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6,コンビニ

 「本当にあった怖い話」。

 表紙のおどろおどろしい絵柄からしてお化け系の体験投稿雑誌だろう。そんないかにも怪しげな安っぽい雑誌を曲がりなりにも(地元では)有名出版社の明るく楽しいヘルシーなタウン情報誌編集員の巻子が手に取ったのは、幽霊に追われるなんていう健全な一般市民ならまず一生お目にかからないであろう特殊なシチュエーションから脱出する手だてはないかとわらにもすがる思いからだった。

 何か役に立ちそうな記事はないかとぱらぱらめくっていくと、目に付いたタイトルがある。


『 女につかれたわたし  ——投稿者 東京都武蔵村山市 MIX命さん 』


 ふむふむ、投稿者のペンネームは気に入らないが、とにかく読んでみよう。


『 もう十年も前のことになってしまいましたが、わたしは大好きなMIXのコンサートを静岡まで遠征して観た帰り、電車に乗りましたが、住んでいるのが東京とは名ばかりの田舎のため、乗り継ぎの途中で終電が終わってしまいました。ベテランファンなのでそれは計算のうちで、駅近くのパーキングにマイカーを止めてありました。深夜タクシーを利用するよりもずっと安いパーキング料金を支払い道路に出ると、まるで待っていたように向かいの歩道で手を振る若いギャルがいます。終電の終わった駅周辺にはけっこう若い遊び人達がうろついていたりするものなのでそんな子の一人が、わたしがパーキングに入っていくのを見つけて送ってもらおうと追いかけてきたのだろうと考えました。

 わたしはコンサートで盛り上がってイケイケ気分になっていたので、窓を開け、取りあえずギャルの体つきを観察しました。ところが驚いたことに、歩いてきたナイスバディーの彼女は、わたしが大ファンのMIXの、中でも大好きなマナちゃんそっくりのかわい子ちゃんだったのです。わたしは興奮を抑えてさりげなくききました。

「ヘイ、彼女、どうしちゃったの? 何かお困り?」

 彼女は微笑んで窓に顔を寄せて話しかけてきました。

「電車終わっちゃって困ってるんだあ。お兄さん、うちまで送ってくれないかなあ?」

 彼女の息は甘酸っぱいレモンの香りがしました。わたしはさらに興奮を抑えなければなりませんでした。

「うーん、どうしようかなあ? 家はどこ? まだ遠いの?」

「八王子よ。駄目?」

「八王子かあー…、ちょっと遠回りかなあー?」

 わたしは彼女の「感謝のお礼」を期待してちょっとじらしてやりました。それで逃げられちゃったらもったいないですが、わたしはかなりドキドキして彼女の返事を待ちました。

「ねえお願い。朝までこんなところでうろうろしてなくちゃ駄目なんてつらいよお。ね?お願い、助けて」

 具体的なお礼はいただけそうもありませんが、大好きなマナちゃんそっくりのギャルをこんな所に置いておくのもしのびなく

「分かった。いいよ、送ってあげるよ」

 と承知しました。

「わあ! ありがとう、お兄さん!」

 彼女は嬉しそうに言って車を回って助手席に乗り込んできました。隣に座られるとミニスカートから伸びた白い太ももが眩しいです。わたしはかなり懸命に理性を保たなければなりませんでした。

 そこはちょっとした若者文化の町で、彼女は女友達とクラブで遊んでいたのですが、友達の方は男にナンパされて途中でどこかに消えちゃったそうです。マナちゃんをナンパしないとは馬鹿な男です。わたしがMIXのコンサートを観てきた帰りだと言うとわあ!いいですねえ!わたしも大好きですう!と言うのでコンサートの詳しい様子を微に入り細に入り解説してやりました。とても楽しいドライブでした。

 さて八王子に至り彼女のナビゲートで郊外の道路を走っていくと、

「あそこよ」

 と指さします。

 その家を見てわたしはちょっと驚きました。

 銀色の、まるで空飛ぶ円盤みたいな家です。

 なんなんだこのサイケでマニアックな家は?と思いましたが、となりがラブホテルだったのでなんとなく納得しました。

「ありがとう」

 とお礼を言って彼女は車を降りました。わたしは名残惜しく、ちょっと気にもなって聞きました。

「ここで家族で住んでるの?」

「うん。姉たちと住んでるの。よかったら少し寄ってく? 車だからお酒は出せないけど」

「うん、お邪魔します」

 わたしは誘われるまま駐車場に車を入れ、彼女に手招かれて「プシューー…」とSFチックに上から開いてくるドアの裏側の階段を上がってUFOの中に入っていきました。

 そこは、めくるめく桃色の世界でした。まるで隣のラブホテルの部屋みたいです。

「あらいらっしゃい。お客様?」

 MIXのマナちゃんには三人のお姉さんがいましたが、その三人は、なんと!、MIXの残りのメンバー、ニナちゃん、ルーナちゃん、リンナちゃんにそっくりで、彼女たちはなんとMIX四姉妹だったのです!

 彼女たちはわたしにとてもフレンドリーにしてくれ、わたしは四人を相手にめくるめく一夜を過ごしたのでした。

 帰り道のことはもう夢の中のように全く覚えていません。気がつくとわたしは会社の寮の駐車場で車に乗ったままぼうっとしていました。コンサート会場でグッズを買いあさるためにごっそり貯金を下ろしていった財布がなくなっていましたが、あまり気になりませんでした。まだけっこう残っていたのですが、買いあさったグッズはちゃんと残っていたので満足です。

 翌日あの場所に行ってみましたが、隣のラブホテルはありましたが、彼女たちのUFOハウスは無くなって、ホテルの駐車場になっていました。

 わたしが思うに、彼女たちは宇宙人だったのではないでしょうか?

 地球人の男の事を調べるために、実験対象の脳波を探って好みの女性のタイプを読みとり、その女性に変身して実験対象、つまりわたしに、近づき、まんまと自分たちの「実験室」に連れ込み、あれやこれやと肉体を存分に調べまくったのではないでしょうか? 何か痛いことをされた覚えはなく、とっても気持ちいい倦怠感だけが残っていました。彼女たちが宇宙人だったとしてもわたしは全然後悔していません。

 もう十年も前のことです。わたしももう40になろうという年ですが、今もMIXの大ファンです。年老いた親にはあんたももういい年なんだからいつまでもおばさんになっちゃったアイドルなんて追っかけてないで、将来のことを考えてまじめに結婚相手を捜しなさい、と説教されますが、大きなお世話です。あの夢のような一夜以来、わたしはすっかり女性に対するエッチな欲望がわかなくなってしまいました。きっと宇宙人の彼女たちに男性のエキスをすべて吸い取られてしまったのだと思います。けれど今もあの夜のことを全然後悔なんかしていません。

 MIXはわたしの永遠のミューズです。全員結婚して子持ちになっても、わたしは永遠に彼女たちのファンを続けます。————おしまい 』



 雑誌を握りしめる巻子の手がぶるぶる震えた。

「夢のような一夜だあーあー? 夢なんだよ、ぶわあ〜〜か! アイドルに憧れて現実見てねえんだよ! いい加減目え覚ませやおっさん! なにくっだらねえSFネタはさんでやがんだ、この大馬鹿編集者! 財布取られて、ラブホテルでいいことしてもらったんだろう!? 全財産巻き上げられて放心してんじゃねえよ、アホ! ていうかラブホテルだったのか?最初から女の子がエッチなサービスしてくれる店だったんじゃねえのか? この、ど阿呆ううう!!!!」

 巻子は怒りのあまりすっかり興奮してしまった。こんなアホな投稿、書く方も書く方だが、載せる方も載せる方だ。このアホ雑誌!

 ハッと我に返ってレジカウンターを見ると、メガネのバイト店員があからさまな迷惑顔で、

「お客さん、深夜ですのでお静かに」

 と注意してきやがった。巻子はすんませ〜んと頭を下げて、でも立ち読みをやめてやる気はない。

 しかしこの雑誌は少しでもまともに役に立つのだろうか?…………まあいいや、どうせ朝までの時間つぶしだから。でも徹夜は覚悟しないとなあ……、お肌に悪いわね、あーあ……………。

 ぱらぱらページをめくるがろくな記事がない。心霊写真なんて、

『天井に浮かぶ怨念の絶叫顔』

 って、今さら木目が人の顔に見えるっていったい昭和何十年代のネタだ? おのれら雑誌編集者としてポリシー持っとるんかい! ていうか、これはギャグ雑誌なのか!? 全然怖くもねーし、明らかに「実話」じゃねえだろう?

 巻子はページをぱらぱらやりながら、世の「心霊」という物に対する温度を思い知り、幽霊なんかに脅かされている自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

 だいたい「うらめしや〜」って出てきて、何がしたいわけ? 幽霊なんて出てきた時点が一番怖くて、出て来ちゃったら、それから何だって言うのよ?

 そうよ、こっちが怖がって逃げるから調子に乗って追いかけてくるけれど、幽霊が何するっていうのよ? 貞子? カヤコ? トシオくん? 花子さん? そんな恐ろしい幽霊の「実話」なんか聞いたことねーぞ? 実際の幽霊って、けっきょく、「居る」っていうだけじゃない? キャーッて逃げ出して、ああ怖かった、って、そんな話ばかりじゃないの? 存在が怖いだけで、実際、実害ってなんかあるわけ? 運が悪くなったり?、体調がおかしくなったり? まったく迷惑千万な、こっちが祟ってやりたいわよ! 神社のお祓いにも保険が利けばいいのにさ。高いんでしょう?お祓いって? 神様もボリやがるわよねー、困った人間の足もと見て商売してんじゃないわよ、まったく、ぶつぶつぶつ……。

 さてこれが現実を直視した結果の態度なのか、はたまたこれこそ現実逃避なのか分からないが、ページをぺらぺらやっていた巻子は、巻末近くの広告ページに目を留めた。



『 あの、紅倉美姫先生が、あなたの心霊相談に乗ってくださいます! 』



 巻子は目を陰険に細めた。

 なに?この高ビーな言いぐさは? 胡散臭〜〜。

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