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犬騎士と獅子姫  作者: 佐藤ヒトエ
王女殿下の生誕祝い
7/22

(1)王女の恋

感想をくださった方々、本当にありがとうございます。すごくすごくうれしいです。ご要望に応えながら書いていけたらと思います。

 自分で言うのもなんだが、カトレッチェは可憐で愛らしい姫君だ。

 家族も、侍女も、護衛の騎士たちも、カトレッチェを世界一可愛いと褒めそやすし、宮廷に出入りする詩人たちは競って彼女を讃える歌をつくる。

 今でさえこれだけ可愛く、周囲を魅了する自分だ。年頃になれば、カトレッチェを子供扱いするあの方も、きっと自分を女としてみてくださるはず…とカトレッチェは信じている。

 成人まで後二年、やっと十三になろうというカトレッチェだが、すでに山のような縁談があった。誰に嫁がせようか、いやいや誰にもやりたくないと父は頭を抱えているらしい。

 長い長い結婚相手リストのなかに、あの方の名前はあるかしら。

 心臓をぎゅっと締め付けられるような想いに、カトレッチェは目を細めた。


「まあ姫様、申し訳ございません。息苦しくていらっしゃいます?」


 カトレッチェの表情を誤解した侍女が、コルセットの紐をゆるめる。平気だから続けてちょうだい、とカトレッチェは慌てて指示した。

 誕生日に合わせてドレスを調整している途中で物思いに耽ってしまうなんて、恋の病はやっかいだ。ドレスは大好きなのに、あの方が気になって夢中になれない。


「どうかなさいまして、姫様?お衣装合わせの途中でため息なんて」

「お部屋に戻られます?気分が優れないようでしたら、医師を呼んで参ります」

「なんでもないわ!ただ、その…お父様があたくしの縁談で悩んでいらっしゃると聞いて…」


 誤魔化しが通じて、侍女たちはカトレッチェを飾りたてながらころころ笑った。


「お気の毒な国王陛下。山のような縁談を眺めては辛そうな御顔をなさるとか。姫様が年頃になるのが待ち遠しいような恐ろしいようなお気持ちでいらっしゃるのでないかしら」

「殿方がそろって姫様を欲しがるのも無理はありませんわ。こんなにお可愛らしくていらっしゃるんですもの…この髪飾り、今日の姫様にぴったりね」

「あら、こっちのリボンもお似合いでいらっしゃるわよ。…ねえ、姫様のほうに、どなたか想う方はいらっしゃいませんの?姫様がお望みになれば、陛下もその方をぜひとお考えになるかも」


 遠ざけたはずの話を向けられて、カトレッチェはもじもじした。

 鏡の中の自分がふっくらとした頬を赤く染めている。王家特有の紫紺の瞳も心なしかうるうるしていた。

 恋をしていると一目でわかる顔だ。自分でも思うくらいだから、当然侍女たちも気づいた。


「まあ!姫様ったら、好きな方がいらっしゃいますのね!」

「お名前を教えてくださいませ!」


 とたんに作業を止めてぎらぎらした目を向けてくる二人の侍女は、普段のおっとりした様子とかけ離れていて恐ろしい。

 侍女たちにとって、他人の恋愛話は、代わり映えしない宮廷生活のほぼ唯一の娯楽だとカトレッチェも知ってはいたが、ここまで熱心だったとは。

 ドン引きだ。


「姫様もすみに置けませんわ~。幼くていらっしゃると思っておりましたのに、心密かに想う方がいるなんて。もう立派な貴婦人ですのね!」

「どなたなんです、姫様?わたくしたちの知らない方…なわけございませんわよねっ。ずっとお側におりますもの!」

「イ、イロンデル少佐…」


 迫力に押し負けて告げた途端、恥ずかしすぎて変な汗が噴き出した。

 真っ赤な頬を隠そうと俯いたカトレッチェは、侍女たちが戸惑ったように顔を合わせているのに気づくまで時間がかかった。


「イロンデル少佐…」

「あの方は…」


 困惑気味な二対の瞳がカトレッチェを映す。

 幼い王女は、二人の侍女から、淡い恋を粉々に砕く言葉を告げられた。








「というわけで、今日から三日間、あなたはあたくしの侍女よ、“イロンデル夫人”」


 なにが『というわけ』なのかさっぱり分からないまま、アントニアは王女の言葉にうなづいた。

 宮廷でもとりわけ華やかな一室――――王女の部屋の居間で、アントニアはカトレッチェ王女と向き合っている。

 身分的には面識があって当然の二人だが、社交の場より厩舎や兵舎にいることの多いアントニアがこれほど近くで王女と言葉をかわすのは初めてだ。王女とは年が離れているし、年の近い王太子とアントニアは絶望的にそりが合わないため、宮廷に遊びに来る機会も少なかった。

 二人の接点はほとんどないにもかかわらず、見上げてくる王女の瞳は、親の敵を見るように鋭くてしつこい。自分よりはるかに小さく、少し太って丸い少女に敵意丸出しで睨まれるのは、小動物に威嚇されたような気まずさを覚える。

 アントニアを上から下まで十二分に眺めたあと、カトレッチェ王女は「38点」とつぶやいた。


「あなた、本当にイロンデル夫人なの?あなたみたいな大女が?殿方は小さくて可愛いものが好きなのよ。あなたみたいな奥さん、イロンデル少佐が可哀相だわ!」

「ええ、私もそう思います!」


 つい勢い込んで肯いてしまったものの、なぜ今夫の名前が出るのか、なぜいきなり批判されるのか、アントニアにはさっぱり見当がつかなかった。頭の中は疑問符でいっぱいだ。

「生誕祭にあわせて、護衛代わりにもなるくらい腕の立つ侍女が欲しいの!最近物騒であたくし怖い!」と言って王女は自分を呼びだしたのではなかったか?名指しで侍女にと望んでおいて、なんで敵意丸出しなんだ?そして、なぜルキノ殿なんだ?

 まさか、王女がたまに護衛につくルキノに密かに恋していているとは、突飛すぎて予測できないアントニアである。ルキノの結婚と、妻にベタ惚れらしい様子を聞いた王女が、恋敵を見たいがためにアントニアを呼んだという変化球には、当然ながら反応できない。


「その上、馬にも乗るし剣も扱うんでしょう?蛮族の女みたいな方ね。イロンデル少佐はなんであなたなんかに夢中なの?」

「父の…いえ、個人的な事情ですので、申し上げかねます」


 上官命令で妻を娶ったというのは、例え周知の事実でも口に出してはルキノ殿に失礼だろう。


「それより、王女殿下はその“蛮族の女”の腕を見込んで侍女にと望んでくださったのでは?私がお気に召しませんか」

「それはだって、あなたはイロンデル少佐の…っ、ず、ずけずけとものを言う方ね!あたくしに失礼だわ!いくらレノー将軍の娘でも、軽々しく王室の真意を暴く行いは許しません!」

「…大変失礼いたしました」


 国王陛下はよくお忍びで将軍家の食卓に乱入し、父や自分に“王室の真意”とやらを積極的に愚痴っていらっしゃるが、そのことは伏せてアントニアは頭を下げた。

 ちなみに、王の愚痴の内容は最近はほぼ子どもたちの結婚の話だ。

「縁談申し込むときって、なんで皆ああ長ったらしい文章書くんだ?ムリムリ、読めねえよ。俺、本読むの苦手だし」とか「あいつらに嫁婿選ぶのって結構辛いんだよね。俺が独り身でさみしい思いしてんのに子供は幸せになるのかよ!みたいな?いっそ家族全員で独身通そうぜ!みたいな?」とか言っては父に睨まれている。王族がみんな独身とか本当にやめて欲しい。

 アレが…いや、あの方が自国の王か、と遠い目をしたアントニアは、「とにかく!」という王女の言葉に我に返った。 


「あたくしがあなたを気に入っていてもいなくても、あたくしのお誕生日が終わるまで、あなたはあたくしの侍女なの!お父様もいいって言ってくださったんだから、これは王命よ。心して取り組んでちょうだい」

「はい、近衛の騎士に劣らぬ働きをお約束申し上げます」


 アントニアの答えが気に入らなかったのか、王女殿下はツンと顎をあげる。

 どうやら自分は、王家の子供たちから嫌われる運命にあるらしい。

 前途多難な三日間が予測されて、アントニアは密かにため息をついたのだった。

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