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地廻る

流血シーンが含まれます。

西の空が赤く燃える。私は木から木へ飛び移りながら西の空へ急ぐ。

轟音が空を震わせる。禍々しい空気が漂い始めていた。


「兄様!」

上空から御津羽が舞い降りる。その顔は暗闇でも分かるほど青ざめていた。

「まさか今宵来るとは・・・玉依姫様は?」

「玉依姫様は大山津見様と共に既に向かわれています。」

「左様か・・・」

西の空の轟音がますます激しくなる。御津羽が微かに肩を震わせた。


「御津羽・・・」

「大丈夫にございます・・・。私は役目を果たしますから・・・大丈夫ですから・・・」

まるで己に言い聞かせるように言の葉を紡ぐ御津羽の肩を掴みながら飛ぶ。御津羽は私の行いに驚いたのか僅かに視線を向けた。

「恐ろしいのであろう?私も同じだ」

「兄上も、ですか・・・?ですが兄上は死をも畏れぬ神でしょう?」

「そうだな・・・。だが、それは昔の話だ」

再び茜に会いたい・・・。生きて・・・会いたい。そう願ってしまう。

「必ず、生きて帰りたい・・・」

御津羽が小さく呟いた言葉は、私の胸中を代弁してくれていた。

その呟きに、私は小さく頷き返すのだった。








******






「これ、は・・・」



目の前に広がるは、地獄絵図。焼け爛れた山肌と、そこかしこに横たわる動物の姿。中にはあの御先狐の姿もあった。幼い顔に血をこびりつかせ、既に事切れていた。

そして・・・巨大な黒い蛇を相手に戦う神々の姿がそこにあった。蛇の頭は八つに割れ、鬼灯のような赤い目を光らせている。巨大な胴体は血でただれ、見るも恐ろしい姿だ。

八岐大蛇やまたのおろち・・・」

玉依之宮の書物庫の書に記されていた大妖怪。遥か昔に葬られたはずだった。




これが"うねり"の正体だった。


「闇於!こいつぁ・・・」

「あぁ・・・見ての通りだ」

「住吉よ、話す暇などない・・・我等も加勢するのだ」

「はっ・・・!」

追ってきた住吉、大綿津見神も八岐大蛇の姿に驚きを隠せなかった。だが直ぐに我を取り戻し戦いの渦に飛び込んでいく。

「御津羽・・・参るぞ」

「はい・・・!」

手のひらから零れ落ちる水を刃に変え、八岐大蛇に斬りかかる。だがすぐに別の頭に阻止される。

八つの頭を自在に操り八岐大蛇は神々を一方的に攻撃していた。普通の妖よりも数段、治癒能力が高いのだろう。一太刀浴びせようと瞬く間に回復した。

大山津見神が地を操り、大綿津見神が大矛を振るう。この世の現象全てがこの地で起こっている。

怒号が響く、八岐大蛇の咆哮が轟く。

「このままでは・・・人の郷に下りてしまう」

「何としてでも食い止めます!月読つくよみ

「はっ・・・」

玉依姫様が手をかざし障壁を築く。後ろに控えた月読命が月の光で障壁を強化する。

八岐大蛇が障壁に身を当てもがく。

「くぅ・・・!」

障壁を築く玉依姫様の手が震える。顔に苦しそうな表情を浮かんだ。かざした手は耐えきれず、鮮血が滴った。八岐大蛇の叫びが轟々と響く。そこに刃を突き立てれば、ぱっと朱が舞う。あっという間に地に叩きつけられる。全身を激痛が走っていく。

「あ"ぁぁあぁぁぁっ!!」

口からは鮮血と叫び。手足がまるで自分のものではないかのように重かった。八岐大蛇はなおも郷へ向かおうとしている。大綿津見神でさえも、苦戦していた。



「あに、うえ・・・・」

微かに聞こえた声に、視線を巡らせると御津羽が伏していた。真白であった狩衣は血にまみれ赤黒く染まっている。清らかな水のような髪は次第に透け、白磁のような肌がさらに薄くなる。

「御津羽っ・・」

伸ばした手は、頬に届かず、指の間を水となりすり抜けた。御津羽がいた所には小さな水溜まり。




御津羽が・・地に帰ってしまった。



そんな感慨に耽る間すら、八岐大蛇は与えてくれない。障壁を破り、神を翻弄し続けている。


私はその光景に最早、何も感じなかった。ただ胸のうちが一色に染め上げられることだけを感じていた。

滝壺の底よりも深い闇が、私の胸をじわじわと染めた。手が自然と、全身に巻かれた包帯を掴む。はらりはらりと包帯が落ち、肌が露になる。


「闇於っ・・・!・・・・・・・・・!!」





遠くに、姫様の声が聞こえた気がした。

そして私の意識は、闇に堕ちた。

戦闘シーンは苦手です。ご容赦ください。

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