。ついにこの日を迎えたのだ。

 しかし、今では中堅となった私たち教え子も、これを俄かに信じ

る事は難しかった。と言うのも、タイムマシンの理論は、相対性理

論において【光速】が鍵とされている。タイムマシンが出来ない理

由、それは物質を光速以上の速さで動かす事が出来ない、それに尽

きた。しかし、あの博士の事だ。もしかしたら? 一抹の希望を持

って私たちは博士の元に…という訳だ。


「え~、それでは今からタイムマシンの体験実験をします。君たち、

よく集まってくれたね」

 博士は十年前とまるで変わらない笑顔で私たちを迎えてくれた。


「博士、お久しぶりです。で、タイムマシンはどこに?」

 一刻も早く博士の創りあげたタイムマシンが見たい、触りたい、

体験したい。集まった誰もがそう願っていた。

「はは、君たち、そんなに慌てるなよ。じゃ、別室にて一人ずつ体

験をしてもらうから」

 博士はそう言うと、私たち四人を順番に並ばせた。まずは先輩で

もあるT大の教授からだ。彼は今ではその世界の第一人者とも呼ば

れている。


 教授は彼を伴い、研究室の続き部屋に入っていった。暫くすると

「おおっ! まさか! 信じられない!」

 という、T大教授の声が響いた。


 こ、これは…そんなに凄い物なのか? 私たちは自分の番が来る

のを今か今かと待ち焦がれていた。


 そして一時間後、我々は涙を流して博士を祝福していた。ついに

完璧なタイムマシンが出来たのだ。実験の結果は大成功。私は過去

の世界、幕末に行って黒船の来航をこの目で見た。確かにあれは現

実だった。疑いようもない。


「博士、実に凄い発明です。遂にやりましたね。で、その方法は?

どうやって光速以上の速度で物質を移動させる事に成功を?」

 我々の注目はその点に集まった。


 博士は笑いながら言った。

「それは、その、企業秘密じゃ。それからこの事はまだオフレコで

頼むぞ」


 博士のそんな言葉に私たち四人は未練たっぷりだったが、素直に

彼に従う事にした。いずれにせよ、タイムマシンは完成したのだ。

その精査にはたっぷりと時間も取れるはずだ。我々は博士に祝福と

感謝を伝えて研究所を後にした。


                 ***


「ねえ、おじいちゃん、あれで本当によかったの?」

 博士の孫娘である中学生が、博士にそんな言葉を投げかけていた。


「ん? まあな。彼らも感激していたようだし、かん口令も敷いて

おいた。まぁ、大丈夫じゃろう」

 博士は孫娘にウインクをして、悪戯っぽく笑った。

「え~? でもホント、学者って世間知らずよね。あんなのに騙さ

れるなんて」

 孫娘はテーブルの上においてあるヘッドホンとゴーグルを指差し

て言った。

 それは一種の催眠装置で、誰にでも扱えるバーチャルシステムの

一種だった。


「いいかね? そこに物質が存在しないとしてもだよ、意識にそれ

がそこにあるという情報を与えたら、それはそこに物質があるのと

同じ事なんじゃ。被験者に情報を与え、それを頭の中で構築させる。

過去でも未来でも何でも好きな世界をな。それこそがタイムマシン

の真実でもあるのじゃ」

 博士の言葉に孫娘は首を捻りながら訊ねた。

「でも、それってまやかしよね? なんでおじいちゃんはそんなコ

トをしたの?」

 孫娘のそんな質問に、博士は胸を張って答えた。

「だって、実際には出来なかったなんて言うのは悔しいじゃろ? 

それにいつでも夢はあった方がいいからの」

 そんな博士の言葉に、孫娘は溜息混じりに

「夢って、あの人たちだってそのうち騙された事がわかるわよ。ど

うするの?」

 そう言ったが、博士は自信満々にこう答えた。

「大丈夫! 一時間後には今日の事はすべて忘れるという暗示もか

けておいた。覚えておるのは、気持ち良かったという感覚だけじゃ」

「え~? じゃ、おじいちゃんのことも忘れちゃうんじゃない。お

じいちゃんがタイムマシンを完成させたっていう記憶もよ?」

 孫娘の言葉に

「しまった! そうじゃった!」

 博士は実に残念そうな顔をした後で、寂しそうに笑うのだった。

タイムマシン…それは想像上の乗り物。だからどんな風に想像してもOKなんですよね。都合がいい乗り物です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ