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犬騎士と獅子姫  作者: 佐藤ヒトエ
王女殿下の生誕祝い
10/22

(4)生誕祝い2

 カトレッチェ王女の生誕は、園遊会と大晩餐会に分けて祝われる。まずは昼、園遊会だ。

 儀式ばった会でないため、参加者は皆ここぞとばかりに着飾っている。質はいいが動きやすく簡素なドレスを身にまとったアントニアには、それが孔雀の群れに見えて仕方なかった。

 派手な色彩と宝石の光で目がちかちかするのが辛い…。

 大晩餐会にはこの煌めかしさが更に激しくなると予測されるが、恐ろしいから考えたくない。

 アントニアの視界の先では、「ごきげんよう王女様」と真っ赤なドレスに緑のブローチの孔雀がお辞儀し、「本日はおめでとうございます」と白地に金と紫の刺繍を施した衣装の孔雀が王女の手を取っている。

 その王女も孔雀の親玉見たいなド派手なドレスを身につけていて、この場の誰よりも目立っていた。まあ、本日の主役は彼女なので、目立って当然と言えばその通りなのだが。

 孔雀感を増す華やかな化粧を施された丸い顔は、自信と喜びに輝いている。

 招待客の中を小さな身体を反らして練り歩くカトレッチェ王女を、アントニアは少し離れた場所から見ていた。


「ルキノ殿に会いたい…」


 ぽろ、と自分の口からこぼれた言葉にぎょっとする。完全に無意識だったのだ。

 無意識で「ルキノ殿に会いたい」って言った。それはまずい。なんだかとてもよろしくない。

 動悸を覚え、みるみる頬が熱くなる。

 いや、違う。何が違うか分からないけど違う。これは…そう、カトレッチェ王女の我がままに振り回されて、ちょっとおかしくなっているんだ、とアントニアは思おうとした。

 実際、「退屈だからなにか芸を見せてちょうだい」「風蘭堂の秋限定菓子が食べたいの!つくらせなさい!」といった無茶な要求に応えるのは正直とても辛かった。さらに王女は「服が地味ね。見ているだけで辛気臭い気持ちになるわ」「このお茶はイヤ。もう一回淹れなおして」とアントニアの行動にいちいち駄目だしをしてくださる。

 嫉妬心ゆえの意地悪と思えば可愛らしいが、アントニアには王女がルキノに恋しているなど分からないから、丸くてやらかい小動物に嫌われた気がして落ち込んでしまった。王室の子供たちとはつくづく相性が悪いらしい。

 事情を知るふたりの侍女は「獅子姫さまもお気の毒に」と思いつつ「姫様が満足するまでいびられてあげてくださいませ」「下手にかばってとばっちりを受けるのはごめんです」と見守るばかり。

 ―――この二日間が辛かったから、早く家に帰りたいなと思って、それでルキノ殿のことを連想してしまったんだ。きっとそうだ。そうに違いない。

 とろけそうな温度で見つめてくる金の瞳が恋しいとか、あの大きな腕に抱きよせて欲しいとかでは決してない、はずだ。

 うんうんと心の中で頷きながら、アントニアは怖かった。父に言われてしぶしぶ自分を娶った男に…自分を想ってはくれない男に心を傾けつつあるのだと、思い知らされた気がする。

 でも、仕方ないじゃないか。獅子姫などと呼ばれる自分に、あの方はとても優しくて、気にせずにはいられない…。


「いや違う。違うというか、だめだ。うん、そうだ…私は護衛、王女の護衛に集中しないと」


 しかし、会場のそこここに配備された近衛兵たちの姿を見る限り、自分の出る幕はない気がする。むしろ邪魔になりそうだな、と判断したからこそ、アントニアは王女から少し離れたのだ。

 兵士たちの置かれ方はうまく死角を補っているし、会場にも華やかに装った軍人が紛れており、もし何かあればすぐさま王女の盾となれる。

 兵士たちは園遊会の参加者に警戒を悟られないよう絶妙な具合に配置されているのだが、アントニアはごく自然に彼らの動きをみとっていた。

 こういう点に気づいてしまうあたりが、アントニアの『ご令嬢』らしくないところだ。レノー将軍家の姫だけあって、アントニアは並の軍人を凌駕する目を持っている。

 ―――この完璧な警備体制は何だ?毎年ここまで厳重だったか?それなら、なんで私は王女の侍女に呼ばれたんだ…。

 自分の出る幕がないなら、わざわざ生誕祝いに合わせて王女の侍女をした意味がないではないか、とアントニアは唇をかむ。まさか自分のためにルキノが兵を例年の倍に増員したとは考えつかない。

 どころか、『生誕祝いで王女を護る』という使命を思ってこの二日間を堪えたアントニアとしては、万全の警備が恨めしかった。

 本当に、なんのために自分はここにいるのだったか。


「帰りたい…」


 庭園から見上げた空は、ようやく夜に移ろうとしていた。 


 


読んでくださっている方々、ありがとうございます!ご意見ご感想、いただけたらすごくすごく喜びます。続編、七話完結で考えてたんですが、七話じゃおさまらないようです…。

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