表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬騎士と獅子姫  作者: 佐藤ヒトエ
王女殿下の生誕祝い
13/22

(7)大晩餐会

 軍人たちが一層警戒を強める中、大晩餐会はカトレッチェ王女の挨拶から始まった。

 園遊会より一段と豪奢なドレスに着替えた王女が、十三歳を祝って掲げられた盃に笑顔で応える。集められた貴族たちは、物おじしない王女の様子を声を高くして褒めそやした。

 大晩餐会の広間には、王女に縁談を申し込んだ者たちも多く招かれている。

 隣国の公爵や属国の王子、自国の有力貴族のとその子息たちは、互いを牽制しつつ王女に熱心な視線を送ったが、王女が最初のダンスの相手に選んだのは実の兄…王太子殿下だった。

 なかなか決まらない王太子王女両殿下のご婚約が今回の生誕祝いで発表されるかも、と内心期待していた者たちは、兄妹のダンスに肩透かしを食らって一瞬沈黙し、やはり大げさに褒めそやした。

 王室にすり寄って権力を得ようとする人々は、王女殿下の一挙手一投足に注目している。

 広間を警護する兵が一層数を増やしたことに、彼らが気づくことはなかった。





「…すべて計画通りだ」


 ダンスを終えた王女が小さな胸を反らして自信たっぷりにお辞儀する様子を、青年は広間の隅から見ていた。

 ぽっちゃりした身体を派手なドレスで飾りたてた王女は、巨大な鳥のようにも思える。

 あの鳥…ではなく王女が生きていられるのも、あとほんの数刻だ。カトレッチェ王女はこれから、彼が差し出した毒入りのグラスを何も知らないまま飲み干すのだから。

 その瞬間を想像して、青年はうっとりとため息をついた。

 ああ、なんて素晴らしい計画。僕は本当に完璧だ。

 十三歳になったばかりの子供を殺すことに多少の罪悪感はあるものの、国王に真の信仰に気付かせるという大義の前には些細な罪。最上位神ホペスもきっと僕をお許しくださる、と青年は口元に笑みを浮かべた。

 どころか、『信仰の解放』を果たした聖人として、新しく三十八神を祀った教会史に名前が残るかもしれない。

 そうなったらどうしよう…いや、それで当然だな、僕はウルドロス賢神並に優秀だから、皆が聖人として讃えたがるのも無理はない。

 王女のダンスを終え、会場は一気に砕けた雰囲気になった。

 明るくテンポのいい音楽が流れ、人々が踊りや会話に興じるのを確認した青年は、壁際の長卓から飲み物のグラスをさりげなく選ぶ。

 懐中時計を確かめる振りをして毒の小瓶を取り出した。


「僕は出来る、僕は出来る、僕は出来る…よし、完璧だ。僕は出来る。最上位神ホペスよ、ウルドロス賢神よ、あなた方の子羊をお守りください」


 祈る声と毒を持つ手が緊張で震える…いや、そんなことはない。なにせ青年は完璧なのだ。これは、きっと武者震いだ。そうに違いない。

 思い切って小瓶を傾けると、グラスにぱたぱたと液体が垂れた。

 ーーーちょ、今何滴入った?!十滴…いや、七…六…四滴…違う、三滴だ。手が滑った拍子に三滴入った。〈サル〉は三滴でいいと言ってたからこれで丁度だ。うん、僕はどう転んでも完璧だな。

 あとは、これを王女に差し出すだけ。お誕生日の祝杯ですと言えば、怪しまれずに飲ませることができるはずだ。

 なんだかグラスの色が毒を入れる前と違う気がするが、まあ気付かれないだろう。変な匂いも…そんなにはしないし。

 慎重に瓶を懐に収め、唇をなめた青年は、毒入りのグラスを手に王女の方へ一歩進み――――――




「あらあ、ペドロ?ペドロじゃないの~!」


 低くかすれた男の声に阻まれた。


「こ~んなところで会っちゃうなんて、ぐ・う・ぜ・ん。大きくなったわねえ、ペドロちゃん。ちょっとあっちで旧交を温めましょう?うんうん、それがいいわ~そうしましょ~う」

「いやちょっと待て、ひ、人違いだ!僕はアンドレ…」


 何の勘違いでか強引に青年の腕を取った男は、気色悪い口調で捲し立てながら暗くなった庭園に青年の体を引きずる。

 ふざけた口ぶりのわりに男の力は強く、青年がもがいても離れなかった。


「アンドレ?あらあらそ~お?アンドレね、どこのアンドレちゃん?」

「バ、バーモンデだ!貴様、その無礼な手を離せっ」

「バーモンデ、バーモンデ…ああ、バーモンデ伯爵のお坊ちゃんなの。王女殿下毒殺の実行犯は、お大臣閣下の息子ってわけ。過激派連中に焚きつけられちゃって、お父ちゃんが泣くんじゃないの~?―――それとも、お前に毒を持たせたのが、この計画の真犯人かな?」


 いきなり口調を変えた男が、一層声を低くしてささやく。

 耳元に落とされたその内容に、青年はぎょっとして息をのんだ。


「は、離せ!濡れ衣だっ僕は違うっ」

「抵抗したら腕を折る。大人しくしてろよ、お坊ちゃん?お話なら、これからたっぷり聴いてやるさ。牢の中でな」



 恐怖に身体を震わせた青年を、ロベナ中将は地下牢まで引きずった。

読んでくださっている方、ありがとうございます。本当に本当に嬉しいです。感想、頂けると喜びます。次の投稿は少し時間をおきます。すみません。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ