(3)生誕祝い
感想をくださった方、ありがとうございます。いただいた言葉が嬉しくってその勢いで書いてます。
王女殿下の生誕祝いは、晴天のもとで始まった。
お祭り好きな城下の街には市が立ち、各地から集まった商人や芸人、吟遊詩人たちがここぞとばかりに声を張る。いくつもの山車が道を行き、王女殿下の生誕を祝った。
宮廷に十二ある門のうち三つが開放され、近衛兵がずらりと並ぶなかを華やかに着飾った招待客が次々通る。
兵たちの動員数がルキノのごり押しよって例年の倍以上に跳ね上がっていることは、関係者しか知らないことだ。王室の命を狙う者がいるかもしれない、と国民に知られることは国の威信を傷つけかねないからである。
なんか人多くないか?と首をかしげた者があったかもしれないが、かすかな違和感は浮かれた雰囲気に追いやられ、記憶に残ることはなかった。
「…すべて計画通りだ」
華やかな人集りに紛れて宮廷に入りこんだ青年は、己の考えの素晴らしさにうっとりしてつぶやいた。
「こんな完璧な計画を思いつくなんて、僕の頭の良さはウルドロス賢神級だね。そうだろう、<サル>?」
「ええ、坊っちゃん!全く以ってご立派なご判断です!」
すぐ横に控えた男が小声で激しく肯く。頭をガクガクさせる男をちょっとキモいと思いつつも、青年は満足して微笑んだ。
「兵士どもの関心は、僕たちから完全に逸れた。その証拠に、異教徒区の監視兵が減らされたからな」
「ええ、坊ちゃん!素晴らしいご判断でした!」
青年は王都に豪邸を構える貴族の一人だ。国教会の『洗脳』で王室と同じ神を信仰していたが、この〈サル〉と出会ったことで真実に気づいた。
国の者たちは愚か過ぎて理解できないらしいが、王室が唯一とあがめる神は、実は三十八いる神々の一番下っ端なのだ。
御身が地上に最も近いため、上位の神の存在に気づけない者たちが唯一絶対と信じてしまったようだが、本当に崇め奉るべきは最上位神ホペスをはじめとする高位の神々である。
〈サル〉からこの話を聞いたとき、青年は雷に打たれたような衝撃を覚えたものだ。
何としてでも、この間違いは正されなくてはいけないと思う。王室がそれに気づけないなら、彼らは神々を知れる器でなかったということだ。そのような者たちを国家の頂点におくことは出来ない。
とは言え、国王が真の信仰に気づく機会を全く与えない訳ではない。
今回の計画は、王に真実を教えるためのものだった。この計画のために、青年は過激な主張を続ける『同胞』をなだめすらしたのだ。
その甲斐はあった。一時期あれほど過剰だった警戒体制がほぼ解かれたのだから。
「坊っちゃん、忘れ物はございませんか?毒の小瓶はちゃんと胸ポケットに入れておいでですね?懐中時計を確かめる振りして取り出すんですよ?それから、王女殿下のお飲み物に垂らすのは二滴だけです。それでちょうどいいんですから、不安になってちょっと多めに入れようとか思っちゃだめですよ?あ!あの辺の飲み物でもう一回練習しますか?」
「いや、いいよ。お前結構心配性なんだな。だが僕はいつだって完璧だ。すべて計画通りにやり遂げて見せるさ。…何としても、国王には教会の間違いに気づいていただく。王女殿下の死によってね」
小声でやりとりした青年は、見事に飾りたてられた庭園に顔見知りを見つけ、笑みを深めた。
「セルベンテ卿だ!〈サル〉、僕は行くよ。あんまり隅にいて不自然に思われても困るしね。計画は必ず成功だから、祝杯の準備でもしていてくれ」
「ええ、坊ちゃん!全くご立派なご判断です!」
首をガクガクする〈サル)から離れて、青年は華やかな人混みへと消えた。
「ええ、ご立派なご判断ですよ、坊ちゃん。本当にね」