月の涙と星の手紙
真っ白な月が泣いていました。
真っ暗な夜にひとりぼっちで泣いていました。
「こんな私は大嫌い。いっそ、いなくなれたらな」
月は自信がないのです。
自分を好きになれないのです。
うまくきれいに丸くなれる日もあれば、細くとがってしまうときもあります。
暗い夜道を照らしてあげられることもあるけれど、元気がなくて光れないこともあります。
月はそれが嫌なのです。
「いつも丸く、きれいでいられたら」
「みんなに必要とされる私でいられたら」
それが月の口ぐせでした。
誰かから「いらない」と言われることが怖いのです。
小さな星がそんな月を見ています。
遥か遠くの宇宙から。
星はゆらゆらゆれて心配そう。
遠くで見ているだけで、そばにいられはしないけれど、星は月が好きなのです。
星は、暗い夜でも光ろうと頑張ってきた月をずっと見てきました。
どんなときだって、月のことを応援していました。
月が嫌いに思う満ち欠けだって、色が変わってしまうことだって、星は大好きなのです。
「丸くなくても君はステキ。消えるなんてこと言わないで」
星はいつも、月に向かって瞬いたり、風に乗せたりしながら、想いを届けようと一生懸命工夫をします。
「とがってる君は、神秘的だし魅力的。皆も、君のとがった姿を描くじゃない? 嫌いだったら描けないよ」
「光れなくても大丈夫。だってその代わりに君だって、綺麗に花火が見れたでしょ?」
「赤くたって、白くたって、そんなのどっちでもいいんだよ。いつも同じじゃつまらない」
必死に想いを伝えてみるけれど、月には星の声が聞こえません。
聞こえることがあっても、月の心はそれに気づかないふりをしているのです。
信じることが怖いから。
信じたのに見捨てられて、見放される日を想像できてしまうから。
何の役にもたてなくて、誰にも必要とされなくて、暗い夜空で一人ぼっちになるのが、月は何よりも怖いのです。
一人を怖がってしまうほど、月は寂しかったのです。
悲しかったのです。
せっかく頑張って光ってみても、雲がやって来て邪魔をします。
暗い夜道を照らしてみても、照らせる範囲は広くはなくて。
一生懸命暗い夜空を一人で歩んでみても、何故か皆は眠ったままでこんな自分を見てくれない。
それなのに。
月と似た姿をした太陽は、明るく元気でパワーがあって、いつも皆の人気者。
太陽の下にいる人々はみんな笑顔に見えました。
月はそんな太陽と自分を比べてしまって、自信をなくしてしまうのです。
「こんな私はいなくたって大丈夫。いつか忘れられてしまうかな」
それが月の出した答えでした。
星にはそれが悔しくて悲しくて、赤く光を放っていきました。
「僕はそのままの君が好きなのに」
忘れるはずなんてないでしょう?
嫌いになるはずなんてないでしょう?
お願いだから僕を信じて。
星は手紙を書きました。何枚も何枚も書きました。
「比べる意味なんてどこにもないよ。光が強いほうが偉いのかい? 強い光が君の価値なの?」
気づいてほしかったのです。
太陽とは違う、月の優しい光に癒される人がいることを。
月にしかない魅力があることを。
「皆に好かれなきゃいけないわけじゃないでしょう?」
わかってほしかったのです。
全員に好かれなくたって、月の良さは変わらないし、ちゃんと好きでいてくれる人もいるってことを。
「そんなに自分をいじめたって、苦しいだけで意味ないよ。自分に優しくしたっていいんだよ。何にも罰はあたらない」
「君が想うまま自由に光る姿を、僕は見たいんだ」
星の書いた、たくさんの手紙。
その宛先はもちろん、自信がなくて泣き虫の月。
自分で届けに行きたいけれど、動けないぶん流れの星たちに託します。
暗い夜空をひゅるりと駆けるのは流れ星。
携えているのは、星からの大切な手紙。
真っ暗な夜を、何度も何度も駆け抜けます。
星は静かに待っています。
大切なあなたへ想いが届く日が来ることを。
果たして、星の手紙はちゃんと月の心に届いたのでしょうか。
ぜひ、今夜の月と星の姿を見てみてください。
二人仲良く輝いている姿が見られると、そう信じながら。