(10)騎士たちの奮闘3
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「で、この広間にお前の“お猿さん”はいるわけ?」
そばかす面に濃いくまを作った軍人に腕をしっかりと捕まれて、青年は庭園に連れ出されていた。
金色の目を獣のようにギラギラさせた大柄な軍人が「百聞は一見に如かず。馬鹿に説明させるのは時間の無駄です」と意見した結果である。ひゃくぶんって何だ。まあ、どうせ新しい新聞の名前か何かだ。
軍人たちの会話から、青年は彼があの有名な犬騎士だと知ってしまった。自分を「ペドロ」と呼んだふざけたオカマも、よくよく見ればレノー将軍の腹心、ロベナ中将だ。
―――彼らのように名の通った軍人が二人も僕につくなんて、僕が国王級の重要人物であるいい証拠だ。まあ当然か、僕はこの計画の首謀者…ではないが中核をなしているからな。
それとも、僕の賢さを警戒してこの二人が僕の見張りに選ばれたのか?そうだ、そうに違いない。やはり僕は素晴らしい。最高位神ホペスよ、ウルドロス賢神よ、あなた方の子羊は金にも勝る価値を持っております。
化け物並の実力を誇る兵士二人がそろっているこの状況に、青年は恐怖よりも恍惚を覚えていた。
しかし、このままだと『信仰の解放』は叶わない。青年は三十八神の存在を国王に知らしめた聖人として名を残す代わりに、王女の暗殺を企てた逆賊の汚名を着せられてしまう。
それもこれも、先に捕まった同胞たちが僕の完璧な計画を明かしてしまったせいだが…。
神々の存在に気づけない愚かな民衆は、その事情を知ろうともせず青年を嘲り馬鹿にするだろう。そして、代わらず地上にもっとも近い最下位の神を信仰するのだ。
―――そんなこと、あってはならない。この間違いは何としてでも僕の手で正してみせる。
「“アホンドレ”坊ちゃ~ん、聞いてるかしらん?」
「僕はアンドレだ!無礼な呼び方を…っ痛い痛い痛い!」
ロベナ中将の目配せで、そばかす面の男が思いきり腕をひねり上げてくる。
涙目になりながら、後で覚えていろよ愚民が、と青年はくまの濃い顔を睨んだ。
「あらあらアホンドレちゃんったら反抗期?順調に育ってくれてるみたいで、フェルナンデス、う・れ・し・い。でもねえ、中尉を見てる暇があるならお猿さんを探してくれる~?」
「い、いない…」
「よ~く見るのよ~ん?ちゃんと探さないと、うちの中尉の手が滑って大事な腕が折れ…」
「ほ、本当にいない!〈サル〉は祝杯を用意しに帰ったんだ!」
「ああ、そ?へえ…おい、ルキノ。お前はどう思う?」
「姫がいません」
「は?」
「ちょ、少佐。いまそれどころじゃ、」
「王女もいません」
激情を押さえ込むように押し殺した犬騎士の言葉に、二人の軍人の顔色が変わる。
腕をつかむ力が動揺でゆるんだ隙をついて、青年はそばかす面の中尉を突き飛ばした。
「あっ、ちょっと待て…!」
ひどく焦った中尉の声に背中を追われながら、青年は全速力で駆けだす。
必ず王女を殺し、『信仰の解放』を果たしてみせる。そのために、まずは軍人たちを撒くのだ。
―――“あの”犬騎士とロベナ中将の手を逃れ、事を成し遂げたとなれば、僕はいよいよ天才といえる。
聖人として教会に祀られる自分を想像し、うっとりしながら、青年は逃げた。




