第11章 伝説の悪魔
第十一章 伝説の悪魔
龍一が継承者となってから、二ヶ月が経った・・・
龍一は、更に強さを求めた・・・
だが、たまに、生活費を稼ぐために、瑠奈の店でアルバイトをしていた。
そして、舞、一、四郎のいつもの三人が、店にやって来た。
「龍一、お前から借りていた漫画・・ここに置いとくぞ!」
「あ、うん・・」
三人は、ジュースを頼んだ。
「久々に読んだけど、面白いな、タイガーボールは・・」
「でしょ・・・!今度は虎衛門を貸してあげるよ・・フシギ・F・フシオ先生の漫画は、最高だよ・・・!あと、ナースムーンとか、るろうのケンシロウとかもいいよ!あっ、最近、ジャッキー・リーのポリス・怒りの鉄拳のDVDを買ったから、貸してあげるよ!」
「龍ちゃん・・ナースムーンを読んでいるの?」
「うん・・特に、ナースヴィーナスが好き・・ルナさんとは全然違うけど、ああいう女性もいいね!」
三人と、楽しそうに、漫画などの話をする龍一・・・その姿を見て、瑠奈は、自分がいなくなっても大丈夫だと確信した。
もう、瑠奈が龍一に教えることは何もない・・・瑠奈は、自分がこの街にいる限り、龍一に出会いはない・・・そう思い、この街から姿を消そうとしていた。
「ヴィーナスで思い出したけど、お前のいない間、野村さんが店に来たぜ!」
「マジ!?」
「ああ・・なんか武勇伝を語って、帰っていた・・」
この時、野村 昇児がどうしているかは、神の身が知る・・・
彼の話題は、すぐに終わり・・・再び、漫画の話に戻った・・・
「でも、タイガーボールが一番好き!」
「僕も、あの漫画は好きだな」
「おう!俺も・・なんといっても、孫空悟の鶴林波は最高の技だぜ!俺も、あの技が使えたらなぁ・・」
「男の子はいいね・・単純で・・あんなの漫画の技じゃない・・気で相手を倒すなんて・・・大体アンタ、山嵐はどうなったの?」
「・・あれは、今・・特訓中なのだよ・・・!その後は、鶴林波の特訓だ!」
「だから、あれは漫画の技・・龍ちゃんも何か言ってあげてよ」
「・・鶴林波は、確かに漫画の技だけど、天神流には、気で相手を倒す神技一天波がある」
「龍一・・ホントかよ!?」
「ウソ!」
「ウソかよ・・」
「当たり前じゃない・・・あれは漫画の技なんだから・・・四郎ってホント単純ね」
「うるせぇな〜」
「いや、僕が言ったウソというのは、一天波が、正式な天神流の技じゃないということ・・・
天神流の後継者になるためには、全ての技を会得しなくてはいけない・・・だけど、その技を使った人は、天神斎という人だけ・・・僕やルナさん・・他の継承者となった人たちも、その技だけは、会得出来なかった・・・天神斎自身も、一度しか使ったことがないと云う・・・あれは、神の身が使える業・・・だから、一天波の上に神技がついている」
天神斎が、いつ、どこで、誰に使ったのかは、不明・・・天神流の伝説でも、すでに七十を超え、天神流を次の世代に託し、死期が近いと気づいた時、ある兵と戦い、その時に、使った・・・そして、天神斎はこの世を去った・・・としか伝わっていない・・・
再び、四人が漫画などの話で盛り上がる。
そして、話疲れたため、三人は帰ることにした。
舞達はお勘定を払おうとするが、瑠奈は、三人からお勘定をもらうつもりはない。
三人は、瑠奈にお礼を言って、店を出た。
しばらくすると、一人の男が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
龍一が丁寧に接客した。
男は、長い髪を金色に染め、冷たい瞳をしていた。
瑠奈が珍しく、怯えた表情をしている。
「・・リュウ・・私はこの男と話しがあるから、今日はもういいよ・・」
「は、はい・・」
龍一はエプロンを脱ぎ、男の横を通り、そして店を出た。
「久しぶりだな・・瑠奈・・」
「やはり、生きていたか・・・凍矢!」
その男こそ、かつて、瑠奈の父と武の命を奪った男・・・凍矢である。
「俺が今まで、どこにいたか知りたいか?」
「・・・・」
「俺は武との戦いで、重傷を負った・・俺の傷が癒える頃、お前は俺より強くなっている・・そう思った。だから、それ以上の強さを手に入れるため、俺は、世界に出た!」
「世界!?」
「そうだ・・強いヤツを求め、世界に出た・・そして、お前に勝てるという自信がつくのに、十年かかった・・全ては、お前を、俺のモノにするため・・」
「ふざけんじゃないよ・・・!私は、アンタの女になんかならないわ!」
「・・帰国したのは、一ヶ月前・・その間に、お前の事は、いろいろと調べた・・アルテミス・・裏世界では有名らしいなぁ・・それと、お前の弟子でもあり、格闘王の息子でもある・・さっきの餓鬼・・今は、アイツが、継承者らしいなぁ・・破門されたが、俺は全ての技を会得している・・アイツを殺せば・・俺が、十九代目だ!」
「リュウに手を出したら・・・殺す!」
「・・フン・・俺を殺す事が出来ないのは、お前自身が、一番よく知っているはずだ・・・まあ・・天神流の後継者に興味はない・・お前が、俺のモノになれば、それでいいんだ」
「・・・・」
「三日だけ、時間をやる・・あの餓鬼の命は、お前の返事しだい・・・おれは、阿の山で待っている・・いい返事を期待しているぞ!」
そう言って、凍矢は去っていった。
「(この街を出て行くのには、ちょうどいいかも・・・)」
瑠奈がついに、この街を出る決意をした。
その頃、龍一は、公園で天神流の稽古をしていた。
その時、
「龍一君!」
一人の男が、龍一に声を掛けてきた。
「将太さん!」
そう・・その男は、昇児と同じクローン患者、野々村 将太だった。
二人は、ベンチに座り語り合った。
「久しぶりに会ったけど、君、すごく変わったね」
「そうですか・・・?あっ、そうだ・・友達が入院したに時、将太さんと同じクローン病の人に出会いました」
「へー、俺の知っているヤツかな!?」
「野村 昇児さんという人です」
「知らないな・・ショウジ!?う〜ん・・数年前に、ある病院で、勉強会があったから、美奈子といった時に、修羅 生死とかいうクローン患者なら見た事がある」
「その人ですよ!」
「そうか・・その時しか見たことないけど、変わったヤツだよな・・その時は、勉強会の余興かなんか知らんけど、メイクまでして、お笑いライブをやっていたぞ!」
「僕も、二、三回会っただけなんですけど・・今は分かんないですけど、その時は、格闘小説を書いて、物語の中で格闘をやり続けて、あと、いろんな人に、クローン病を伝えたいと言っていました」
「まあ、いろんなことをやる事は、いい事だと思う・・だけど、病院で死という言葉を使ったのは、まずかったな」
二十代前半の頃の彼には、常識がなかったのであろう・・・
だが、後から、生死ではなく、生時と名乗ればよかった・・・と気づいたみたいだ。
確かにその方が、「今は生きる時なんだ」と、言って、命の大切さを伝える事が出来ただろう・・・
「将太さん、体調はどうなんですか?」
「・・気持ち悪い話かもしれないけど・・クローン患者同士だと、当たり前のように、話しているんだけど・・腹に穴開いちゃって、腸が飛び出てきちゃったんだよね・・まあ、最近、3回目のオペをしたんだけど・・調子悪い・・・!もう、ムカついたから、最近は、繊維のある物はやめて、あとは、ほとんど食べている」
「難しい病気なんですね・・」
「仕事も、ほとんど休んでいるから、美奈子に迷惑をかけている・・」
「そうですか・・・」
「ムチャやっても、調子のいい人は、それでいいんだけど、がんばってやっても、悪くなる人もいるから、その苦痛を・・その・・ショウジとかいうヤツが、ホント、世の中の人に伝えてくれると、嬉しい」
「そ、そうですね・・」
「それに、あんまり知られていないから、地元の病院とかで、原因が分からないとか言われて、悪くなってから、大きな病院に行って、やっと、クローン病と分かる人が多い・・でも、すでに、悪くなっているから、緊急手術をする人が多い・・・!」
確かに、昇児も、地元の病院では、分からなかった・・・
そのため、彼も緊急手術となった。
腹痛や、下痢の多い人は、最初から、大きな病院で検査した方がいいであろう。
「まあ・・腹痛から激痛に変わったら、オペは近いと思う!そうならないためにも、ショウジとかいうヤツが、世間にクローン病を伝えるべきだ!」
「・・でも、もう一年前の話ですから・・」
「・・そいつが伝えられなかったら、俺がやる!」
「そ、そうですか・・」
「まあ、瑠奈ちゃんに会いたかったけど、腹が痛いから、帰る・・」
「あの・・ホントに頑張ってください!」
「あっ、そういえば君、瑠奈ちゃんに告白した?」
「しました・・・!でも、僕もふられました・・・」
「そうか・・まあ、新しい恋でもして、がんばりな・・じゃあな・・」
将太は、お腹を押さえながら、帰っていった。
龍一も、帰宅する事にした。
夕方・・・
龍一は、弟の龍之介と、ゲームをして遊んでいた。
そんな時、龍一の携帯が鳴った。
瑠奈からだ!
龍一が、電話に出た。
「もしもし・・ルナさん!?」
「リュウ・・お前に会えて良かった・・」
「ルナさん・・・?」
「もう、私がお前に教える事は何もない・・」
「ど、どうしたんですか?」
「私のことは忘れて、幸せになってね・・・今まで、ありがとう・・・」
そう言って、彼女は、電話を切った・・・
「も、もしもし・・・」
龍一は、瑠奈の携帯に掛けるが、つながらない・・・
瑠奈の店にもかけたが、誰も出ない・・・
龍一は、瑠奈のことが気になり、急いで店に向かった・・・
龍一が店に着くと、瑠奈の店は閉店してあった。
「(やはりおかしい・・まだ五時過ぎなのに・・・)」
龍一は、持っていた鍵で、店に入った。
だが、瑠奈の姿はどこにもなかった。
瑠奈の愛車であるフェラーリもなかった。
だが、他の荷物は全てある。
再度、携帯に掛けるが、やはりつながらない・・・
龍一は、北斗に電話しようとしたが、プレシャスは、今ツアー中であった。
龍一は、舞、一、四郎、さらに、トオルや秀一に電話をし、事情を話した。
しばらくして、五人が現れた。
「みんな、忙しいのに・・ゴメン・・舞ちゃん・・原田さんは?」
「電話したけど、つながらないの・・自宅にも行ったけど・・いなかったわ」
「そう・・ありがとう・・」
「龍一、分かったぜ!瑠奈さんと、原田さんは、付き合っているんだ!」
「四郎、何言っているのよ」
「・・四郎君の言うとおりかも・・」
「龍ちゃん・・」
「でも、相手が原田さんなら・・それで・・ルナさんが幸せなら・・」
「龍ちゃん・・二人が、本当に付き合っているかどうかは、まだ分からないわ・・明日は、土曜・・学校も休みだし、今からみんなで、探しに行きましょう」
「もう・・いいんだ・・原田さんと幸せになっている・・そう、信じたい・・今日は、ありがとう・・みんな・・」
「龍ちゃん・・」
その後、五人は帰宅し、龍一は、店に残った・・・
次の日の朝・・五人は、再び店にやって来た・・・
「おい、龍一、鍵くらいしとけよ」
「あっ、四郎君・・皆・・僕、そのまま眠ってしまったみたいだね・・」
龍一は、まだ寝ぼけている感じだ。
「龍ちゃん、大変よ」
「何が・・・?」
「来る途中・・一ちゃんと、二人で、原田さんの自宅に行ったら、昨日は、友達と飲んでいて、電話に気づかなかっただけみたい・・」
「それで・・・?」
「この卒業アルバムを見てよ!」
それは、原田、北斗、瑠奈達の、中学時代の卒業アルバムであった。
「わー、ルナさんの中学生時代・・初めて見る。ヤンネーだけど、やっぱ美しいなあ・・・あっ、この人が、武さんか・・」
「もう・・後でゆっくり見なさい・・それより、コイツを見てよ!」
その男の、写真を見た瞬間、龍一の目が鋭くなった。
「コイツは・・昨日の・・そんな・・まさか・・昨日来たヤツが・・凍矢・・・?じゃ、ルナさんは、コイツのところに!?」
「原田さんからの伝言よ・・凍矢には手を出すな!と言っていたわ」
「手を出すな・・か・・そうだよな・・俺では勝てないから、ルナさんは・・・」
「龍ちゃん・・・」
「俺は出来が悪いからな・・だから・・俺にはまだ、ルナさんが必要だ!」
「そうだぜ!龍一!」
「今から僕たちも、瑠奈さんのところに行こう」
「トオル、一君・・ありがとう・・」
「でも、龍ちゃん・・瑠奈さんが、今どこにいるのか、分からないじゃない」
「・・おそらく、阿の山・・そこにいると思う・・ん・・・?誰か来た!」
龍一達は、店に侵入者が入ってきた事に気づいた。
「泥棒かしら・・・?」
「俺は、ちゃんと、鍵を閉めたぜ!」
「ここに来る!」
ついに侵入者は、龍一達のいるリビングに現れた!
金色の髪・・蒼い瞳・・・外国人の男だ。
「が、外人!?」
「龍ちゃんの知り合い?」
「いや・・こういう時は、秀一さんに任せよう」
すると、外人は、
「どいつが、神威 龍一だ?」
と日本語で話してきた。
「・・俺だ・・・!お前は、何者だ?」
「凍矢様の影だ!」
「凍矢の影!?そんなのがいるのか・・それで、俺に何か用か?」
「お前は、凍矢様と、月形 瑠奈という女との、結婚を邪魔する気だろう?」
「当たり前だ!」
「二人の結婚を、邪魔するヤツは、殺して来いと命令されている」
「龍ちゃん・・コイツ強いわよ」
「ああ・・でも・・今の、俺の敵じゃない!」
龍一は、構えた。
「行くぜ!影やろう!」
二人が同時に、回し蹴りを・・・
バシッ!
だが、龍一の方が、速かった。
「(バ、バカな・・俺の蹴りより速いだと・・・)」
男は、再び構えたが、龍一の鋭い目に恐怖を感じ始めた。
「まだやるか?」
「・・ま、待て・・俺達は、凍矢様・・いや、凍矢を憎んでいるんだ・・」
「俺達!?他にもいるのか?」
「ああ・・あの男と戦って、敗れたら、死ぬか・・あの男の影になるしかない・・そのためには、名前、国、そして、家族までも、捨てなければならない・・お前が、あの男を倒してくれれば、俺は自由になれる」
「・・ルナさんは、阿の山にいるのか?」
「ああ・・だが、あの男に負ければ、お前も影になるか、死ぬかのどっちかだ・・」
「俺が勝つ!」
「オ・・OK・・・!どのみち、任務を果たせなかった俺は、殺される・・俺のためにも、勝ってくれ・・それまで、どこかに、身を隠している」
男はそう言って、去っていった。
「みんな・・この戦いは、かなり危険な戦いになる。だから、俺一人で行って来る」
「龍ちゃん・・私たち、友達よ・・それに、瑠奈さんは、私にとっても、大切な人・・・絶対に、私も行くからね!」
「舞ちゃん・・」
「龍一・・俺は、お前の力になりたい・・だから、俺も行く!」
「四郎君・・」
「拳法家として、僕も戦うよ!」
「秀一さん・・」
「僕だって、新戦会の四天王の一人・・・破門覚悟で、僕も行く!」
「一君・・」
「龍一・・摩利支天は、武士の守護神だぜ・・・!お前の敵は、俺の敵なんだよ!」
「トオル・・」
龍一の目から涙が流れた。
「みんな・・ありがとう!俺には、もの凄く強い、仲間がいることを忘れていた・・・!」
この一年で、強くなったのは、龍一だけじゃない。
ここに、集まった者達は、皆、常識を超える強さを手に入れた格闘家達だ。
「トオル・・お前の、クラウンで行こう」
「ああ・・いいぜ」
「僕は、自分の単車に乗っていくよ」
「秀一さん・・何に乗っているんですか?」
「フォアだよ」
「へー、フォアか・・よし、俺も、久々に単車に乗っていくか・・」
「龍ちゃん・・単車の免許持っていたの?」
「持ってないよ・・無免だよ・・トオル、俺が、阿の山に行く前に、預けたよな・・鍵返してくれ」
「ああ・・お前がいない間、ちゃんと綺麗にしといたぜ!」
「さすが・・・!」
「龍一は、何乗っているんだ?」
「ルナさんから、受け継いだ・・ニンジャだよ!あっ、俺、気合い入れたいから・・・二時間後に、また、ここに集合しよう」
「龍ちゃん・・何のんきな事を言っているの・・」
「ゴメン・・気合いを入れたいんだ!」
「よし、二時間後に、また、ここに集合だ!龍一・・後で、お前の家に行くよ」
「別にいいよ・・俺が歩いて、お前の家に行くから・・」
「遠慮するな」
「・・そうか・・じゃあ、頼む・・」
こうして、龍一達は、一度帰宅することにした。
これから始まる戦いのために・・・
それから、一時間半・・・
龍一は、金髪に染め、「修羅参上」の特攻服を着て、精神を集中していた。
「臨、兵、闘、者、階、陣、列、在、前!」
そして、真剣を手に取り、外に出た。
龍一が、外に出ると、そこには、特攻服を着て、タバコを銜えたトオルの姿があった。
「待たせたな」
「もういいんだな」
トオルは、三十分前から、龍一の家の前に車を止め、彼が出てくるのを、黙って、待っていたのだ。
二人は、車に乗り、龍一の単車を取りに行くため、トオルは、再び、自分の家に戻った。
これが、二人の友情なのであろう。
トオルの家に着くと、龍一は、単車にまたがり、エンジンを掛けた。
そして、二人は、瑠奈の店に向かった。
全ては、大切な人を取り戻すために・・・
次回で、最後です。外伝の天神流外伝もヨロシク!
この外伝で、天神斎が一天波を使った相手が分かるかも!?