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犬騎士と獅子姫  作者: 佐藤ヒトエ
超番外編
6/22

過日

感想をくださった方々、ありがとうございます!この話を読んでくださる方がいらっしゃると分かってとてもうれしいです。続きを投稿しようと思うのですが、その前に、いただいたご意見を受けて、超番外編を。王様と将軍のとある日です。

「お前んとこの姫をくれ」


 秋の風が心地よい兵舎の執務室で、ちょっと一休みとお茶を淹れたところだった。

 おつきの者もなくふらりと現れた王にぎょっとして椅子から腰を浮かしたレノー将軍は、開口一番告げられた言葉に更に驚いて目を丸くした。

 恐れ多くも国王陛下が「くれ」というのは、もちろんアントニアのことだ。相手は、おそらく王太子だろう。あの方となら、身分的にも年齢的にも釣り合っている。

 将軍も、娘を王太子妃にと全く考えなかったわけではないが、あの二人は決定的に仲が悪い。そのことは王も十分承知しているだろうに、わざわざ娶せようとなさるとは。他に適任者はいなかったのか?

 いやいや、いないわけないだろう、と主君を睨むが、王は机の菓子が気になるらしく、将軍を見てはいなかった。


「…どうぞ、召し上がってくださって結構。すぐにお茶もお持ちします」

「いや、それはいい。せっかく近衛兵を撒いたのに、すぐに見つかってはつまらん」

「さようで」


 コレが自国の王か、とは考えたくない。

 王位に就く前は、『ご学友』という立場もあって散々ド突いて罵っていたが、王となってしまってはさすがに出来ない。

 菓子を頬張る王を、将軍は黙って見守った。

 せっかくの休憩時間が台無しである。


「で、返事は?」


 机の上の菓子類を粗方食べ尽くした王が、行儀悪く机に座って将軍を見下ろす。

 将軍は答えに窮して口を結んだ。

 アントニアには、熱心な求婚者が複数名いる。「俺より弱いヤツに娘はやらん」と宣言した将軍の言葉に律儀に従い、アントニアではなく将軍にその想いを訴えに来るような愛すべき馬鹿たちだ。

 その中でもとりわけ大柄で、しつこく、真っ直ぐな男のことを考えると、「ぜひに」とは到底言えなかった。

 王太子に娘を差し上げることは、アントニアへの恋心一つで軍人として地位を築いたあの男の心を踏みにじってしまう気がする。


「…少し時間をいただきたい」

「あ?なに遠回しに断ろうとしてんだ貴様。国王が望んでんだぞ、喜んで応えろ」

「ふざけんなアホ。てめえの我が儘にいちいち応えてたら国が傾きかねんわ」


 横暴な物言いにとうとう地が出たが、王は咎めなかった。

 良くも悪くも気安い御方である。

 

「いや、今回のはそんな我が儘でもないだろ。お前の娘を王室に入れようって言ってんだからさ。姫君にもお前にもおいしい話じゃん。王妃だぞ?ヒエラルキーの頂点だぞ?やりたい放題できるんだぜ?」

「だから、王族にやりたい方題してもらっては困ると言ってる。うちの娘はてめえ等と違ってまじめだからな。背負った荷に圧しつぶされるほどヤワには育てちゃいねえが、重いと分かってるもんを押しつけたくもない」

「重荷ねえ、まあ確かに煩わしいがな」


 ボヤいて、王は将軍の茶を勝手にすすった。


「でも王妃だぜ~?チヤホヤされるぞ~。楽しいぞ~」 

「…さっきから王妃王妃ってな、少し気が早すぎやしねえか?お前んとこの息子の嫁なら王太子妃だろ?そりゃ、いずれは王妃かもしれんが、お前雑虫なみに長生きしそうだしな」

「誰が息子にくれって言ったよ。俺が欲しいっつったら俺の嫁に決まって…」

「却下だ」


 子持ちヤモメ、しかも限りなくクズに近い男にやるくらいなら、一生独身でも構わない、と将軍は思う。


「ひでえなあ、即答かよ。不敬な奴め」

「敬って欲しいならそれ相応の振る舞いをしてみろ」


 さすがにクズの自覚はあるのか、王は一瞬言葉に詰まったが、次の瞬間には「だって寂しんだもんよ」と駄々っ子のような事をのたまう。


「辛いんだぜ、独り身は。秋の夜風が寒くってさあ。そうでなくても最近物騒じゃん?異教徒区の奴らがすっかり過激派になっちゃって、『お命を狙われておりますから用心してください』とかってお前、怖いじゃん。強くて可愛い女の子に支えて欲しいと思っちゃうじゃん」

「お前の事情など知らんわ。というか、せっかくつけた護衛を撒いておいて言う台詞じゃねえぞ、それ。そこんとこ分かってんだろうな、クズ」

「ゴツくてむさいのは嫌なんだって。それに比べて、美人に育ったよなあ、アントニアちゃん。あんな子と一つ屋根の下で暮らしてるとか、ほんとお前が羨ましいぜ」

「てめえは歳の差を考えてものを言え。この変態。クズ。人間の底辺。あんまり好き放題しやがったら例え王でも剣を抜くぞ、俺は」

「いや、でもさあ~」


 くれ、やらん、大事にするから、黙れ変態と益体もなく言い合いながら、将軍は『この王に押し負けないうちに早くアントニアを嫁に出してやろう』と心に誓った。

 


 ルキノが将軍から一本取り、アントニアに求婚するのは、この日からひと月経った冬のこと。

 

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