10,マンション
マンションに帰ってきてみると、
大騒ぎになっていた。
パトカーで警察官が駆けつけ、警備会社の警備員も駆けつけていた。
近所の人たちが不安そうに道ばたからマンションを眺めていた。彼らの話に聞き耳を立ててみたところ、マンション内で恐ろしい暴力事件があったらしい。若い(よしよし)女の悲鳴が響き渡り、その尋常ならなさに住人が警備会社や警察に通報したようだ。話を聞いて巻子は、
『……………わたしだ、間違いなく…………』
と思い、どうしようどうしようと迷っているうち、あの役立たずの茶髪誘導員におせっかいに
「あ、あの人です!」
と指さされ、おまけに付近をパトロールしていたお巡りさんに入り口で倒れているところを発見されたメガネコンビニ店員に
「変なパジャマ女に思い出すのもおぞましいひどいことをされた」
と血塗れの手で訴えられ(わたしがやったわけじゃないだろう!)、怖い顔の警察官達に取り囲まれ住人や近所の皆さんの白い目にさらされた巻子は、観念し、女幽霊に追いかけられていたことを白状したが、まあ予想通りまともに信じてもらえず、追いつめられて、けっきょく、
「12階で佐伯さんという女性がお風呂で殺されているはずです………」
と告白し、驚いた警察官に半信半疑ながら調べられると、確かに、1205号室の一人暮らしの女性が殺されて浴槽に入れられているのが発見され、そりゃもうそれまでとは比べ物にならない大騒ぎになった。巻子は何故佐伯みどりが殺されているのを知っているのか?もうしゃれにならないほど厳しく尋問され、涙ながらに
「だからあ、本人の幽霊にさんざん追いかけられて怖い思いをしたんだからあ〜〜」
と繰り返した。泣きながら巻子は、
くっそ〜〜、こんなことなら変な遠慮なんかしないでもっと大騒ぎしてマンション中の住人を叩き起こしてやるんだったあー…………
と、大変悔しい思いをした。
けっきょくそのまま翌日(日にちつながりだが)まで警察署にご厄介になることになり、佐伯みどりの殺害されたのが前日(日をまたいで前々日)の昼の時間で、その時間巻子は編集室でばりばり働いていたのを同僚達に証言してもらい、かつ、佐伯みどりを殺害した恋人がスピード逮捕され、男は巻子とまったくなんの関係もないらしいと見られ、ようやく午後になって解放された。
編集部に顔を出すと、印刷所に入稿が済んだ後の和気あいあいとした雰囲気のところ、いやあ巻子さん、たいへんだったわねえ?、とハイテンションな笑顔で、
「で? 幽霊、見ちゃったの? どんなだった?」
と興味津々で訊かれた。
う〜〜〜〜〜、といじけていた巻子だったが、そうだわ、そうよね?、と思い直した。
わたしは、確かに、幽霊を見た!
事件は、わたしのおかげで、解決したんだから、もう幽霊に祟られる心配もないだろう。だったら、
思いっきり幽霊を見たことを自慢してもいいじゃない?!、と。
「今夜飲みに行くんでしょ? みんな、おごってちょうだいよ?」
と、幽霊話を肴に思いっきり大好きな本生ビールを仲間達にたかってやろうと思った。