(8)大晩餐会2
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「ロベナ中将…?」
挙動不審な青年と連れだって広間を去って行った男を、アントニアは目にとめていた。
一体何が起こっているのか、軍人たちは園遊会以上に厳重な警戒態勢を敷いている。招待客にその緊張を悟らせないところはさすがだが、中将まで動いているとなると、事態は相当深刻だ。
王室に関わる何かがあったと見ていいだろう。
―――さて、自分は王女の側にいるべきか、それとも兵たちに任せるか…?
ルキノが聞いたら「離れていてください!」と即答しただろうが、アントニアにその心情を悟る能力はなかった。
「早く来てちょうだい、イロンデル夫人!あたくしの傍を離れちゃだめって言ったでしょう?!」
考え込んで立ち止まったアントニアを、王女が咎める。
園遊会でアントニアが側にいなかったことがご不満らしく、「大晩餐会ではあたくしといるのよ!あなたはあたくしの侍女なんだから」ときつく言い遣ってあった。
…邪魔にならないよう控えている、という選択は取れないようだ。
それではとことんお守りしよう、とアントニアは肩をすくめた。
「よ~し、もう一回聞くぞ~?“王女の暗殺計画を立てたのはだ~れだ?”」
「だから、僕だ!この完璧な計画は僕以外には立てられない!」
新たに地下牢の住人となった青年は、ちょっと…いや、相当頭がゆるいようだ。馬鹿すぎて尋問が通用しない。
ジャンに調書を取らせながら、ルキノは苛立って舌打ちをした。
アントニアに会っていないイライラと、危険な場所にアントニアがいるというイライラでルキノの精神は限界にきている。椅子に縛られた状態でルキノを見上げた青年が、ヒッと短い悲鳴を発した。
あんまり脅してやるなよ、怖がるとこの馬鹿黙っちゃうんだからさ、と中将が目配せでルキノを咎める。
ルキノから目をそらせず固まっている青年の前で、ロベナ中将はひらひらと手を振った。
「お坊ちゃ~ん、そっちのおっかない犬はいいから、こっちの質問に答えような?ほら、“王女の暗殺計画を立てたのはだ~れだ?”」
「だ、だから僕だ!こんな完璧な計画、僕以外の誰が立てると…」
「本っっ当にその答えでいいのか~?王女殿下暗殺の首謀者はお前ってことになっちゃうけど?大変だぞ~首謀者は。捕まえた連中全員の責任おっかぶるんだから、処刑は免れないだろうなあ?」
「……っ」
「さあて、もう一回だけ聞いてやろう。よ~く考えてから言いなさいよん?“王女の暗殺計画を立てたのはだ~れだ?”」
「〈サル〉だ!全部〈サル〉が考えた!毒も〈サル〉が用意したんだ。僕は利用されただけだ!」
「ほうほう、〈サル〉ね。名前は教えてもらってないってわけだ。それじゃあまず性別から聞かなくっちゃなあ。年齢、身長、髪と目の色、訛り―――覚えてること全部話しな。そいつとはいつどこで会った?毒をもらって、最後に別れたのはどこだ?」
「ちょっ、ちょっと待て、そんなに言われても覚えられない…」
つい、舌打ちしてしまった。
青年がヒッと悲鳴を漏らし、中将が「だからお前は殺気を隠せ」とこちらを睨む。
―――ああ、アントニアに会いたい。
あの凛とした声で「ルキノ殿」と呼んでもらえるだけで、苛立ちなど一瞬で吹き飛んでしまうだろうに。
今度は青年が無駄に怯えてしゃべれなくならないよう配慮して、ルキノはひっそりと息をついた。




